今回もアルツハイマー病の新薬がアメリカのFDAで承認された話題を。新薬「アデュカヌマブ」の開発に携わった日本の「エーザイ」の株価が8日、9日と連日でストップ高となり、株式投資家の間でも注目の的になっている。定年を過ぎて株式投資を楽しんでいるという知人がこのブログを見て、メールを送ってきた。「オレは厚労省が承認したとしてもこの薬は点滴しない。だって、ボケた者勝ちだよ」と。
その後、知人とメールで何回かやりとりして、「ボケた者勝ち」の言葉の背景を知ることができた。知人の父親はアルツハイマー病ですでに亡くなったが、自宅で奥さんといっしょに入浴や食事、排泄などの世話をしていた。80歳を過ぎてボケが始まったころは独りでトイレに行っていたが、そのうちにトイレがどこにあるのかも分からなくなった。介助しようとすると、「何する」としかられ、その都度「トイレへ行こう」と言うと、「世話かけるな」と礼を言う。また、5分もたつと忘れてしまい、同じことを繰り返した。
ただ一つ発見したことがあったという。何かと心配性だった父親の顔から不安げな表情がなくなり、ボケたとは言え、表情が以前よりはつらつとしていた。不安なことはすっかり忘れて、自分が言ったことや行ったことも覚えていない状態。「父にとって毎日が新鮮な気分なんだろうと思えるようになった。幸せなんだろうと」
確かに、頭脳は普通に動いているが、自分が寝たきりになって、食事や入浴、排泄の介護を受ける自分の姿を見て、何を思うだろうか。家族や周囲との人間関係のしがらみを記憶から一切外し、家族に面倒や世話をかけていると認識もせずに、その日を暮らしていければ、それで十分ではないか。「ボケた者勝ち」とはそういう意味ではないかと知人から教えられたような気がした。
「エーザイ」の公式ホームページによると、アメリカ人の平均体重74 kgの場合の点滴投与は1回当たり4312㌦、4週間に1回の投与で年間コストは5万6000㌦、つまり610万円となる。自らの「ボケ封じ」に金を注ぐより、貧困にあえぐ難民の子どもたちへの教育や環境問題と向き合っているNGOに寄付をした方が後悔しないですむかもしれない。
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