自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★続々・北ミサイルと「餓死」発言

2017年06月25日 | ⇒トピック往来
   石川県の谷本知事が県議会一般質問(22日)で答弁していたころ、北朝鮮の弾道ミサイル発射に不安を募らせている日本海の漁業者らが農林水産大臣に対して安全確保を要請する陳情行動を行っていた。

   JF全漁連(全国漁業協同組合連合会)が同日、東京で緊急集会を開催。この中で、石川県漁業協同組合の笹原丈光組合長が参加者を代表して意見表明を行い、「先月29日にミサイルが落下した日本海の海域は石川県のイカ釣り漁師が操業する漁場に近い。それでも生活のために漁に出ざるをえない」と不安を訴えた(NHK金沢ニュース)。このあと、全漁連の関係者らが農林水産省を訪れ、山本大臣に対し、▼漁業者の安全を確保するため、あらゆる手段を用いて弾道ミサイルの発射を阻止することや、▼万が一、被害が生じた場合は国が救済策をとることを要請した。これに対し、山本大臣は「北朝鮮のミサイルが日本の排他的経済水域内に落下すると、漁業者が萎縮して、漁業が停止しかねない」と述べ、政府全体で対処したいの考えを示した(同)。

   23日朝、新聞紙面を開くと広告欄(5段)で「弾道ミサイルが日本に落下する可能性がある場合、Jアラートを通じて屋外スピーカーなどから国民保護サイレンと緊急情報が流れます」と背景が黄色の目立つ広告が目に入った。政府広報で「弾道ミサイルが日本に落下…」という文字がいろいろ想像を掻き立てる。テレビでもCM(30秒)が流れている。普通に考えれば、その緊急性が迫っているとも受け取れる。政府は予めアメリカなどから情報を得て、「6月下旬が危ない」と。しかし、露骨に情報開示をすると、国民がパニック状態に陥る。そこで、政府広報でワンクッション置くカタチで国民に周知をしている。でなければ、税金を使ってこのような大々的な政府広報を打つだろうか。まったく勝手な想像だが。

   谷本知事が22日の県議会一般質問で、自らが発した発言「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させなければならない」(21日・県町長会)を撤回した。23日、在日本朝鮮人総連(朝鮮総連)の石川、福井、富山の3県本部の役員が石川県庁を訪れ、知事あてに抗議文を提出し、謝罪を求めた。抗議文では「前代未聞の暴言であり、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺や関東大震災時の朝鮮人大虐殺を彷彿とさせる」と記している(24日付・朝日新聞石川版)。

   北朝鮮の弾道ミサイルをめぐる一連のニュースの流れをどう読むべきなのか。今回の知事発言はもともと一般の支持を得られるような内容ではない。一方でこのような報道もある。県庁にはメールや電話での意見が相次ぎ、23日午後4時時点で290件に上っている。「少し問題じゃないか」などと批判する意見がある一方、発言に賛同する声もあり、賛否は半々という(24日付・北陸中日新聞)。

   この記事に、オックスフォード英語辞書が選んだ2016年の言葉「post-truth(ポスト真実)」を思い出した。この単語は、客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況を示す形容詞だ。ニュースは新聞、テレビだけでなく、インターネットなど多様化している。むしろ、若い世代の情報源はソーシャルメディアが多い。すると、これまでの新聞やテレビなど既存のメディアが提供する事実に対して不信感を高めることにもなるという現象が起きる。知事の発言内容より、「知事はそれだけ心配しているのだ」との同情が賛同への言葉となる。post-truthはメディアの曲がり角を表現する言葉でもある。

⇒25日(日)朝・金沢の天気   あめ

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