Dr. 鼻メガネの 「健康で行こう!」

ダンディー爺さんを目指して 日々を生き抜く
ダンジーブログ

延命

2012-10-23 | 医療・病気・いのち
上腹部の巨大腫瘍(直径14cm)の摘出術を行ったSさん
病理結果はGIST(消化管間質腫瘍)
小さいうちは取れば直ることの多い腫瘍だが
大きくなっていたり
腫瘍細胞の細胞分裂の勢いがあったりすると
悪性の経過を取ることも少なくない

悪性というのは
浸潤 再発 転移 などを起こすという意味

巨大腫瘍だったSさんの場合
再発は必至だと思われ
実際2年後に再発してきた

再発の診断後グリベックというお薬を開始し
腹膜に多数出現していた再発巣は
きれいに消えた

ただしグリベックというお薬は
基本的に増殖を抑えておくというお薬で
止めればまた腫瘤が出現してくると思われる
また有効なのは1~2年程度だといわれている

Sさんの場合
服用開始して4年が経過した
こまめに再発の有無をチェックしているが
平均を超えて効果を保ち続け
今のところおとなしくしてくれているようだ

そのSさん
近々お孫さんの顔を見ることが出来るらしい
服薬は延命という意味合いしかないとはいえ
お孫さんの顔を見ることが出来るか否かというのは
個人の人生にとって大きな彩を与えてくれるわけだから
延命治療だって大切な意義ある治療である

役割

2012-10-10 | 医療・病気・いのち
 初診時に肝臓全体に転移を認めた胃癌のFさん。抗がん剤治療が効かなければ数ヶ月も難しいと思われた。しかし、抗がん剤治療が効をなして、治療内容を変化させつつ1年6ヶ月まで頑張ってくださった。

 とにかく仕事優先の50代男性。治療日程を調整しながらの治療継続だった。治療する側からすれば、ある程度決まった日程で治療を進めていかなければ少し不安なのだが、明らかに仕事がFさんの気持ちを支えていると思われたので、多少のスケジュールのずれは大したことではないと思われた。
 
 仕事をもっている患者さんの場合、会社の人から替わりの者をたてたから安心して治療に専念するように言われたりすると、自分の存在意義を見失い非常に落ち込んでしまう場合が少なくないという。癌という大敵を持っているのも患者さんなら、仕事を含めた日常を生きているのも患者さん。治療の進め方は、患者と医療者とがよく相談しながら進める必要があると感じる。

 Fさんの場合、出会って亡くなるまでの1年6ヶ月のうち、1年5ヶ月は仕事を続けられた。病状は診察のたびに説明をした。その間、時には気分が落ち込むこともあったに違いないが、気力が萎えてしまうことは無かったように思う。

沈黙の臓器

2012-10-03 | 医療・病気・いのち
肝臓は多くの化学反応の場を提供しており
その反応過程は500を越えるといわれている
肝臓の機能全てを兼ね備えた化学工場は
作りえないとも言われている

肝臓は人間にとって非常に重要な臓器であるが
予備能力が大きいので
少々傷んでも症状が出ない
それで沈黙の臓器とも呼ばれている

その肝臓は消化管からの血液を受け入れているので
消化管の癌が転移しやすい臓器でもあり
胃癌や大腸癌の患者さんで肝転移を伴なう方は少なくない
ただ肝臓への転移を起こしていても
残る肝臓で充分機能をまかなえるので
肝転移から肝不全となってそれが死に繋がる場合より
肝臓以外に存在する癌による症状で死に至る場合が多い

しかし時に肝転移以外の要因が少なく
ほぼ肝臓全体に転移が広がり肝不全となる方も時におられる
持ちこたえていた肝機能がある時期から急速に悪化し
黄疸から体は黄色くなり
肝不全となり亡くなられる

