自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆経営陣と労組の関係性を読む

2020年07月26日 | ⇒ニュース走査

   4連休の中いろいろニュースを見聞きしたが、中でも、「なぜ」と感じたのが、テレビ朝日労組が民放労連を脱退したことだった。「テレ朝労組が申し入れ、同日(25日)開かれた民放労連大会で賛成多数で承認された。民放労連によると、キー局の脱退は初めて」(25日付・共同通信Web版)。

   共同通信によると、テレ朝労組は脱退理由として、運動方針に対する考え方の違いのほか、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなる中、組合費の負担が重くなったことを挙げているという。しかし、労連には日本テレビやTBS、フジテレビなど全国の放送局や放送関連プロダクションが加盟している。組合費の負担が脱退理由の一つだが、テレビ朝日だけが、テレビ広告費の低迷や新型コロナウイルスの影響で業績が厳しくなっているわけではない。むしろ、運動方針に対する意見の相違ではないか。

   そこで、テレ朝労組の脱退の背景を探ろうと、民放労連の公式ホームページにアクセスした。同日(25日)開かれた民放労連大会は第131回定期大会で、今回はリモート会議の形式で開催された=写真=。「アピール」では、「同一労働同一賃金を定めた働き方改革関連法が4月から施行され、・・・先行する単組の成果を民放労連全体に広げ、働きがいのある産業にしなくてはならない」、あるいは、「民放における男性中心の職場環境を改めるためにもジェンダーバランスを改善し、他者を敬う社内風土を培い、ハラスメントの被害者も加害者も出ない職場を作ろう」とある。しかし、運動方針に相違があったことや、テレ朝労組脱退の事実関係も触れていない。

   冒頭のニュースでは、「賛成多数で承認」とあるので、どのような運動の方針をめぐる意見の相違が脱退を招いたのか、事実関係を明示すべきだろう。うがった見方をすれば、「賛成多数」という場の空気はおそらく2つある。一つは、テレ朝労組がもともと民放労組の方針に異議をとなえ、煙たがられていた存在だった。あるいは、労連の時代感覚はもう古い、その役割は終わったとテレ朝労組が先陣を切って脱退を表明し、それに賛同する他の労組も多い。あるいはそのミックスかもしれない。

   考察するヒントが労連の公式ホームページにあった。2019年12月26日付で中央執行委員長名で出された談話「テレビ朝日『報道ステーション』スタッフ「派遣切り」の撤回を求める」だ。2020年4月の番組リニューアルに向けて、社外スタッフを大量に契約終了させたのは、事実上の「解雇」に相当すると主張している。番組が継続するにもかかわらず、「人心一新」を理由にスタッフの雇用不安を引き起こすような人員の入れ替えを行うこと、社会に一定の影響力を持つメディア企業としてあってはならない、と。「放送で働く労働者を組織する民放労連として看過できない」と述べている。

   この問題を「しんぶん赤旗」Web版(2020年2月14日付)も取り上げている。2つを総合して読むと、いきさつはこうだ。昨年2019年9月5日発売の「週刊文春」と「週刊新潮」(ともに9月12日号)が「報道ステーション」のチーフプロデューサーによるセクハラ事件を報じた。これを受けて、9月24日にテレビ朝日の会長は記者会見で、報道局のこの男性社員をハラスメントに当たる不適切な行為で謹慎処分としたと認めた。看板番組のチーフプロデューサー(最高責任者)が処分されたとなると社内は尋常ではない。そこで、テレビ朝日は番組の「人心一新」を図るため、ことし4月に番組リニューアルに向けて、社内外のスタッフを入れ替えることにした。社外スタッフは映像制作会社からの派遣ディレクターで人数は10数名、ことし3月末での契約打ち切りも通告された。

   この派遣ディレクターの契約打ち切りが労連でも問題となったことから、テレビ朝労組は会社側と交渉した。そして、派遣ディレクターについては「新たな雇用先を確保する」(民放労連公式ホームページ)、「次の配属先を見つける」(「しんぶん赤旗」Web版)と雇用確保についての会社側の言質を得た。ところが、委員長談話では、最後にテレ朝こそ企業として「人心一新」をはかれ、と求めた。テレ朝労組とすれば、会社側に派遣スタッフの雇用確保の言質を得た段階で難問をうまくまとめたつもりだった。それが、テレ朝の経営者は辞めろとまで労連から言われると立つ瀬がなくなる。

   経営陣と労組の関係性はある意味で信頼関係の上で成り立つものだ。テレ朝労組は労連内部でいたたまれなくなり、距離を置くことにした。それが今回の脱退のいきさつだろうか。あくまでも自らの経験も交えた憶測である。

⇒26日(日)朝・金沢の天気     くもり時々はれ

コメント (1)
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