フィリピンの1000ペソ紙幣の裏側に棚田が描かれている=写真・上=。高度1欧米人000-1500㍍に展開する棚田。この風景を見た欧米人は「天への階段」とイメージするそうだ。1995年にユネスコの世界文化遺産に登録されてから、海外からのツアー客が格段に増えた。25日に宿泊したイフガオのホテルのレストランでは、英語だけでなく、おそらくオランダ語が飛び交っていた。アジア系の顔は我々だけだった。何しろ、マニラから直行バスで9時間ほどかかる。コメ作りが日常で行われているアジアでは、それだけ時間をかけて、田んぼを見に行こうという観光客はそういないのかも知れない。
人材養成でソフト協力事業の国際モデルをめざす
そのイフガオのホテルのレストランに一枚の棚田の大きな写真が壁面に飾られていた。写真の横幅は3㍍もあるだろうか。白黒の、おそらく数十年前の写真。紙幣にあるような、山並に一面に広がる見事なライステラス(棚田)だ。26日朝からさっそくそのビューポイントに撮影に出かけた。確かにスケール感があり、日本の棚田と比べても、イフガオ族の米づくりに対する執着というものが伝わってくる=写真・下=した。
数十年前の写真と比較をしてみる。右下の三角状の小山は現在も同じカタチだが、全体に樹木が広がっている。とくに左下の棚田は林に戻っている。また、そして右真ん中くらいに展開していた棚田はすでに耕作放棄されているのが分かる。私は農業の専門家ではないが、素人目でもこのエリアは数十年前の写真を見る限り、20%ほどの棚田が消滅しているのではないだろうか。写真を撮っていると、民族衣装を着たお年寄りの男女が数人寄ってきた。「1人20ペソでいっしょに撮影できる」という。お年寄りの小遣い稼ぎだろうが、この現在の棚田の現状を見て、その気にはなれなかった。
話は「イフガオ里山マイスター養成プログラム」に戻る。20人の受講生は月2回程度の集中講義を受ける。教員は6人体制で行う。その中心を担うのが、フィリピン大学オープン・ユニバーシティーのイノセンシオ・ブオット教授(生態学)。今回のプロジェクトの発案者の一人でもある。2013年1月、金沢大学里山里海プロジェクトが主催した「国際GIAHSセミナー」の基調講演で、「イフガオ棚田の農家が耕し続けるために、景観を商品として扱うのではなく、コミュニティの中で持続的に守るべきもの」と話した。その後、能登を訪れ、能登里山マイスター養成プログラムの修了生たちと懇談した。修了生の前向きな取り組みを聞き、「ぜひイフガオの若者のために、里山マイスター養成プログラムのノウハウを教えてほしい」と中村教授と話し合ったのがきっかけだった。
受講生たちの学びの場はイフガオ州立大学となる。セラフィン・L・ゴハヨン学長は、「受講生には、イフガオのために自らが何かできるか考えてほしい。大学も彼らのために何ができるかを考えたい。今回のイフガオ里山マイスター養成プログラムをイノベーションモデルと位置付けている。そして、彼らに考える、研究するノウハウを生涯学習として提供していきたいと思う。それが大学ができることだ」と。日本からJICAプロジェクトが来たから、何か特別なことをするのではなく、地域の大学として持続的に支援していく。それが地に足のついた人材養成というものだ。
よき提案者と理解者がいて、このプロジェクトは国をまたいでスタートする。人材養成というソフト協力事業の国際モデルとなるかどうか、いよいよ新たなチャレンジが始まる
⇒26日(木)夜・イフガオの天気 はれ
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