胃癌にしろ大腸癌にしろ
進行した場合
最後はどういう形で 何が主となって死に至るか
千差万別である

播種があると

2012-09-21 | 医療・病気・いのち

腹腔鏡下手術を予定していたTさん
いざカメラを腹腔内に入れると
腹膜播種が見つかった
原発巣(胃の病巣)はそれほど大きくないので
これは予想外だった

切除はせずに腹腔内に抗がん剤を入れただけで終わった

その後抗がん剤治療を開始し
腫瘍マーカーは順調に低下してきたが
途中から再上昇
抗がん剤の変更を提案したところ
もう一度お腹の中を見て欲しいとの希望

難しいとは思いつつ
一度見てもらわないと後悔が残るとの言葉に押され
腹腔鏡を再度入れてみたけれど
やはり播種巣は存在しており
原発巣では壁外へじわっと広がっていく様相

やはり播種まであると
抗がん剤を使用したところで
手術可能となることはまずない

癌は早くに見つからないと
完治へ導くことは極めて困難

ひと手間

2012-09-18 | 医療・病気・いのち
食道がんの手術の時
食道及び胃の上部を切除したあと
残った胃の形を整えて
首の高さまで持ち上げ
食道とつなぐというのが
標準的再建のやり方である

その際食べ物の通過をよくするために
胃の出口に当たる幽門輪を
グッと広げておくのだが
一般的には親指をぐいっと幽門輪にツッコミ
幽門の筋肉を破壊するという
Finger fractureという方法を施行する
しかしこの方法は幽門輪の広がり具合を
調整するのがむつかしく
効果が不十分となることもある
それで私は
きちっと筋肉を切って縫いなおすという
幽門形成術を行うようにしている

このひと手間を加えると
術後の食物通過具合が安定して良好であり
手術を終える時に安心感がある

何よりも患者さんにとって
如何にスムーズに食べられるかというのは
術後のQOLに決定的影響を与えるので
ないがしろにはできない

料理の下ごしらえなどで
ひと手間かけるかかけないかで
グッと出来栄えがかわるのと同様である
…なんて料理と同列に言っていいのかなぁ…?


楽に

2012-09-13 | 医療・病気・いのち
癌の進行に伴って
様々な症状が出現してくる可能性がある

苦痛を伴う症状は
患者本人の生きる力を奪うだけでなく
家族の苦悩も大きくする

それを軽減しないままでいると
その苦痛は
残された者の心に
引き継がれてしまうことになる

癌医療に携わる者は
そうならないように
心を配り 
また緩和医療の心と技術を身につける必要がある

楽に生きるなどということは
まずできないだろうけど
できるものなら苦痛を取り除き
最後まで少しでも楽に
患者さんが生ききることができるように


多重癌

2012-09-07 | 医療・病気・いのち

胃癌 食道癌 大腸癌 その他の癌で
患者さんが紹介されてくると
私は首辺りから骨盤までの広い範囲を含めたCT検査を行う

転移の有無
見つかった癌以外の異常が無いか
の2点を見るのが主な目的である

食道癌で紹介されてきた方
CTで膀胱癌が見つかった
そちらのほうを急ぐので
まずは膀胱癌の手術をしていただいた

そちらが落ち着き食道癌の治療を始めるに当たり
今一度CT検査を行った
初回のCTで淡くうっすらとうつっていた
肺の陰影が少し濃くなっている
肺がんの可能性が高い
ちょうど食道の手術であける右の胸側に存在するので
同時に切除することになる
膀胱 食道 肺 の多重癌症例ということになる

これは一つの例だが
術前スクリーニングとしてCT検査を行う際
癌の存在する領域のCTしか行わない医師もいるが
やはりスクリーニングは広く網を広げるように
胸部から骨盤までの検査を行うほうが良いと思う

思わぬ異常が見つかることが少なくないのだから
そして後で見つかった疾患の治療のほうを
急ぐ場合だってあるのだから

呼吸苦

2012-08-17 | 医療・病気・いのち

癌その他の病気で
死期が近づいてきた頃
呼吸困難感を訴える方がおられます

検査をしても
血液中の酸素は充分あり
二酸化炭素も充分体外に排出している
というように検査でわかる呼吸機能は正常

だけど充分呼吸ができていないような感じがあり
それが苦しみとなっている状況です

こういう場合
少量のモルヒネで
その苦痛を取り除ける場合がよくあります

癌による痛みに使うモルヒネの量より
ずっと少ない量で呼吸困難感がよくなるのです

病気自体は治せなくても
少しでも苦痛を緩和しようと
現場の医師はいろいろ考えます

緩和ケモ

2012-08-01 | 医療・病気・いのち

癌診療の現場でケモといえば
ケモセラピー(chemotherapy: 化学療法、抗がん剤治療)の略です

抗がん剤治療はつらいばかり
というイメージを植えつけられている方も多いと思いますが 
ケモによって症状が楽になることも多いのです 

全く食べられなかった方が食べられるようになったり 
 痛みがなくなったり
 お腹の張りが取れたりと
癌による症状が軽減あるいは消失することにより 
生活の質がぐっと上がることもあるのです

