職人の見立て

自転車に乗ると、車輪が回るごとにシャー、シャーと金属がこすれるような音が出るようになりました。こんな経験は初めてです。乗れるには乗れるのですが、音が耳障りですし、部品が削れて自転車が傷みそうなので、修理してもらうことにしました。

自転車屋さんに持ち込むと、青い作業服のおじいちゃんが出てきてくれました。症状を説明すると、やおら自転車にまたがり、お店の前の道を走り出しました。シャー、シャーと音がします。10mほど行ってUターン。

「後輪のベアリングに水が入ったんだね」

ちょっと乗っただけで原因が分かるなんて、すごい。さすが職人さん。かっこいーっ！

自転車屋のおじいちゃんが後輪のチェーン側に油を差しました。右側のベアリングに水が入っただけならこれで直るということですが、こすれる音は改善されません。

「左側のベアリングにも水が浸入してるかもねぇ」
分解修理すると時間にして30分、料金は2500円かかると言います。結構高いです。少し考えましたが、修理してもらうことにしました。今まで頑張ってくれたこの自転車を捨てるのは忍びないもの。

代車を出してもらって用事を片付けている間に、修理は終わっていました。自転車屋のおじいちゃんが最初に見立てたとおり、シャーシャー音の原因は左右のベアリングに水が入ったことでした。
「これだよ」
差し出された油まみれのしわしわの手には、小さな金属の玉がいくつも乗っていました。ベアリングの玉でした。赤茶色にさびていました。銀色の新品と見比べると一目瞭然 (りょうぜん) です。自転車って、単純なようで意外と複雑なのね。

シャーシャー音もしなくなって、快適に乗れるようになりました。自転車が直ると、乗るのが楽しくなります。どこに行こうかな。