世界農業遺産国際会議(5月29日-6月1日)を終えてから10日余り、これまで2度、世界農業遺産(GIAHS)に関して講義をする機会に恵まれた。きょう12日午後、アメリカのプリンストン大学の学生らが石川県に滞在して日本語と日本の文化について学ぶ「PII(Princeton in Ishikawa)」プログラムの講義があった。学生はプリンストン大やハーバード大など16大学の50人、それに金沢大学の学生65人が加わり、大教室での講義となった=写真=。
世界農業遺産、アメリカの学生からの質問
講義(90分)のテーマは「Noto’s Satoyama Satoumi~Omnibus consideration ~」。言葉は日本語で、文字表記と資料は英語、あるいは英語と日本語の両表記にした。歴史や文化、そして現代まで遡って講義をするとなると、いくら日本語研修とはいえ、学生たちには理解できなだろうと思い、そのようにせてもらった。講義は次のような流れで話した。
2011年6月、能登の里山里海は国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産(GIAHS=世界重要農業資産システム)に認定された。持続可能な、未来へと続く、里山里海での人々の生き方が高く評価されたからだ。自然と調和することの意味は、たとえば生物多様性に配慮して農業や漁業を営むことだ。そして伝統文化では、自然からの恵みに感謝する儀式がある、と前置きして、輪島の海女漁、ユネスコの無形文化遺産に登録された農耕儀礼「あえのこと」、そして、生物多様性条約事務局長、アフメド・ジョグラフ氏が2008年9月に能登を視察に訪れたときのエピドーソを紹介した。
能登の祭りのルーツともいわれるユネスコ無形文化遺産「あえのこと」は目の不自由な「田の神様」を丁寧にもてなす農耕儀礼である。これは視覚障がい者にどのように手を差しのべればよりよい「もてなし」が可能か、家々の人が自らのイメジネーションを膨らませて考えるエアー・パフォーマンスである。その精神はユニバーサル・サービスでもある。こうした「もてなし」の風土や精神は「能登はやさしや土までも」といわれる能登の風土をつくった。そのもてなしはアニュアル化されたものではなく、ホスピタリティ(癒し)である。
ジョグラフ氏は自らカメラを構えて、能登の風景を撮影し、土地の人々の話に耳を傾け、「自然と人、農業、文化、宗教が共生していることに感動した」「そこには人々の努力があることを実感した」と感想を述べたことを話した。こうした、能登の農村漁村の自然と調和し恵みに感謝する精神性、農耕儀礼などの伝統文化、そして2000年続いた農業漁業には、その営みを持続可能にする人々の伝統知や知恵があり、それをベースに地域社会を弛まず保全していけば、未来への可能性が広がる。それをGIAHSでは「Dynamic Conservation(動的保全)」と呼んでいる。
学生からは以下の質問があった。「GIAHSという言葉はアメリカでは聞いたこともない」。この質問には以下のように答えた。GIAHSはFAO(国連食糧農業機関)が提唱しているアジア、アフリカ、そして中南米のムーブメントで現在25ヵ所の認定サイトがある。200の候補地があるとFAOでは説明している。2011年に日本のサイト(能登と佐渡)が先進国として初めて認定された。FAOの候補地にはスペインのエべリコ豚やイタリアのソレント半島のレモン園、アメリカのカリフォルニアのパナ・バレーの有機ワインも入っている。いずれ、このムーブメントは欧米にも広がる。単なる農業というより、文明というものを示唆するムーブメントである。
もう一つ。「日本も交渉に参加するTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋戦略的経済連携協定)では、能登の農林漁業にどのような影響が考えられるのか」。この質問には以下のように返答した。GIAHSサイトの農業のほとんどは小農、家族経営であり、その意味では生産効率の高いアメリカやオーストラリアの大規模農業とは農業形態がまったく異なる。しかし、GIAHSでは価格競争力ではなく、付加価値の高いブランド農産品を目指していて、たとえば能登の稲作では「能登米」「能登棚田米」としてブランド化を図っている。TPPのような農産品のグローバル取引の到来がむしろ世界農業遺産(GIAHS)の評価を押し上げていくのではないだろうか。
後で聞いた話だが、2人目の鋭い質問をした男子学生はハーバード大学からの研修生だった。
⇒12日(水)夜・金沢の天気 はれ
世界農業遺産、アメリカの学生からの質問
講義(90分)のテーマは「Noto’s Satoyama Satoumi~Omnibus consideration ~」。言葉は日本語で、文字表記と資料は英語、あるいは英語と日本語の両表記にした。歴史や文化、そして現代まで遡って講義をするとなると、いくら日本語研修とはいえ、学生たちには理解できなだろうと思い、そのようにせてもらった。講義は次のような流れで話した。

能登の祭りのルーツともいわれるユネスコ無形文化遺産「あえのこと」は目の不自由な「田の神様」を丁寧にもてなす農耕儀礼である。これは視覚障がい者にどのように手を差しのべればよりよい「もてなし」が可能か、家々の人が自らのイメジネーションを膨らませて考えるエアー・パフォーマンスである。その精神はユニバーサル・サービスでもある。こうした「もてなし」の風土や精神は「能登はやさしや土までも」といわれる能登の風土をつくった。そのもてなしはアニュアル化されたものではなく、ホスピタリティ(癒し)である。
ジョグラフ氏は自らカメラを構えて、能登の風景を撮影し、土地の人々の話に耳を傾け、「自然と人、農業、文化、宗教が共生していることに感動した」「そこには人々の努力があることを実感した」と感想を述べたことを話した。こうした、能登の農村漁村の自然と調和し恵みに感謝する精神性、農耕儀礼などの伝統文化、そして2000年続いた農業漁業には、その営みを持続可能にする人々の伝統知や知恵があり、それをベースに地域社会を弛まず保全していけば、未来への可能性が広がる。それをGIAHSでは「Dynamic Conservation(動的保全)」と呼んでいる。
学生からは以下の質問があった。「GIAHSという言葉はアメリカでは聞いたこともない」。この質問には以下のように答えた。GIAHSはFAO(国連食糧農業機関)が提唱しているアジア、アフリカ、そして中南米のムーブメントで現在25ヵ所の認定サイトがある。200の候補地があるとFAOでは説明している。2011年に日本のサイト(能登と佐渡)が先進国として初めて認定された。FAOの候補地にはスペインのエべリコ豚やイタリアのソレント半島のレモン園、アメリカのカリフォルニアのパナ・バレーの有機ワインも入っている。いずれ、このムーブメントは欧米にも広がる。単なる農業というより、文明というものを示唆するムーブメントである。
もう一つ。「日本も交渉に参加するTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋戦略的経済連携協定)では、能登の農林漁業にどのような影響が考えられるのか」。この質問には以下のように返答した。GIAHSサイトの農業のほとんどは小農、家族経営であり、その意味では生産効率の高いアメリカやオーストラリアの大規模農業とは農業形態がまったく異なる。しかし、GIAHSでは価格競争力ではなく、付加価値の高いブランド農産品を目指していて、たとえば能登の稲作では「能登米」「能登棚田米」としてブランド化を図っている。TPPのような農産品のグローバル取引の到来がむしろ世界農業遺産(GIAHS)の評価を押し上げていくのではないだろうか。
後で聞いた話だが、2人目の鋭い質問をした男子学生はハーバード大学からの研修生だった。
⇒12日(水)夜・金沢の天気 はれ