名前を呼ばれました。
フルネームで呼ばれました。
薬局に処方箋 (せん) を呈示して、薬が出来上がるのを待っていたときのことでした。
目を合わせると、薬剤師が歩み寄ってきました。
「保険証が変わりましたね?」
「はい」
7月に戸籍上の名前を変更しました。その関係で、健康保険証の記載内容は確かに変更されています。名前を変更した理由は、性同一性障害 (GID)。今は女性として生活していますが、もともとは男の子の体で生まれてきました。当然、戸籍上は男性的な名前が付けられ、健康保険証や運転免許証など、公的な書類にはその名前が記載されました。それでも、親が付けてくれた名前です。長い間、戸籍を変更せずに、通称名として女性的な名前を使うことで頑張ってきました。しかし、どうしても公的な書類を呈示しなければならないときには、戸籍上の名前と見た目のギャップが災いして好奇の対象になることが多く、耐えられませんでした。
「保険証を確認させていただけますか」
このとき病院にかかったのは、ホルモン剤を受け取るためでした。性同一性障害の治療の一環として、定期的に女性ホルモン剤を処方してもらっています。しかし、ホルモン剤には保険が利きません。全額自己負担です。薬の種類にもよりますが、たった1種類の薬だけで月1万円くらいかかったこともありました。どうせ自費診療なのですから、保険証なんかあってもなくても同じことです。病院で受け取った処方箋にも、確かに自費と記載されていました。
「自費のはずですが」
「お待ちください」
薬剤師が処方箋を確認しに戻りました。
「保険扱いで出ていますが」
話がかみ合いません。病院から出るときに私が見た処方箋には、いつものように「自費」とはっきり書かれていました。よく覚えています。気を利かせて保険扱いにしてくれるのなら助かりますが。
そのとき、背後から女性の声がしました。
「○○です」
私と同じ名前です。
同姓同名でした。世の中に同姓同名の人はいるでしょうが、保険証の記載内容が変わったことまで重なるとは。
いつもと同じく、薬は自費でした。
フルネームで呼ばれました。
薬局に処方箋 (せん) を呈示して、薬が出来上がるのを待っていたときのことでした。
目を合わせると、薬剤師が歩み寄ってきました。
「保険証が変わりましたね?」
「はい」
7月に戸籍上の名前を変更しました。その関係で、健康保険証の記載内容は確かに変更されています。名前を変更した理由は、性同一性障害 (GID)。今は女性として生活していますが、もともとは男の子の体で生まれてきました。当然、戸籍上は男性的な名前が付けられ、健康保険証や運転免許証など、公的な書類にはその名前が記載されました。それでも、親が付けてくれた名前です。長い間、戸籍を変更せずに、通称名として女性的な名前を使うことで頑張ってきました。しかし、どうしても公的な書類を呈示しなければならないときには、戸籍上の名前と見た目のギャップが災いして好奇の対象になることが多く、耐えられませんでした。
「保険証を確認させていただけますか」
このとき病院にかかったのは、ホルモン剤を受け取るためでした。性同一性障害の治療の一環として、定期的に女性ホルモン剤を処方してもらっています。しかし、ホルモン剤には保険が利きません。全額自己負担です。薬の種類にもよりますが、たった1種類の薬だけで月1万円くらいかかったこともありました。どうせ自費診療なのですから、保険証なんかあってもなくても同じことです。病院で受け取った処方箋にも、確かに自費と記載されていました。
「自費のはずですが」
「お待ちください」
薬剤師が処方箋を確認しに戻りました。
「保険扱いで出ていますが」
話がかみ合いません。病院から出るときに私が見た処方箋には、いつものように「自費」とはっきり書かれていました。よく覚えています。気を利かせて保険扱いにしてくれるのなら助かりますが。
そのとき、背後から女性の声がしました。
「○○です」
私と同じ名前です。
同姓同名でした。世の中に同姓同名の人はいるでしょうが、保険証の記載内容が変わったことまで重なるとは。
いつもと同じく、薬は自費でした。