遅いことは猫でもやる

まずは昔メールした内容をひっぱってきて練習...
更新は猫以下の頻度です。

お知らせ

Twitter で更新情報が観られます。やってる方はこちらからフォローどうぞ。
http://twitter.com/gaiki_jp

思い切り後期高齢者

2019-06-19 10:56:03 | 


内館牧子「すぐ死ぬのだから」講談社 2018年刊

義姉から回ってきた本だが、実に痛快なフィクションであった。横綱審議委員として時折TVに登場してはいたが、あんまり印象に残るコメントは残していなかったように思うが、フィクションでもあり、思い切り言いたいことをぶつけている。

外形の若さに生きがいを見出す主人公、大人しい商売一途の夫にも恵まれ、子どもたちにもそれなりに恵まれ幸せな余生を送る。
順風満帆と思われた終末が、急逝した夫の死後急転する。

傍若無人な長男の嫁に腹を立てていたのだが、石部金吉のような夫になんと隠し女がいたということだ。そこから葛藤は始まる。実の子供とのやり取り、浮気先の子供との奇妙な関係、年相応に大人しくという発想はなく、自分の生き方「外形の若さに磨きをかける」を基本に生き抜く。

ドロドロベタベタした生き方を捨て、自分の生き方を徹底するんは見事であり、痛快である。見事に後期高齢者へのエールを送っている。梅雨空を吹き飛ばす痛快なフィクションであった。お薦めである。


ゲーム風劇画

2019-03-31 07:05:30 | 

はらやすひさ「キングダム」集英社 1~51巻の内10巻

長男が前回の検査入院のおり、「親父退屈ならこれが面白いぞ」とi Padに入った劇画を差し入れてくれた。著者名も題名もよく知らないものだった。

i pad書籍も初めてだったので、それも興味半分でページを繰ってみた。舞台は中国春秋時代。秦の国に生まれた二人の若者が剣の修業をしているところから始まるが、やたら格闘場面が出てくる。首が飛び、胴が離れる。まるでTVゲームを見ているようだ。

次々といろんな剣豪や武将が出てくるところなどまるで同じ展開だ。少し食傷気味になって次男に、内容を聞いてみたら、次男は読んだことがあるという。今何巻ぐらいかという問い合わせに「7,8巻」と答えると「まだキャラクターの性格説明くらいなのでもう少ししたら面白くなる」という。長男も同じような返事だった。

騙されたと思ってもう少し読んでみたらたしかに展開が出てきた。どうやら秦の中国統一がメインテーマの物語らしい。かさばらないので病室にはもってこいだ。もう少し付き合ってみるか。


まるで禅の世界

2019-03-23 01:41:31 | 


樹木希林「120の遺言」死ぬときくらい好きにさせてよ 2019年宝島社刊

面白い本である。あの面構えでケロッと言いそうな、自由闊達なしかも考えさせる言葉で綴られている随筆集である。我々がいかに日常のしがらみに絡め取られているか、を思い知らされる。こういうのを箴言というのであろうか。

例えば、彼女は全てのものがかくあるべし、という鉄則はないと言い切る。自分の顔を「ミスして世に出たものだ」と自虐気味に言い、しかしこのミスを活かそうとするのが面白い生き方だと思ってやている、とおっしゃる。

全てのもの、や技術、や人を活かそうとするのが、世の中を面白がって生きてゆくコツだと喝破している。それにはまずありのままの姿を受け入れることだという。

以前読んだ、宇野全智著「禅と生きる」山川出版社、の中で禅の基本はありのままを受け入れることだと説いていた。そこに共感を覚え記憶していたが、正にこの境地を樹木さんも言っている。肩肘張らない自然体のエッセイである。



安定ともマンネリとも

2019-03-17 06:56:18 | 


佐伯泰英「新・古着屋総兵衛 15巻 故郷はなきや」新潮文庫

ご存知、古着屋総兵衛シリーズ。江戸の街を影警護する古着商の元締め、10代目大黒屋総兵衛が、越南(ベトナム)に商船を派遣し生みの母親の生存を確かめる、というお話。

自身越南の今坂一族であり、琉球の池城一族、柘植一族、鳶沢一族の4族を統べる。日本全国を商圏とし、商と武の両側面を持つ一族として、幕府の影様に従う。やや荒唐無稽ではあるがそれはそれとしてスケールは大きい。ただ今回は筋立てが単純であるだけに、総兵衛をやたら祭り上げるような描写が目立ち、少し鼻につくのは私だけであろうか。マンネリになってきた。

得意とする決闘場面は流石に手慣れたものだが、筋立てとしては必然性が薄い。暇つぶしとしては黄門様シリーズのように安定していて気が楽だが、まあそれまでであろう。

雪冤

2019-02-20 00:58:18 | 


大門剛明「雪冤」角川文庫 2009年刊

雪冤とは「無実の罪であることを明らかにすること」の意だが、この小説は息子の無実を証明しようとする父親が主人公である。かなり緻密な構成で、テンポよくストーリーは進む。読者の予想よりは展開が早く、スピード感もある。

ただ最後に来て2転3転とはなしが入り組む。ここのところが理解力の衰えてきた自分にはかなり複雑に思える。若干無理筋にも思える。まさに自分の命に代えて罪を被るところの描写が少し不足しているような気がする。論理はわかるが小説として共感を得るには、説得力には少し欠ける。

