いま金沢大学「角間の里山自然学校」の研究員がはまっているのが「デジタル昆虫図鑑」である。市販のスキャナで撮った昆虫の画像だ。スキャナなのでフタをするが、直に載せると虫が潰れてしまうので、フタとガラス面の間に薄手の雑誌など挟んで隙間をつくる。1㌢ほどの大きさならば十分に足の毛まで写るのである。小さなものをこうして撮影できるとなると格段に昆虫への理解も深まる。
クローズアップのジャーナリズム
実はこれは放送でいうクローズアップの手法なのである。普段見ない小さなもの、肉眼では見えないもの大きく拡大することで新鮮さを演出したり、人々を驚かせたり、ひきつけたりする。科学番組などでよく使う手法だ。NHKには「クローズアップ現代」という番組もある。
テレビ朝日の政治討論番組「サンデ-プロジェクト」のキャスターを務めるジャーナリストの田原総一朗氏は実はこのクローズアップの演出方法に精通した一人だ。著書「テレビと権力」(講談社)の中で、「『たのしい科学』が私のルーツ」という小見出しがあり、岩波映画社時代のことを振り返ってこう書いている。 「…たとえば、シャ-レの上に、細いスポイトでミルクを一滴落とす。その瞬間を日立ハイタックスという、通常のカメラの1万倍の速度で回るカメラで接写する。すると、うまくいくと水滴(しずく)がゆっくり跳ね上がって見事な王冠のかたちをつくることができる…」
田原氏はこうした岩波映画で培った見せ方のノウハウを、東京12チャンネルに入ってドキュメンタリー番組に応用していく。大きな社会の中のミクロの人間模様をクローズアップの手法で描き出す。たとえば、少年院を出た青年がどのように社会復帰を果たしていくのか、というテーマである。田原氏のクローズアップの手法はさらに、人々がこれまでタブーとして、直視しなかった天皇制や差別問題といったジャンルにまで討論という形式を用いて映像化していく。小さなもの、見えないもの、見ようとしないものすべてを「これでもか」と拡大してテレビ画面に露出させていく。
見えてしまえば、驚きとなり、感動やイメージがわく。そして、考えさせる。田原氏のジャーナリズは反権力という政治的な立場を鮮明にするものではない。政治課題や問題点をテレビ映像で鮮明に浮き上がらせることで、争論化させるのである。
ところで写真はスジクワガタである。本来なら2㌢ほどの大きさがA1サイズ(59㌢×84㌢)の大判にプリントされている。このプリントを子どもたちに見せると、たいていは「すげぇっ~」と声を出し、好奇の目をらんらんと輝かせる。そして触ろうとする。
⇒3日(木)朝・金沢の天気 はれ