きょうは二十四節気のひとつ「大寒」。夕方からゴーゴーと風の音が響く。まさに冬将軍の到来を告げる天の声だ。天気予報によると、週明けにこの冬一番の強い寒気が北陸付近に流れ込み、来週の24日ごろから平野部、山沿いともに警報級の大雪になるおそれがある。気温もかなり低くなる見通しで、25日の金沢の最高気温がマイナス1度、最低気温がマイナス4度となっている。
一方で、この冬の寒さは発酵食に最適だ。かぶらずし(ブリと青カブラのこうじ漬け)や大根ずし、そして日本酒も今が一番忙しい時節だ。中でも、「なれずし」は魚を塩と米飯で乳酸発酵させる能登の伝統食だ。なれずしは琵琶湖産のニゴロブナを使った「ふなずし」が有名だが、能登ではアジやブリ、川魚など種類が豊富だ。なれずし独特の匂いがあり、なじめない人も多いが、食通にはたまらない味と匂いだろう。とくに「ヒネもの」と呼ばれる2年以上漬け込んだものは格別だ。
前置きが長くなった。日本の3大魚醤と言えば、秋田の「しょっつる」、香川の「いかなご醤油」、そして能登の「いしる」「いしり」だ。イカの内臓やイワシを発酵させたもの。能登では材料がイワシのものを「いしる」、イカの内臓のものを「いしり」と称するが、場所によっては呼び方が異なる。
大学教員の時代に学生や留学生たちを連れて、能登の「いしる・いしり」加工工場を何度か見学した。貯蔵庫入口のドアを開けると、発酵食の原点でもある魚醤のタンクがずらりと並んでいる。そして、とたんに発酵のにおいに包まれる。発酵のにおいは不思議だ。「ヤバイ」と言いながら鼻をふさぐ者もいれば、「どこか懐かしいにおいですね」と平気な学生もいる。フランス人の女子留学生は逃げるようにして遠ざかった。
魚醤は日本料理のほか、イタリア料理の隠し味としてもニーズがある。この加工工場の経営者の話では、イタリアから製品化について問い合わせがあるとのことだった。能登の魚醤がヨーロッパに進出するかもしれない。
その「いしる・いしり」がきょうニュースになった。朝日新聞Web版によると、国の文化審議会は、「能登のいしる・いしり製造技術」を国の無形民俗文化財に登録するよう文部科学大臣に答申した。天然の発酵力を生かした製造技術には地域の特色があり、発酵調味料の製造技術の変遷や、地域差を理解する上で重要だと評価された。能登のいしる・いしり製造技術のほかに、近江のなれずし製造技術(滋賀県)も同じく答申された。日本の発酵食文化のシンボルとして殿堂入りする。
⇒20日(金)夜・金沢の天気 くもり時々あめ
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