しかしストーリー展開、心理描写などは緻密で面白い。あらすじを暴露しては興味が半減するので控えるが、かなりの力量のある作家ではないかと推察する。

医者の趣味

2019-02-18 06:44:09 | 


知念実希人「螺旋の手術室」新潮文庫 H25年刊

前にも医者で作家の作品を読んだことがあるが、時折出てくる専門用語がこれみよがしで、どことなく馴染めない。
そればかりではないだろうが、状況説明が丁寧すぎて面白みに欠ける気がする。犯人に迫ってゆく謎解きもかなり綿密だが、かえってリアリティに欠ける。

犯人を追ってゆき、謎解きをするのがほとんどカルテや病院の診察体制、や診察制度の中で行われてるのだが、門外漢の我々にはピンとこないことも多くそれが「これみよがし」という印象を与えているのだろう。

犯人は一番怪しくない人物だったという結論はいいにしろ、犯行に踏み切るだけの必然性が不自然である。といったわけで本編は私としては必ずしも推奨はしない。もちろん一定のレベルは超えているが、医者の趣味として書いたものならかなりのレベルだと言える。

もう一つ加えるのならば、格闘場面はなかなかのものがある。柔道の心得があるのだろうか。

高齢化社会を映す鏡

2019-02-08 04:21:59 | 


原田マハ「生きるぼくら」徳間文庫2012年刊

泣けてきた。本作品は情感に触れる傑作だと思う。引きこもりの若者が蓼科のおばあちゃんの懐に飛び込んで、しかも認知症を発症しているおばあちゃんのところで、少しずつほんの少しずつ自分を取り戻してゆく物語である。

考えてみるとこの舞台は何も小説向けに設定された特殊なものではなくて、現代社会ではどこにでも出現しそうな、ごくありふれた環境ではないのか。母子家庭、引きこもりの若者、過疎の田舎。ただ違うのはそこにいる人達が一皮むけば皆善意の助け合う人々であるというところだ。

後半の舞台が蓼科ということもあり、原田マハの共感を呼ぶ語り口とともに、高齢化社会の現実が迫る。そこに生きる若者もよく描けていると思う。美しい自然の中で少しずつ少しずつ心が解き放たれてゆくさまや、親切な大人たちのアドバイスが効いてくる状況など実によく描けている。

是非オススメしたい一冊である。

意外に重厚

2019-01-25 02:40:11 | 


山本一力「べんけい飛脚」新潮文庫 H26年刊

時は寛政、8代目吉宗の世である。加賀百万石前田家5代前田綱紀は70歳を超える高齢であるが、吉宗とは肝胆相照らすなかであった。大名の格式によって、参勤交代の規模が決められる世であったが、加賀百万石の行列となれば総勢4000人を超える。

これだけ大身の藩が無傷で徳川300年を生き抜いたのは奇跡であるが、その秘訣の一つが語られる。もちろんそれが目的ではないが、けっかてきにそうなっている。4000人の大移動は受け入れる宿場にとっても大事件であるが、当主綱紀は老中水野忠之と若干の確執があり、参勤交代の行列に100丁の鉄砲隊を帯同することを強行する。

これが、綱紀違反であることは明らかだが、吉宗の許可状を得て執行しようと取り巻きは奮闘する。行列出発と許可状発行の時間差を埋めるのが飛脚の足だ。もちろん一筋縄ではいかない。このへんの語り口は、やや取ってつけたようなきらいもあるが、後始末も含めまずまず面白い。

出だしはテンポも遅くじれったいが、慣れてくるとこの丁寧な描写が心地よい。まず面白く読めた。

山が舞台の女性心理小説

2018-12-17 03:19:18 | 


湊かなえ「山女日記」幻冬舎文庫 2014年刊

ご存知、湊かなえの女性の心理を描いた小説。オムニバス形式の8篇の短編からなる山が舞台の小説である。舞台は妙高、火打、槍、利尻、白馬、金時、トンガリロ(ニュージーランド)、涸沢。

登山そのものではなく、山登りに来た経緯、関係者との軋轢、友情などを女性特有の細かいタッチで心の襞にまで踏み込んで描写している。実績も力量もある筆者の語り口はなぜか爽快感を感じる。最後の短編「カラフェス(涸沢フェスティバル)に行こう」でハッピーエンドチックな終わり方をしているのも好感が持てる。

山登りの参考書にはならないが、小説として面白い。

見事なストーリーテラー

2018-12-06 05:04:43 | 


井岡瞬「代償」角川文庫 2014年刊

数奇な運命に見舞われた主人公がその原因となった遠縁で同学年の男の弁護を受け持つという、稀に見る稀有な設定のミステリー。そのストーリー展開は見事である。人物設定も極端にエグい母子、父などを登場させ、容赦なくストーリーを展開させる。ケレン味のないところが逆に真実性を感じさせ、こんな人間も存在するかもしれない、とふっとも思わせる。

2/3は主人公が虐げられる状況の描写に費やされ、残りの1/3ないし1/4で、元の友人と反撃に出る。意外性のあるストーリーは読者を引き込むが、それに至る動機、心理描写には少し物足りなさが滲む。例えば、あれほど嫌っていた同学年生の弁護を引き受ける気になった心理変化の様子などはもっとドラマチックに描いてほしいと思うのは私だけであろうか。

しかしこれほど虐げられても冷静に、視野広く対処する主人公は見事な生き方である。その点だけでもこの一冊は読むに値する。