黒い太陽を初めて見たのは14年も前のことですが、その時のことは鮮明に憶えてます。
ツアーの行先は、観光客などほとんど訪れることのないタイのナコンサワンという所。
泊まったホテルの屋上を旅行会社が貸切状態にし、好条件の観測場所が提供された。
当日、朝っぱらからホテルの屋上には参加者達が持参した観測・撮影機材の砲列が並ぶ。
朝食を済ませた後は皆居ても立ってもいられず、早々に黒い太陽の迎撃準備を開始。
天候は晴れ。月はもちろん見えないが、刻々と太陽めがけて移動しているはずだ。
そして時は過ぎ、ショーの幕開けとなる第1接触。月が太陽を食い始めた。
強力な減光フィルタを取り付けたビデオカメラのビューファインダーを時々覗き、
太陽が徐々に欠けていく様子を確認しながら、スチルカメラの撮影準備を整える。
8割ほど欠けてくると辺りは次第に暗くなり、明らかな気温の低下を体感。
9割超まで進んだ時点で金星を確認。何やら怪しげな雲が若干出てきた。
これが気温低下に伴う日食雲というヤツなのか? 邪魔されないことを祈るしかない。
皆既突入まで残りあと2分を切ったあたりで、主催社のガイド役の人から
「カメラの減光フィルタを外しても大丈夫です」とのアナウンスが。もうかなり暗い。
そして第2接触。皆既食突入直前のいわゆるダイヤモンドリングの瞬間です↓
【ダイヤモンドリング(第2接触)】
銀塩一眼レフカメラ+口径7.6cm屈折望遠鏡(F6.6)にて1995年10月24日撮影
露出1/2000秒 ISO400フィルム使用
※画像をクリックすると、大きい画像が別ウィンドウで開きます。
黒い太陽が現れると大歓声が上がり、シャッター音がシャワーの如く鳴り続けた。
自分も含めて皆「スゴイ」、「スゲー」を連呼。それ以外の言葉が出てこない。
下にいる現地の人たちは爆竹や車のクラクションをガンガン鳴らして大興奮。
皆既継続時間はたったの1分40秒ほど。周りの星を見る余裕など全くない。
カメラのシャッターを切るためのレリーズを持つ手は震え、心臓はバクバク。
放心状態になりそうな中、何とかシャッター速度を変えながら10コマほど撮影。
念願の黒い太陽を仕留めた(美しいコロナ*1の流線をとらえた画像がこちら↓)。
【コロナ流線】
露出1/1000~1/2秒で撮った10画像を合成
(J.T.B.Show '96 天体写真コンテストにてニコン賞を戴いた作品)
※画像をクリックすると、大きい画像が別ウィンドウで開きます。
皆既食の終盤はビデオカメラのみに撮影を任せて、肉眼でコロナをじっくり仰ぎ見る。
その視線の先には太陽直径の2~3倍にも伸びたコロナの姿があった。
双眼鏡で観察している人からは「プロミネンス*2が見える!」の声が。
そして皆既食の終了を告げる第3接触。「あっ、もうお終いです」と誰かが叫んだ。
その瞬間、再び太陽の光が月の縁からこぼれ、2度目のダイヤモンドリングを迎えた↓
【ダイヤモンドリング(第3接触)】
露出1/2000秒
※画像をクリックすると、大きい画像が別ウィンドウで開きます。
皆既食終了直後、ツアー参加者はこぞって拍手喝采、歓喜の嵐。めでたし、めでたしー。
個人的には充実感で満たされ、思わず大きな溜め息を一つ。
こうして、生きてて良かったーと実感する短いひと時が過ぎてゆきました。
あの感動をもう一度体験したいと思い続けていますが、
今回のトカラ皆既日食は残念ながら見送りです。
2012年5月21日には本州~四国~九州の広い範囲で金環日食(月が太陽を完全に覆えず、
光の環のように見える現象)が見られます。これも皆既日食だったら良かったんですけどねぇ。
次に国内で見られる2035年9月2日の北関東~北陸皆既日食まで黒い太陽はおあずけかも?