症状緩和を主目的としたケモに対し緩和ケモという言葉を使う人もいるくらいです


癌が後腹膜に浸潤し尿管が閉塞してしまったYさん 
左右の尿管に管を入れてもらったがそれも閉塞 
仕方がないので背中から直接腎臓に管を入れ 
そこから尿を体外に出していた

その後ケモを行ったところ 
ふたたび下から尿が出るようになった 
押しつぶされていた尿管の管が再び開通したのだ 
背中から管が出ているのと出ていないのでは
日常生活が大きく変わる 
まさに緩和ケモとなったわけです

抗がん剤治療を毛嫌いせずに
試してもらったほうが良いこともたくさんある
ということを知っていて欲しいと思います

判断

2011-09-22 | 医療・病気・いのち
胃癌の見つかったNさん

抗がん剤治療も効き目がなく
余命1年は難しいという肺がんがあるというので
胃癌に対する治療を行わなかったという

通常肺がんに比し胃癌の方が進行が緩やかだから
間違った判断ではなかったと思われるが
予想に反し
胃癌の方がかなり急速に増大し
胃の出口を塞いでしまった

周囲へも広がっており
切除できる状態ではなく
バイパス手術が行われた
肺がんの進行を待たず
胃癌が予後を左右する状態だ

癌に対する治療方針を決めるときは
患者さんの状況を総合的に判断することになるが
いくら他に不利な状況があったとしても
見つかった癌に対する治療が可能ならば
やっておかなければ後悔することもある
と考えさせられた

まあ
進む方向を決めて
しばらくたった後にしかできないのが
後悔ではありますから
別の選択をしたから後悔しなかったかどうかは
わかりませんが

誰が治療方針決定?

2011-09-01 | 医療・病気・いのち
90代の女性が紹介されてきた
施設入所中にお腹にしこりが見つかり
提携しているクリニックへ連れて行ったところ
検査が必要とのことでこちらへ

施設職員に伴われやって来た本人は
特に症状を訴えることもない

お腹を触ると確かに下腹部にしこりがあり
触れると少し痛がる
血液検査とCT検査のみを行ったところ
恐らくかなり進行した大腸癌

・大腸の進行がんである
・お腹の壁にも浸潤していると思われ そこで炎症を起こしている
・近い将来腸閉塞になる可能性が高い
・しかし詰まるのが先か 寿命が尽きるのが先か 誰にもわからない
・局所の感染から敗血症に至る可能性もある
・胸水の貯留は癌性胸膜炎によるものかもしれない
・根治術は無理である
・人工肛門造設など外科的処置が望ましい状況ではあるが全身状態からリスクが高い

 などを職員に説明した

施設に持ち帰り検討するとのこと

翌日その施設から電話が入り
遠方にいる息子と娘に連絡したが
どちらも
「もう関係ないからいいようにしてくれ。亡くなれば引取りにはいく。」というらしい
子供が許せぬようなことを母親がしたのか
母親が子供の面倒を見なかったのか
子供に余裕がないのか
理由はわからないが 悲しい人生の終末期である

年齢および体力からみて
先のことは見通せない
癌の事だけを考えて治療方針を立ててよいわけでもない
なにがよい選択となるのかだれにもわからない

ただこの治療方針は医師が決めることではない
といって施設の担当者が決めてよいのか
本人の認知症が進んでいる状況で誰が意思決定をするのか

このような問題は
現在の医療現場では日常的に起こっていると思う

腫瘍マーカーの動きだけではわからない

2011-04-28 | 医療・病気・いのち
進行がんの方に対して抗がん剤治療を行う場合
高値を示す腫瘍マーカーがあれば
そのマーカーを治療効果の指標の一つとすることが多い

しかし癌細胞集団のすべての細胞が
そのマーカーとなる物質を出しているとは限らないので
値が下がったということは
そのマーカーを出している細胞集団が減ったということにしかならないのだ

ある腫瘍マーカーが正常上限の20倍以上となっていたMさん
化学療法により次第にその値が下がり
ついに正常値内におさまってきた
自覚症状もほとんどなくなっていた

ところがある日救急外来に腹痛で訪れそのまま入院に
腸閉塞の状態で食事がとれなくなっていた

CTなどを取ると
明らかな腫瘤は認めないのだが
腹水の増加などをふくめその所見はやや悪くなっている

おそらくマーカーとなる物質を出さない細胞集団が増殖してきているのだろう
ただちに別の薬剤に変更することとした

マーカーの動きを一緒に見て喜んでいたのだが
この事実と向き合った後
当然ながらMさんの表情は晴れない
ご本人はひょっとして手術ができるくらいになるのではないかと思っていた節があるので
落胆は大きい

何とか次の手が効果を見せてくれるといいのだが
その場合も手術まで持って行ける可能性は…

異時性重複癌

2010-04-14 | 医療・病気・いのち
7年前に
胃癌で手術をしたSさん
5年たったときに
全身を調べた

胃癌は進行がんだったが
無事5年無再発で卒業となり
近くのクリニックで
診てもらっていた

最近お腹の左上がなんとなく痛む
とのことで紹介となり
久しぶりの再会となった

検査をするとなんと大腸に大きな癌ができている
2年前に一度大腸の検査もしてもらったのに
CTでもわかる大きなしこり
通常より増殖速度が速く
悪性度が高いものと思われる

一つの癌を克服しても
別のところに癌ができることは
珍しくないがかなり高齢の方なので
積極的な手術はちょっと躊躇した

しかしとてもお元気で
スポーツもされており
ご本人 家族が希望されるので
なんとか切除した

さて
次の目標は
またスポーツ復帰してもらうことだが
おそらく
状況は
術後放射線化学療法が必要

うーむ
どうしていくか
ご本人 ご家族と
じっくり相談しなければならない

症状が良くなっても

2010-03-30 | 医療・病気・いのち
風邪を引いたときには
症状がなくなっていけば
治っていっている ということになります が

がんの場合は
そうともいえないところがあります

胃癌の場合
癌自体の痛みが出るのはよほど進行した場合で
癌に併存する潰瘍による痛みを自覚する場合が多いようです

胃癌が見つかれば
その症状を取ってあげるために
胃潰瘍の薬が処方されることも多く
すると薬を飲んでいるうちに
症状がぐっと良くなります

内科から紹介されてきたKさん
診察室に来られるとすぐに
「手術を先に延ばせないだろうか?」
とおっしゃる
「もう 良くなった」
ともおっしゃる

でも状況をゆっくり説明しているうちに
「わかった。手術受ける。」
ということに

決して無理に押さえつけてまで手術はしないこと

逃げ出したくなったら
一言声をかけて逃げ出してほしいこと

逃げ出した場合は
逃げっぱなしにならずに
必ず顔を出していただくこと

というようなことを
お話して
入院予約へ娘さんと言っていただいた


だれだって
手術はいやですものね

しないで済むなら
したくないという気持ちよくわかります
しかし治療のタイミングを逃して後悔することは
なるべく避けたいですね

領収書をどうぞ

2010-03-25 | 医療・病気・いのち
病院でかかった費用に関して
レシートを発行することになったと聞く

治療や検査にいくらかかったかということは
普通にやっている病院にとって
隠す必要のない事項なのだが

患者さんにしてみれば
ひょっとしたら知りたくないことまで知ることになるかもしれない

例えば
悪性腫瘍の診断が確定し
計画的な治療管理を開始した場合
悪性腫瘍特異物質治療管理科
というものが発生する
お会計のときに
その名称が明示されることになる

私は悪性腫瘍であることは知りたくない
と言おうが言うまいが
レシートは語るのである