前回ブログの続き。能登半島の尖端に位置する珠洲市が力を入れて取り組んでいるイベントがある。それは「奥能登国際芸術祭」。ことしは第3回展となり、9月2日から10月22日まで51日間の予定で開催される。日本海に突き出た半島の尖端の芸術祭のキャッチフレーズは「最涯(さいはて)の芸術祭、美術の最先端」である。
総合プロデューサーの北川フラム氏は「さいはてこそが最先端である」という理念と発想を芸術祭で問いかけている。かつて江戸時代の北前船の全盛期では、能登半島は海の物流によって栄えたが、近代に入り交通体系が水運から陸運中心へとシフトしたことで、「さいはて」の地となった。そこで、北川氏はアーチストたちと岬や断崖絶壁、そして鉄道の跡地や空き家など忘れ去られた場所に赴き、過疎地における芸術の可能性と潜在力を引き出してきた。
2017年の作品の一つ、『神話の続き』(作者:深沢孝史)。珠洲の海岸に創作された「鳥居」である=写真・上=。かつて能登には寄神(よりがみ)信仰があった。大陸からさまざまな文明がもたらされた時代、海から漂着した仏像や仏具などは神社にご神体として祀られ、漂着神となった。神は水平線の向こうからやってくるという土着の信仰だ。時代は流れ、現代の「寄神」は大陸からもたらされる大量の漂着物(廃棄物)なのである。作者はその漂着物を地元の人たちといっしょに拾い集めて、作品を創った。文明批評を芸術として表現した。
新型コロナウイルス感染拡大で一年延期となった2021年の第2回展で、北川氏は家仕舞いが始まった市内65軒の家々から1600点もの民具を集めて、モノが主役の博物館と劇場が一体化した劇場型博物館『スズ・シアター・ミュージアム』を造った。8組のアーティストが民具を活用して、「空間芸術」として展示している。
江戸、明治、大正、昭和など各時代の文物を珠洲じゅうから集めたとあって、中には博物館として目を見張る骨董もある。「海揚がりの珠洲焼」がそれ=写真・下、「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより=。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だった。各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、幻の古陶が時を超えて揚がってくることがある。まるで上質なタイムカプセルに触れるような心癒される作品だ。
第3回展のことしはどのような作品にお目にかかれるのか。「より深く地域の潜在力を掘り起こし、諸外国にも珠洲の魅力を伝えていきたい」と北川氏は抱負を語っている(2023年度版パンフから引用)。インバウンド観光を意識した何か仕掛けがあるのかもしれない。
⇒2日(木)夜・金沢の天気 くもり
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