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*1 こちらを参照↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A
*2 こちらを参照↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%83%B3%E3%82%B9
コメント--------これより以下のコメントは、2013年5月30日以前に-----------
あなたのブログにコメント投稿されたものです。- 帽子屋 [2009年7月9日 15:53]
- こんにちは。
本当に日食は、神秘的で美しいですね!!
その瞬間を体験されているなんて、羨ましいですっ。
ダイヤモンドリングをいつか私も見てみたいです★
- fornax8 [2009年7月9日 19:42]
- 帽子屋さん、コメントありがとうございます。
かなーり古い上に、自慢話みたいでスミマセン。
天文ファンとしては一生に一度は見たい現象の一つです。
見ると人生観が変るかもしれませんヨ。
- デコちゃん [2009年7月15日 13:44]
- こんにちは!
素敵な写真をありがとうございます!
fornax8さんの写真を拝見して、感動で泣きそうになってしまいました!
確かに人生観変わりそうだし、エリカ様じゃなくても、こんなに素敵な「ダイヤモンドリング」を渡されたら結婚したくなっちゃいますよね!
今年の皆既日食は無理でも、死ぬまでに一度は本物を見てみたいです!!
- お花坊 [2009年7月15日 17:22]
- こんにちは~
見事なお写真ですね!
望遠レンズや望遠鏡が欲しくなってきます~
今回のトカラは荷物を増やしたくないので、
先日購入したD5000ダブルレンズセットで撮影してきます。
もし、お金と時間に余裕があったら、来年のイースター島に行きたいです♪
- fornax8 [2009年7月15日 19:39]
- デコちゃんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
拙い写真なのに、感動していただけたとはとっても光栄です!
生で見るともっともっと感動できると思いますヨ。
1度でいいから見たいという人はもちろん多いんですけど、
1度見た人は何回でも見たいっていう状態になりやすかったりします。
一部ではそれを「日食病」などと呼んでます。
最近の研究では、罹患率がかなり高く、事ある毎に海外まで見に行く
ような症状が現れると、重度の金欠病を併発する恐れがあるとのこと。
完治させる方法は見つかっておらず、実際に皆既日食を見るという
対症療法で一時的に快方に向かうことがわかっていますが、
当日曇られたりすると劇症化するリスクもあります。
今年は患者数が増えそうですネ。
- fornax8 [2009年7月15日 19:56]
- お花坊さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
D5000のライブビュー+バリアングルモニターは重宝しそうですネ。
ダブルズームキットでしたら、焦点距離が200mmまで使えますから、
35mm判銀塩フィルムで300mm相当になり、結構大きく写ると思います。
画素数が多くて画質的に余裕がありますから、撮った後の画像処理で
トリミングするという手も使えそうです。
望遠鏡と組合せると赤道儀なんていう重たくて電力食いの厄介モノを
持っていかざるを得なくなりますから、荷物を抑えるには賢明な機材
選びをなさっていると感じます。
撮影成功をもちろん祈ってますが、自身の網膜にもコロナの姿を十分
焼付けてきてくださいね。
- nokko [2009年7月21日 22:09]
- こんにちは。通りすがりのものです。
世間では明日の皆既日食にむけて連日の報道で、盛り上がっていますね。
実は、私も14年前にナコンサワンで皆既日食をみた一人です。その当時はツアコンをしてまして、そう、添乗の仕事でこの皆既日食ツアーの添乗に同行し、日食をみることができました。今思えば、本当にラッキーで一生の思い出になりました。あの感動は、今でも忘れられません。
- fornax8 [2009年7月21日 22:33]
- nokkoさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
エッ、同じ地域で見たことになるんでしょうか。
もしそれがピマンホテルの屋上だったとしたらビックリですが・・・
添乗員としては、曇られるとツアー客から批難轟々で悪者扱いになる
こともあるようですから、晴れてくれてホッとされたことでしょうネ。
なにせ日食日の数日前まで雨季で、あちこち大洪水でしたからねぇ。