11月のことを旧暦の月名では神無月(かんなづき)と称する。ここ出雲では神在月(かみありづき)と称することを初めて知った。神無月と神在月は何がどう違うのか。島根県立古代出雲歴史博物館の企画展「神々が集う」のチラシによると、この時季、全国の神々、つまり八百万(やおよろず)の神が出雲に集い、全国各地では神がいなくなるので神無月に。出雲では全国から集うので神在月となるそうだ。さすが出雲は神話のスケール感が違う。
きのう(24日)高校時代の同級生おっさん3人のドライブ旅は朝に姫路を出発、正午ごろには松江を巡り、夕方に出雲に到着した。松江では島根名物「割子そば」を食した。朱塗りの丸い器が三段重ねになっていて、そばが盛ってある。それに 刻みねぎ、おろし、削り節などの薬味をのせ、つゆをかけて食べる。そのつゆはトロリとした濃いめで、ソースのような。そばと言えば、信州そばなのだが、物知りのおっさんの一人が「出雲のそばは松江藩初代の松平直政(徳川家康の孫)が、信州松本から出雲に国替えになってつくられるようになったそうだ」と教えてくれた。入ったそば屋のパンフにも、直政がそば職人を信州から一緒に連れて来たとも記されていた。出雲そばと信州そばは歴史的なつながりがあるようだ。
そば屋を出て、国宝の松江城の堀を歩くと、城と堀と松の老木、そして白壁の武家屋敷街が一体となった歴史的な空間が心を和ませてくれる。少し坂を登ると、茶室「明々庵」がある。パンフには、大名茶人として知られた七代の松平治郷(号・不昧=ふまい)が造った。庭を眺めながら、そばの後の一服。不昧公はこう述べたそうだ。「茶をのみて 道具求めて そばを食ひ 庭をつくりて月花を見ん その外望みなし 大笑々々」。至福のひとときは現代でも通じるのでないか。
話は冒頭の出雲の神の話に戻る。午後4時に出雲大社に到着すると。拝殿では神等去出(からさで)の神事が執り行われていた。出雲大社に集合した八百万の神が今度はそれぞれの国に帰る儀式。大社にある19の社(やしろ)の依代(よりしろ)が絹布で覆われて拝殿に移される=写真・上=。祝詞が奏上され、神官の一人が「お立ち、お立ち」と唱えた。この瞬間に神々は出雲を去った、とされる。まるでデジタルの発想だ。この神事を大勢の参拝客が見守っていた。
「きょう竹内まりやさんはいらっしゃいますか」と旅館のフロントに尋ねると、「先週は来られたのですが、きょうはいません」と。出雲大社の門前町にある旅館「竹野屋」での会話。同級生おっさん3人は歌手の竹内まりやのフアン。出雲に泊まるのならば当地出身の竹内まりやゆかりの旅館で、となった。フロントでの質問は本人は時折帰省しているとの情報をネットで得ていたため。それにしても、明治初期に造られた老舗旅館は風格あるたたずまい。この家で生まれ、大社の境内で幼少期にはどんな遊びをしたのだろうかなどとおっさんたちの想像は膨らんだ。
夕食にゆでカニが出た。島根県沖の日本海で取れた由緒正しい「松葉ガニ」かと想像したが、品書きには「ズワイガニ」と記してあった。けさ(25日)の朝食では「しじみ汁」が出されたので、「宍道湖のシジミですか」と問うと、男性の給仕係は「ジンザイコ産です」と。シジミと言えば、宍道湖産ではないのかと一瞬いぶかった。神西湖は大社の西側にある汽水湖で宍道湖よりも近い。竹野屋とすれば、神西湖で採れたシジミが地元産なのだ。カニはおそらく山陰地方の漁港で揚がったものではなかったのだろう。客とすれば「松葉ガニ」「宍道湖のシジミ」を期待するのだが、そうしたブランド物にあえてこだわらない経営方針なのだろう。「愚直」という言葉が脳裏に浮かんだ。温泉地ではない、参拝客が旅装を解く門前通りの旅館なのだ。
竹内まりやはデビュー40周年だが、テレビメディアにはほとんど露出しない。ミュージシャンとしての人生を愚直に貫いている。その竹内まりやのライブ映像を映画化したシアターライブが今月23日から全国の映画館でロードショーされている=写真・下=。「あの伝説のライブが今、蘇る! お久しぶり、まりや!」がキャッチコピーだ。「神在月」でにぎわう出雲の一日を堪能した。
⇒25日(日)午前・出雲市の天気 くもり
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