自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★メディアのツボ-05-

2006年08月03日 | ⇒メディア時評

 いま金沢大学「角間の里山自然学校」の研究員がはまっているのが「デジタル昆虫図鑑」である。市販のスキャナで撮った昆虫の画像だ。スキャナなのでフタをするが、直に載せると虫が潰れてしまうので、フタとガラス面の間に薄手の雑誌など挟んで隙間をつくる。1㌢ほどの大きさならば十分に足の毛まで写るのである。小さなものをこうして撮影できるとなると格段に昆虫への理解も深まる。

     クローズアップのジャーナリズム

  実はこれは放送でいうクローズアップの手法なのである。普段見ない小さなもの、肉眼では見えないもの大きく拡大することで新鮮さを演出したり、人々を驚かせたり、ひきつけたりする。科学番組などでよく使う手法だ。NHKには「クローズアップ現代」という番組もある。

 テレビ朝日の政治討論番組「サンデ-プロジェクト」のキャスターを務めるジャーナリストの田原総一朗氏は実はこのクローズアップの演出方法に精通した一人だ。著書「テレビと権力」(講談社)の中で、「『たのしい科学』が私のルーツ」という小見出しがあり、岩波映画社時代のことを振り返ってこう書いている。 「…たとえば、シャ-レの上に、細いスポイトでミルクを一滴落とす。その瞬間を日立ハイタックスという、通常のカメラの1万倍の速度で回るカメラで接写する。すると、うまくいくと水滴(しずく)がゆっくり跳ね上がって見事な王冠のかたちをつくることができる…」

 田原氏はこうした岩波映画で培った見せ方のノウハウを、東京12チャンネルに入ってドキュメンタリー番組に応用していく。大きな社会の中のミクロの人間模様をクローズアップの手法で描き出す。たとえば、少年院を出た青年がどのように社会復帰を果たしていくのか、というテーマである。田原氏のクローズアップの手法はさらに、人々がこれまでタブーとして、直視しなかった天皇制や差別問題といったジャンルにまで討論という形式を用いて映像化していく。小さなもの、見えないもの、見ようとしないものすべてを「これでもか」と拡大してテレビ画面に露出させていく。

 見えてしまえば、驚きとなり、感動やイメージがわく。そして、考えさせる。田原氏のジャーナリズは反権力という政治的な立場を鮮明にするものではない。政治課題や問題点をテレビ映像で鮮明に浮き上がらせることで、争論化させるのである。

 ところで写真はスジクワガタである。本来なら2㌢ほどの大きさがA1サイズ(59㌢×84㌢)の大判にプリントされている。このプリントを子どもたちに見せると、たいていは「すげぇっ~」と声を出し、好奇の目をらんらんと輝かせる。そして触ろうとする。

⇒3日(木)朝・金沢の天気   はれ 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆メディアのツボ-04-

2006年08月01日 | ⇒メディア時評

 前回は「映像表現と政治家」というテーマでカメラ撮影が投げかけた問題を取り上げた。続いて今回は生番組におけるキャスターのコメントと政治家を取り上げる。話は去年6月にさかのぼる。自民党の岡田直樹参院議員(石川県選挙区)がテレビ朝日の番組「報道ステーション」で事実に反する内容が取り上げられたとして、放送法に基づく訂正放送と謝罪を求める通知書をテレビ朝日あてに送った。

   コメント表現と政治家

  いきさつはこうだった。05年6月10日、北朝鮮への経済制裁を検討する参院拉致問題特別委員会で、参考人として呼んだ拉致被害者の家族代表の横田滋さん夫妻に、岡田氏は「聞くに忍びないことをお聞きしますけれども」と前置きし、北朝鮮に経済制裁をすれば、めぐみさんが本当に殺されるかもしれない、その覚悟のほどはどうですか、とたずねた。それに対し、横田氏は「それを恐れていれば結局このままの状況が続く」と経済制裁を強く求めた。岡田氏とすれば、「家族はリスクを覚悟して経済制裁を求めている。だから、政府もやるべきだ」というセオリーで、慎重な言い回しだった。これには、横田夫妻も、参考人として発言の機会が与えられたことに対して、岡田氏に感謝をしていた(05年6月16日付「救う会全国協議会ニュース」)。

  ところが、横田さん夫妻が参考人として出席した特別委員会の様子をニュースとして取り上げた同日夜の「報道ステーション」で、古舘キャスターが、岡田氏の質問に対し、「北をとっちめたいと思うあまり、まるで非常に苦しい立場にいるご夫妻に、この覚悟はありやなしやと聞いているふうに聞こえる」などとコメントし、「無神経な質問」と決めつけたことから、岡田氏は「事実とは違う、名誉を毀損された」と謝罪と訂正放送を求めたのだった。これに対し、「報道ステーション」(7月4日放送)の番組の中で古舘伊知郎キャスターが岡田氏に謝罪し、一応けりがついた。

  確かに映像の一部だけを見れば、無神経な質問に見えるかもしれない。しかし、前後の隠れた文脈をきちんと伝えてこそニュースとしての論理が成立するのである。自分に都合のよい部分の映像を抜き取って構成すれば、ただのプロパガンダ映像である。テレビの報道番組では、想像でものを言うこと自体、信憑性が失われ負けである。

⇒1日(火)朝・金沢の天気  はれ  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする