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遅いことは猫でもやる

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AIのもたらすもの

2018-08-28 02:05:33 | 


井上智洋「人工知能と経済の未来」文春新書

最近AIとか、IoTとかいわれ、コンピューターが一段階上がったような気がする。わかりやすいのは、自動運転の車の出現、あるいは応答をするスピーカー、スマートスピーカーなどであろう。囲碁や将棋の世界でも、コンピューターがプロ棋士を凌駕してきている。

この動きが進んでゆくとどこまでゆくのだろうかと言うのが本書のテーマである。2045年ころにはコンピューターが人類の能力を超えると予測される。蒸気機関、電気モーター、コンピュータ+インターネット、そして人工知能と次々と革新的なことが起きてきたが、そのなかでも人工知能は人間の代わりをするという点では恐るべき影響力を持つ。

生産が全て自動化され、生産設備も自動生産する世の中が来たとき、労働者は一部を除いて必要がなくなる。それはユートピアなのかそれともディストピアなのか。生産力は余るほどあるが、消費する人の購買力がなくなる社会はどう維持されるのだろうか。

著者はベーシックインカムがその一つの解決策だと提唱するが、もうその時期は目前にきている。コンピューターの発達が社会を根底から変える時代を生み出す。政治家の覚悟と先見性が必要となってきた。

本書はあらゆる意味で社会を考えさせる啓蒙書である。


まかて版井原西鶴

2018-08-12 03:22:53 | 


朝井まかて「阿蘭陀西鶴」講談社文庫 2014年刊

最近私が気に入っている作家朝井まかてが、あの井原西鶴を描いた作品。庶民派の西鶴が大阪に陣取って、俳諧の世界からスタート。まさに才覚のある西鶴はいろいろな趣向を尽くし、談林派の頭目目指して奮闘する。

それをこの小説は西鶴の盲目の娘から見た姿で描く。10代で母を失った娘「おあい」は母から厳しく仕込まれ料理、裁縫などの家事は殆んど自分ひとりで出来るようになっていた。少女期の常でそんな自分を何かと皆の前で持ち上げてくれる父西鶴を疎ましく思う。

西鶴が次第に俳諧から草紙作家へとシフトし、世の中で新しいジャンルを次々と切り開いてゆく。松尾芭蕉の俳諧に「気取りやがって」と敵愾心をむき出すかと思えば、自分のもとを訪れて同じ題材を浄瑠璃の世界に展開しようとする近松門左衛門に、鷹揚な応対をするなど、いかにも大阪庶民派の面目躍如の生き方である。

傍迷惑で手前勝手な父だと思っていた娘は「好色一代男」あたりから父への見方が少しずつ変わり、晩年は心を通じ合わせる。養子に出された弟たち家族との関係も修復される。

庶民の生活、版元とのやり取りや、情の描写に流されず俳諧、出版業界の事情などを的確に描く冷静なところがこの作家の魅力だろう。

大阪好きの私の心情にも沿う、この作家の次の作品が楽しみである。

お得意のパニックサスペンス

2018-07-31 00:51:58 | 


安生正「ゼロの激震」宝島社文庫 2017年刊

「ゼロの迎撃」「生存者ゼロ」に続くゼロシリーズ第3作。著者得意のパニックサスペンスである。これまでは他国のテロ集団、病原菌との戦いだったが今回は、地球のマグマ変動との戦いである。

栃木と群馬の境にある金精峠、ついで足尾銅山跡、秩父の山奥と火山活動がが刻々と東京に迫る。なぜ唐突にこんな動きが出てきたのか、首都を守る、日本を守る方策はあるのか、まるで日本沈没とシン・ゴジラをあわせたような筋書きである。

地球の構造や火山活動について著者はずいぶん勉強し、詳しく登場人物に説明させるが、このあたりはやや冗長である。又、経産省出身で国策会社幹部に入ったのエリート官僚の挫折と転身にはやや飛躍がある。

しかしそれらを踏まえても、主人公の生粋の技術者とPTSDに悩む患者の間で活躍する姿は、淡々としているだけにかえって迫力がある。自動車や産業活動で地球温暖化を招くことは推測できても、二酸化炭素の地中投棄が火山活動の引き金になるというのは、牽強付会ではなかろうか。又それが40キロの立坑の底で爆発をさせたら火山活動が沈静化するというのも、すっと胸には落ちてこない。

