自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ハイブリッド戦争

2017年01月13日 | ⇒メディア時評
  昨日(12日)未明のトランプ時期大統領の初めての記者会見をテレビで視聴していて、この大荒れの会見が次の時代の到来を端的に象徴してると実感した。注目したのは、CNNのホワイトハウス担当記者が「報道機関を攻撃するのであれば質問のチャンスを与えてください」と訴えたの対し、トランプ氏は「あなたのところ偽ニュースだ」と質問をさせなかった。

  この偽ニュースとは、会見の前日(11日)に報道されたロシアのアメリカ大統領選への関与かんするニュースだ。以下、11日付のCNNウエッブ版(日本語)。「ロシアがトランプ氏の個人情報や財政情報も集めていたことを示す極秘文書が含まれていたことが分かった。事情を知る複数の米当局者がCNNに語った。」「添付文書の内容からは、ロシアがもともと米民主、共和両党について情報を収集していながら、民主党のクリントン陣営に不利な情報だけを公開していたことがうかがえる。ロシア政権がトランプ氏に肩入れしていた事実が裏付けられたと指摘する当局者もいる。」「文書の基になっているのは、英国の情報機関、対外情報部(MI6)の元工作員がまとめた35ページ分のメモだ。CNNはメモ自体の内容も入手したが、その詳細については独自の確認が取れていないため報道を差し控える。」

  少々長くなったが、要点はロシアはトランプ氏に有利に大統領選挙を進めるためにサイバー攻撃など行い、それだけでなく、ロシアはトランプ氏の個人情報や財政情報なども収集していた。しかし、この程度の記事で怒りの矛先がCNN記者に向かうものだろうか、と。

  というのも、ロシアがアメリカ大統領選の期間中、民主党のクリントン陣営幹部らにサイバー攻撃を仕掛け、メールを含む大量の情報を収集し、クリントン陣営に不利な情報だけを告発サイト『ウィキリークス』などに提供した疑いがあるということは、この記者会見でトランプ氏も「ロシアがやったと思う」と認めているのである。

  事の真贋は別として、この記者会見での様子を見て、「ハイブリッド戦争」という言葉を思い起こした。2014年ロシアが宣戦布告をせずにウクライナのクリミア半島に非正規軍を送り込んで制圧し併合した手法が「ハイブリッド戦争」と世界で言われるようになった。従来の国家と国家という争いの構図ではなく、非国家組織(極右や極左集団、テログループ、民兵などの非正規軍、サイバー攻撃集団、経済詐欺集団など)が、国家レベルではなく、狭い範囲で戦争に起こす構図だ。

  ロシアが前回のアメリカ大統領選で、民主党のクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けたのも、明らかにハイブリッド戦争だろう。サイバー攻撃だけでなく、経済的手段やメディアを利用する方法もある。相手の社会に深く入り込んで、内部から政治的な意思を突き崩す方法である。おそらく、トランプ氏もこのハイブリッド戦争の仕掛け人になるのではないか。それも陰に隠れてではなく、堂々と実行するのがトランプ流かもしれない。この手法にメディアは無力だ。なぜなら、本来アメリカでもウオッチドッグ(権力監視)がメディアの役目だが、そんなものは不要というのが、あのトランプ氏が記者会見で見せた攻撃的なスタンスだった。

  なぜ、トランプ氏がCNNを目の敵にという理由をもう一つ。それは日本のメディアとはまったく異なる状況がアメリカにはあるからだ。日本のテレビ局は放送法の中で定められている、政治、とくに選挙での公平中立を守らなくてはならない。ところが、アメリカでは公平中立を旨としたフェアネス・ドクトリンがとっくの昔(1987年)に廃止され、テレビ局は政党色を強く押し出して報道している。たとえば、FOXは共和党、CNNは民主といったところが代表的だ。だから、もともとトランプ氏は民主党色が強いCNNを嫌っていたのだろう。このままだとメディアは無力化することになるのではないか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    くもり時々あめ
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