自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆GIAHS国際会議の価値-3

2013年06月01日 | ⇒トピック往来
  今回の世界農業遺産国際会議の価値というのはどこのあるのだろうか。一つは、31日の閉会式で挨拶した国連食糧農業機関(FAO)のクレイトン・カンパンホーラ土地・水資源部長が評価したように、世界11ヵ国19あるGIAHSサイトで、今回初めて国際会議が開催されたことだろう。これまで3回の国際会議は、2007年がローマ、09年がブエノスアイレス、11年が北京だった。

      能登コミュニケから読み解く、日本にかかる期待

  このことは、GIAHSサイトが有する「交流価値」を広げたことになるだろう。もちろん、能登で開催できたのは、農林水産省や石川県などが予算的、人的にバックアップしてのことだが、他国のGIAHSサイトでは伝統的な村落の集合体のようなところであり、国際会議を開催しようにも施設の収容力などの点で難しいだろう。ところが今回、首都に出向くのではなく、サイトで集まるという状況が能登で設定できたのである。採択されたコミュニケではそのことが盛り込まれた。「日本の石川県能登地域で開催された今回の世界農業遺産国際会議は、先進国での、またGIAHS認定サイトでの開催となった初の世界農業遺産国際会議であることに留意する(原文:Note further that the this Forum held in Noto region, Ishikawa Prefecture, 」apan, is the first GlAHS international Forum to take place at a GIAHS designated site in a developed country)」。さらに、この交流価値を結びつきの場として活かすべきだと、以下の勧告がなされた。「先進国と発展途上国の間のGIAHSサイトの結びつきを促進すること(原文:Promote the twinning of GIAHS sites between developed and developing countries)」

  カンパンホーラ部長は上記コミュニケで先進国と途上国の連携を促した意義を述べ、「GIAHSを通じて先進国、途上国の間でつながりをつくり、情報と成功事例を共有することで、GIAHSの経験を世界に広げてほしい」と強調した。簡単に言えば、国際会議を開くことができる先進国(日本)のサイトは、他国の途上国のサイトと連携して、GIAHSの価値を世界に広めてほしい、それが先進国のサイトの役割であると期待されたのだ。

  カンパンホーラ部長はなぜこのように思ったのか。会議開催もその理由の一つだが、29日に候補地としてプレゼンテーションを行った、熊本県、静岡県、大分県のそれぞれの知事、地域の代表が行ったスピーチ(英語)は迫力があった。熊本などは、それこそオリンピック候補地として名乗りを上げたかのように、地域(阿蘇)を上手に売り込み、GIAHSの未来可能性を説得した。これを聞けば、「ぜひ情報と成功事例を共有して、途上国のGIAHSへのモチベーションも高めてほしい」と思うに違いない。

  GIAHS基金代表のパルヴィス・クーハフカン氏(GIAHS事務局長)=写真=は講演でこう述べた。「FAOではGIAHS認定にふさわしい伝統的な農業システムとして世界中で200 ほど特定し、そのうち19 のシステムを認定した。しかし、開発が進んで農作業が一律化し、その貴重なシステムがあっという間に消えることもある」、「私たちは、GIAHSにふさわしいシステムを見つけたら、基本的に三つのレベルで調整作業を行います。まずグローバルなレベルでシステムを認定します。国レベルでは動的保全のための発展政策を策定します。ローカル・レベルでは、人々に力を与え、これらのシステムが発展し、維持されるようにして、エコラベル、エコツーリズムなどで多様化を図ります。グローバル・レベル、国レベル、ローカル・レベルでこれらの活動をつなぐのです」、「GIAHSは過去にまつわるものではなく、将来を見据えたものです。ごくわずかな農場を博物館に保存しようというのではありません。将来性のある農業をいかに発展させていくかということを問題にしています」(2月19日・能登で開催した国際GIAHSセミナーで)

  これは個人的な解釈だが、両氏のコメントはこのように聞こえる。伝統的な農業システムというのは世界どこでも「絶滅危惧種」化しつつある。これを守り、未来のつなげることは持続可能社会を世界に提示する上でも重要だ。しかし、これはFAOが単独できることでもない。日本のような先進国のチカラを借りたい。日本ならば独自で国際会議やネットワークづくりができる。カンパンホーラ部長、クーハフカンGIAHS事務局長からそのような、叫びにも似た声が聞こえる。

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