自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆イフガオ再訪-2

2013年11月26日 | ⇒トピック往来
   出鼻をくじかれた。25日は小松14時55分発の成田空港行きANA便に乗る予定だったが、強風のため欠航となった。そのため、成田17時5分初のマニラ行きのANA便も搭乗は無理となった。航空会社と掛け合い、小松20時00分発の羽田空港行きのANA便に振り替え、成田で宿泊、翌26日9時30分発のJAL便でマニラ向かうことになった。航空会社との交渉は実に3時間余りに及んだ。天候理由による他社便への振り替えサービスは原則として行わないのだという。そこはこちらも粘った。20時00分発の羽田空港行きも風で遅れに遅れ、到着は22時26分だった。本来ならばマニラに到着する時間と同じくらいだ。京浜急行の最終便にようやく乗って都内のホテルに宿泊できた。

         イフガオの棚田へ、人で協力するODA     

  きょう26日は成田9時30分発のマニラ(ニノイ・アキノ)国際空港行きの便で、現地時間で14時ごろに到着した。時差は1時間だ。空港で両替をする。この日の円とペソの交換レートは0.43、つまり1ペソ2.32円だ。マニラは晴れてはいたが、乗合タクシーのジープニーなど車が激しく行き交い、クラクションもやまない。そして、ジーゼルエンジンの排気ガスのにおいが充満している感じだ。ガソリンスタンドに目をやると、ジーゼルが1㍑44ペソ、レギュラーガソリンが1㍑50ペソとなっている。円換算でレギュラーが116円。正規雇用の最低賃金が月7000ペソと言われる、フィリピン人の庶民にとっては随分と高値だ。そしてホテルに入るとテレビや新聞はレイテ島を襲った台風の被害を伝えている。

  今回、何の目的でイフガオへ行くのか。国際協力機構(JICA)の「草の根技術協力(地域経済活性化特別枠)」に申請していた「世界農業遺産(GIAHS)『イフガオの棚田』の持続的発展のための人材養成プロゴラムの構築支援事業」が採択が内定した。これは、金沢大学、石川県、JICA北陸の三者で話し合って、石川県が提案団体として事業申請したものだ。採択内定を得て今後事業を本格化させるためには、相手国の行政や機関との実施事業に関する合意文書(Minutes=覚え書き)の取り付けが必要となる。そのために、今回、実施パートナーとなるイフガオ州政府やフィリピン大学オープン・ユニバーシティ、イフガオ州立大学を訪問し、実施概要の説明と了承を得る。「草の根技術協力」とは、JICA が政府開発援助(ODA)の一環として行っている事業で、技術協力の意味合いは人を介して知識や技術や経験、制度を移転することを指している。ODAと聞くと、高速道路などハード面のインフラをイメージするが、この事業はあくまでも「人の協力」となる。

  では、人が協力する「世界農業遺産(GIAHS)『イフガオの棚田』の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」とは何か。その前に、イフガオの現状について触れる必要がある。イフガオ棚田はフィリピンで5件あるユネスコ世界遺産の一つだ。人と自然環境が調和して2000年かけて創り上げた景観、と評価された。世界文化遺産「フィリピン・コルディリエラの棚田群」。指定されたのは1995年12月で、日本の「白川郷・五箇山の合掌造り集落」やフランスの「アヴィニオン歴史地区・教皇殿」が同じタイミングだった。しかし、その6年後(2001年12月)に世界遺産委員会が「危機にさらされている世界遺産リスト」(略称「世界危機遺産」)に入れた。

 ユネスコ世界遺産委員会が指摘した点は主に6点だった。1つ目に、棚田の保全するためフィリピン政府によって現地タスクフォース(実行委員会)ができたにもかかわらず政府からの支援が欠けている、2つ目に25-30%の棚田が耕作放棄され、棚田の土手の崩壊につながっている、3つ目が不法な開発(住宅など)が発生して景観が失われている、4つ目に国際的な支援が提供されていない、5つ目がマニラから棚田群へ行くための道路インフラが整備されておらず観光への支援がない、6つ目が現状が変わらなければ10年以内に世界遺産の価値は失われるだろう、というものだった。

  2011年1月に訪れた折、上記の「危機リスト」は目に見えていた。広がる耕作放棄、田んぼの真ん中にある住宅群、土砂崩れどなど。しかし、政府の支援などあって2012年12月には危機遺産のリストからは解除された。フィリピン大学のイノセンシオ・ブオット教授(生態学)は「危機は去ってはいない。若者たちの棚田への意識を高めないと耕作放棄は増えるばかりだ」(2013年1月・金沢でのシンポジウム)で訴えた。実は、イフガオの棚田を保全する若者たちの人材養成プログラムを現地でやってみようという発想はここから芽生えた。

26日(火)夜・マニラの天気    はれ
コメント (1)
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