乳がんを発病し、闘病していた小林麻央さんが死去したこと報じられた。34歳で、夫は歌舞伎俳優・市川海老蔵さん。1男1女をもうけ、2014年に乳がんであることが分かり、療養を続けていた。ニュースに接して、その若さといい、いたましいと思う。
マスメディアは、闘病していた小林麻央さんのブログ「KOKORO.」(2016年9月開設)を紹介し、ほぼ毎日更新していたことや、亡くなる直前まで、病気に前向きに立ち向かう姿勢と周囲への感謝に満ちた内容をつづっていたことを取り上げている。そのメディアの報道に接するにつけ、大いなる違和感を感じる。問題は、34歳の若き命をなぜ医療は救えなかったのか、ということだ。メディアの論点がずれているのではないか、そう実感している。私自身、妻を乳がんで亡くした。彼女は55歳だった。だからなおさらそう思うのだ。
乳がんは女性で最も罹患者数が多い。国立がん研究センターの統計によると、10年生存率は、発見時点でステージ1は95.0%、ステージ2は86.2%。だが、ステージ3だと54.7%、ステージ4だと14.5%まで下がる。小林麻央さんはステージ4でのがん治療だった。乳がんの治療をしても、リンパ節や肺、脳への転移などより進行した状態で見つかる傾向がある。そして、いくら抗がん剤や分子標的治療薬を施して効かないタイプ(トリプル・ネガティブ)の乳がん)もある。
2014年2月に亡くなった妻はトリプル・ネガティブだった。2012年11月に乳がんの摘出手術をして、乳房の再建も施した。その時点で医師は「完璧です」と言った。しかし、翌年2013年9月に肺に陰が見つかり、胸腔鏡手術で患部を取り除いた。その後、脳にがん細胞が点在しているのが見つかり、ガンマナイフでの治療を施した。しかし、脳全体に腫瘍がはびこり、肝臓などの臓器に転移が見つかった。若いとがんの進行度が速いと医師から何度も聞かされた。彼女が亡くなる間際まで、日本の医療を信じていた。抗がん剤にしても「これが最先端のもの」と聞かされ、本人は生き延びたいとすがる思いで服用していた。彼女が亡くなって、医療って何だとふと思うようになった。55歳の命がなぜ救えないのか、と。
同じように小林麻央さん34歳の命がなぜ救えなかったのか。市川海老蔵さんも同じ思いではないだろうか。亡くなったことが当然のようにメディアは報じ、ブログが周囲に感動を与えたなどと美談に仕立てている。何度も言うが、世界に冠たる日本の医療でなぜ34歳の命を救えなかったのか、乳がん治療の限界はどこにあるのか、どうすれば転移を防げるのか。メディアが取り上げるべき論点は、34歳の女性の命を救えない医療の現実を直視し、報道することだ。医療を批判することではもちろんない。
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しっかり標準治療をされた奥様とは、事情が異なるかと思います。