自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「安楽死」議論は避けられない

2020年07月24日 | ⇒ニュース走査

   全身の筋肉が動かなくなる難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)で、京都に住む51歳の女性からSNSで「安楽死させてほしい」との依頼を受けた宮城と東京の男性医師2人が薬物を投与して女性を死なせたとされる事件=写真=。この報道で率直に思うことは「安楽死の議論をいつまで放置しておくのか」だ。

   不治の病に陥った場合に本人の意思で、医師ら第三者が提供した致死薬で自らの死期を早める「安楽死」は基本的に認められていない。現在の法律では嘱託殺人や承諾殺人、自殺ほう助の罪に問われる。今回の事件で、医師2人は嘱託殺人の疑いで逮捕された。ただ、患者や家族の同意で延命措置を中止する「尊厳死」は医療現場で容認されている。

   問題は安楽死を認めるか、認めないかだ。昨年2019年7月の参院選挙では、「安楽死制度を考える会」から9人が立候補し、この議論を全国に広めようとしたが争点にはならなかった。超高齢化社会を迎えて、自らの人生の質(QOL)を確認して最期を迎えたいという願いやニーズは確かにある。しかし、日本では尊厳死や安楽死に関する法律はまだない。これは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。もちろんさまざまな議論があることは承知している。問題は、国会がその議論をずっと避けてきていることだ。オランダやスイスは安楽死を合法化している。

   この議論は避けられないのだ。内閣府の「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、2030年には75歳以上は2288万人と推定される。高齢となった自身が不治の病に陥った場合、おそらく主治医に致死薬で自らの死期を早めるようお願いするだろう。身内の話だが、92歳で他界した養父は胃がんだった。「90になるまで生きてきた。世間では大往生だろう」と摘出手術を頑なに拒否した。安らかに息を引き取った。尊厳死だった。

   自らの人生のQOLを確認して最期を迎えたいという願いはこれから高まるだろう。オランダやスイスに行って安楽死する必要はない。これは日本の人権問題ではないだろう。今回の事件が投げかける意味は深い。メディアには、犯罪報道ではなく、安楽死についての議論として世論提起をしてほしい。逮捕された2人の医師を擁護するつもりはまったくない。

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