自分の理解力を試されているような小説であった。

バランス感覚の良さ

2018-07-15 00:59:27 | 


朝井まかて「すかたん」講談社文庫 2012年単行本刊

「恋歌」で直木賞を受賞した朝井作品である。江戸詰め藩士だった夫が急死し、子供をもうけてなかった妻は家を出て大阪の青物問屋に出た。この主人公は次第にうまいものに関心を寄せてゆく。

その大問屋の若旦那が、単なる道楽者ではなくて野菜バカと言うほど入れ込み、生産者の間を駆け回り何かとトラブルを引き起こす。そんな姿に次第に惹かれてゆくというあらすじ。

この本は大阪の本屋が共同してほんまに読んでほしい本を選んで世に送り出すオーサカ・ブック・ワン・プロジェクトの一冊である。確かに天下の台所の自負心も随所に見られ、青物問屋仲間の内部確執も見事に描いている。

勤勉に仕事に打ち込み、まっとうに生きてゆく者にエールを送るという姿勢や、やたらに登場人物の心理描写に流されず、青物の流通、生産問題を追求する程度の良さが爽やかである。

このバランス感覚が著者の最大の長所ではなかろうか。

おじさんの本音

2018-07-03 00:00:59 | 


久住昌之「こんどは山かい!?」山と渓谷社

ふらっと寄った図書館でパラパラめくって読んだ本。著者はグルメの分野で売れている漫画家だという。

内容は低山登山を楽しみ、温泉に浸かり、居酒屋で酒を喰らうという、まさにおじさん族の本音というか、やりたいことを体現した本である。

好奇心旺盛な著者が見つけた新しい楽しみはなんと「山登り」。関東近郊の楽しいハイキングコースで、つらくない山登りを満喫したら、山麓の温泉にまっしぐら、
そして地元色100パーセントの居酒屋や食堂で一杯やりながら地元グルメを満喫。まさにこれは、大人の遊園地登山ともいうべきもの。

メニューを並べれば、奥多摩・むかし道&ヤマメの刺身とキノコ汁、真鶴半島・魚つき保安林&おさしみ定食、房総・鋸山&驚きアジフライといった塩梅。

庶民的なところがなんとも共感できる。私も体力がればこんな山旅をしてみたい。

スケールの大きな傑作

2018-05-23 05:26:02 | 


東野圭吾「夢幻花」PHP文芸文庫2013年刊

当代人気作家の作品。第26回柴田錬三郎賞受賞作品。青いバラが自然界には存在しないように、黄色の朝顔も存在しないそうである。

さすがに人気作家だけあり、この黄色の朝顔らしき花が登場するまでに、いろいろな人物が現れる。定年後を花づくりに費やす気骨ある植物研究者、アマチュアミュージシャンの息子を持つ諸葛警部、オリンピック候補までなった水泳選手。原子力発電を主たる研究分野とする大学院生などなど。

この老植物研究者が殺されたところくらいから、物語は急展開を見せ始める。一気にそれぞれの登場人物が繋がり始める。このあたりのストーリー展開は確かな力量を感じさせる。一気に謎解きに走らず、なにか解決の糸口を掴んでいながら全貌を明らかにしない、という匙加減が絶妙である。

江戸時代まで遡る黄色の朝顔の謎、それぞれの登場人物の宿命、役割がスケールを大きくしているが、それだけに多少の無理があるような気がする。が、全体的に見て傑作であることに間違いはない。

抜群のスピード感

2018-05-14 03:02:40 | 


相場英雄「追尾」小学館文庫 2010年刊

私の好きな社会派ミステリーの旗手・相場英雄の「みちのく麺食い記者宮沢賢一郎シリーズ第五弾である。前4作は社会的背景からくる事件の必然性が迫真のリアリテイを感じさせる一方、作品全体としてはなにかリズム感がわるく、麺食いの場面などは余分だと感じられるほどであった。

今回は、相棒とも言うべき警察内部の理解者が強制停職中という制約をつけ、ファッション誌編集者の奥さんも事件解決に一役買うという展開が目新しい。しかし何より事件の進展、ストーリーの展開のスピード感が素晴らしい。

事件は子どもたちの合宿勉強会のバスジャックで幕を開けるが、その裏でもう一つの恐喝事件が進行する。「完黙」でも著者の金融工学の取材力の確かなところを見せていたが、今回も国際金融に及ぶからくりをキチンと描いている。ストーリーの最後に「はぐれ刑事人情派」なみのほろっとさせる場面を持ってくるところなど、作家として脂が乗ってきている感もする。

