自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★メディアのツボ-27-

2006年11月17日 | ⇒メディア時評

 韓国や中国の新聞社のインターネット日本版を最近よく読む。これらの新聞メディアが日本をどう見ているの興味があるからだ。それにしても目に付くのは、かつて日本のバブル時代のような記事である。面白そうな記事があったので紹介する。

       海外メディアの裏読み

  韓国・中央日報の11月17日付のインターネット版だ。景気がよい中国の外資系製薬会社の一行が大挙して韓国・済州島を訪れたという記事。以下は抜粋。

  「…済州道(チェジュド)の中文観光団地は中国人であふれかえった。12日から17日まで済州道で開かれる2006バイエル・チャイナ・コンファレンスに参加するため、なんと1600人余の中国人が一斉に訪れたのだ。 世界的な製薬会社バイエルの中国法人に勤務する職員らだ。 バイエルの職員らは数機のチャーター便で済州に来ることもできたが、万一の事故に備えて航空機には分散して搭乗しなければならないという内部規定に基づき、11日から3日間にわたり50-100人ずつ50便余に分かれて済州入りした。 行事期間の費用は計50億ウォン余(約6億円)。」

  「…16日の行事では営業社員1200人に現代(ヒョンデ)車ラヴィータを1台ずつ支給するという内容を発表した。 もともとアバンテに決まっていたが、北京タクシーがアバンテという理由でラヴィータに変更された。 李社長は、中国人職員らが写真撮影のために列をつくるほど人気者だ。」

 ようするに、中国の製薬会社の経営者(韓国人)が済州島で社員旅行をやって、1200人の営業社員に韓国車を与えたという話だ。記事では、韓国人経営者はなんと太っ腹かと賞賛する内容だ。記事のポイントは、1200人の営業社員に車を与えたとうところにありそうだ。当初は中国車である北京現代のアバンテXD(現地名エラントラ、中国警察の公式車)を支給することを考えていたが、韓国産の現代ラヴィータに変更したら大変喜ばれたとの記述である。

  この記事には2つの読み方がある。一つは必要経費としての営業車の問題だ。営業マンなのだから、当然、営業車があってしかるべきで、それを会社所有とせずに個人名義で与えるということだろう。当然、個人所有は会社から贈与されたことなるので社員は喜ぶ。ところが冷静に読めば、交通インフラが遅れている中国では交通事故が頻繁に起きる。なので、営業車を会社名義より個人名義にしておた方が会社としてのリスクは回避できる、と読んだ方がよさそうだ。

  もう一つのポイントは、中国車から韓国車に変更したという点。これは単なる性能の問題だろう。中国のタクシーが国産のアバンテなので、そこらじゅうに走っている車は欲しくないと従業員が進言して、ちょっとグレードが高い韓国産の現代車に変更したと意味と解釈した方がよさそうだ。中央日報は祖国愛にあふれた経営者というふうに表現したかったのだろうが、きちんと読むと、むしろこの韓国人経営者の企業防衛に配慮した深謀遠慮が伺える内容だ。

  もちろん日本にいる我々の基準で判断すると海外現地の事情を見誤ることが多いだろう。言いたかったことは、海外の新聞の場合、日本語に訳された記事の額面どおりに読むことは難しいということだ。新聞記事はどこの国も注意深く客観的に書いてあるとは限らない。日本の場合は海外に比べて分析も豊富でそれなりにバランス感覚を保っているが、海外のメディアも同じだと思ったら大間違いだ。あのメディア大国、アメリカでも、テレビ局の公平中立を旨としたフェアネス・ドクトリンをとっくの昔(1987年)に廃止し、政党色を強くしている。海外メディアは裏読みが必要なのだ。

⇒17日(金)午後・金沢の天気  はれ  

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