傑作と言っていい作品だ。

等身大の紀行文

2018-05-10 05:44:00 | 


先日といっても数ヶ月前になるが、東京で家人の兄弟夫婦会があった折、次兄から頂いた自費出版の本があった。喜寿の記念にと一念発起して四国のお遍路八十八箇所めぐりをした折の紀行文をまとめたものだそうだ。彼は以前から東海道五十三次、中山道なども歩いており、私も愛知県内は一緒に歩いたこともある。本は頂いたが、野暮用に紛れて、広げずにいたが、読み始めたら一気に読めた。

彼は私より5つ以上も年上だが、ゴルフのドライバーは未だに飛距離はおいていかれるほどの元気者。元々技術系の方なので、几帳面な記録集かと予測して読み始めたら、これがなかなか面白い。足で歩く旅ならではの、行く先々での宿の方とのやり取り、お遍路仲間との交流、お接待という土地それぞれの方の遍路をする人への応援、などの記述が面白い。気負ったところや、構えたところもなく、一緒に旅しているような等身大の記述である。

加えて、空海はもちろんのこと、真念、紀貫之(土佐日記)、林芙美子、獅子文六、司馬遼太郎、伊能忠敬、ジョン万次郎など、さすがに博学でいろいろな人の引用も玄人はだしである。途中から食べ物の紹介も増え、いろいろ美味しいもののことの記述も増え、読む方も楽しい。八十八箇所目のお寺が近づくに連れ、今までの苦行に思いを馳せ、目の前の仏像や生身の人間にもお大師様を見る体験をしたそうな。出会った女性が皆美人に見えるというのもそんな影響かもしれない。

すごいなと思うのは、四国のお遍路を終えたその足で、空海が開いた高野山へも足を伸ばしていることだ。全行程を振り返って、一日平均二十五キロを歩いているのもすごいパワーである。お遍路というイベントを擁する四国全土がテーマパークだという記事を読んだことがあるが、この本を読む限り、こうした文化がこれからも続く保証はない。

お遍路を支える「お接待」という文化が四国全土に広がっているのはとても感心するが、後どれくらい続くのだろうか、いつまでも残ってほしい風習である。本の構成、記述の仕方は並みの自費出版よりはるかに良く出来ている。

常勝のアスリートのごとく

2018-05-03 04:17:56 | 


伊坂幸太郎「首折り男のための協奏曲」新潮文庫H28年刊

7篇の短編からなる物語ではあるが、それぞれの登場人物は関連があったり、同一人物であったりする。この著者の特徴であるが、なにか余裕綽々で物語を操っているような趣だ。

ある意味安心して読み進められ、なにかお釈迦様の掌で遊んでいるような安定感を感じる。ストーリーの展開、登場人物の会話、シチュエーションの説明、どれをとっても無理がなくスムーズである。

物語というのはある種異常な世界を描くのが、正に話の種となるのだが、この作家にかかるとごく普通の状況のように見えてくる。確かに語りも淡々としている。その意味では物足りなく感じる人もいるかも知れない。

しかし、全盛期の大鵬や巨人が勝ち続けるのが当たり前のように、今この作家は書き続けるのが当たり前なのだろう。血湧き肉躍る物語ではないが、それなりに面白い小説ではある。

現代の錬金術

2018-04-22 15:34:41 | 


相場英雄「偽金 フェイクマネー」実業之日本社文庫 2008年刊

社会派ミステリー作家相場英雄が放つ、現代の錬金術電子通過の世界を舞台とするミステリー。都市銀行→消費者金融→起業という道をたどった主人公が、マネーロンダリングを電子マネーの世界で出来ることを見抜き、ゲームオタクと組んで短期決戦を目論む。

そこに将棋会所の女性席主、キャスターを目指すフリー女子アナ、現代ヤクザが絡み、巨額マネーを巡って疾風怒濤の展開となる。最近のビットコイン事件を彷彿とさせ、リアリテイを持ってはいるが、我々の預かり知らぬ、ネット上の電子マネーの世界のことだけにある種フィクションの世界と突き放して味わえる。

作者得意の警察小説の分野ではなく、銀行或いは金融小説の分野である。

このマネーロンダリングや、外国移転が現実に可能だとすると、現政権に信頼をおいていない中国富裕層はこぞって利用するだろう。現実に中国政府が電子マネーの統制にやっきとなるのも、こうした背景があるのだということがよく分かる。

現実の変化に材を取った面白い小説である。