








NHK BSプレミアムにて毎週火曜夜9時に放映されてる1時間枠のドキュメンタリー番組で、こんな特集が組まれました。
『太陽にほえろ!誕生 ~熱きドラマ、若者たちは走った~』
このサブタイトルと事前の告知情報と、あと萩原健一さんが亡くなられたばかりというタイミングから、番組スタート時の舞台裏のみに焦点を絞った内容かと思いきや、15年近く放映が続いた中で起こった化学反応や、その影響下で生まれた後世の刑事ドラマにまでスポットが当てられたことに驚きました。
いや、その前にまず、この番組を観ること自体が初めてで、ナビゲーターが松嶋菜々子さん、ナレーターが濱田岳くんであることを知らなかった私としては、このお二人が『太陽にほえろ!』について語っておられる違和感がめちゃくちゃ新鮮でしたw
松嶋さんはかろうじて『太陽~』世代に入るのかも知れないけど、濱田くんはまだ産まれてもいなかったのでは? でもそれが悪いと言うんじゃなくて、逆に嬉しいというか面白かったですw お二人とも当時活躍されてたら『太陽~』にレギュラーかセミレギュラーで出そうな役者さんだし。
それはともかく番組は3部構成になっており、それぞれ違った視点から『太陽~』の制作現場を振り返り、刑事ドラマのジャンルだけでなくTVドラマ全体に多大な影響を与えたエポック作の誕生=分岐点を検証するといった趣。単なる懐古番組とは違います。
☆視点1/衝突がドラマにもたらした革命。
まず登場されたのは勿論、生みの親である日本テレビの元プロデューサー=岡田晋吉さん。各メディアでさんざん『太陽~』を語られ、もう語り尽くしておられますから我々ディープなファンは既に耳タコなんだけどw、DVDの映像特典などと違って今回は『太陽~』のことを全く知らない視聴者も対象になりますから、基礎中の基礎知識として岡田さんのお話は欠かせません。とにかくお元気そうで何よりです。
しかしさすがはNHK、それだけじゃ終わりませんでした。顔出しのインタビューには過去ほとんど出られなかった東宝側のプロデューサー=梅浦洋一さんがご登場!というサプライズも用意されてました。
その梅浦さんの証言により、新米刑事役は当初ジュリーこと沢田研二さんが想定されてたことが判明。所属事務所の渡辺プロに打診したもののジュリーは忙し過ぎて主役は無理ってことで、当時ヒマしてたショーケンさんを推されたんだとか。岡田&梅浦 両プロデューサーが映画『約束』を観てショーケンさんの演技に衝撃を受けたのは、その後のことだったみたいです。
かくして「何をしでかすか分からない、劇薬のような男」がキャスティングされ、彼の提言(ていうかワガママw)の数々により『太陽にほえろ!』が画期的に新しい刑事ドラマとなり、一大センセーションを巻き起こす事になったいきさつは、このブログでも繰り返し書いてきた通り。
ただ、我々マニアにとっては耳タコの話でも、それ以外の視聴者にはサプライズの連続でめちゃくちゃ面白かった事と思います。誰よりNHKのスタッフさん達が一番楽しまれたのでは?w 現在のテレビ業界じゃまずあり得ないエピソードばかりでしょうから。
とにかく、ショーケンさんの存在はあまりに大きかった。ゴリさん=竜雷太さんが試写室でマカロニ殉職編を鑑賞しながら「もういねえんだもんな、ショーケンもな……」と呟き、涙を流される場面にはグッと来ました。
「あれ、普通の人がやったら芝居でやりますよ。あれ芝居じゃないんだ、モノホンなんだから」
そう、そこが凡百の俳優たちとショーケンさんとの決定的な違い。演技力という物差しでは計れない何かがある。
仮に沢田研二さんが新米刑事を演じても面白くはなっただろうし、たぶん視聴率はもっと稼げたと思うけど、終了から30年以上も経つのにこうしてNHKで特集されるようなレジェンド番組にはならなかったような気がします。
そして、ショーケンさんのワガママがもたらした数々の革命の中でも特筆すべきが、大野克夫さん=ロックバンドの起用。
ここで日テレの音楽プロデューサーだった飯田則子さんがご登場、それが当時いかに斬新だったかを語って下さいました。
それまでの常識だったスタジオミュージシャンたちの演奏によるBGMと、ロックバンドの演奏によるBGMとは感覚的なものがまるで違う。
「バンドの音のほうが、上手じゃなくても何かがある」
それは私みたいな素人でもよく解ります。当時『太陽にほえろ!』のサントラ盤はポリドール社と東宝レコード社が競作してて、東宝バージョンは(版権の問題で)スタジオミュージシャンたちによるカヴァー曲が中心なんだけど、なんか軽いというか平坦というか、井上堯之バンドによるオリジナル(ポリドール版)とは明らかに迫ってくるものが違ってました。バンド演奏ならではのライブ感、荒削りゆえの迫力がまた画期的だったワケです。
「TVドラマで聴いたことのない音が出てきた。これが一番じゃないですか?」
若者たちの音楽嗜好に初めてドンピシャにハマった、当時最もポップなTVドラマが『太陽にほえろ!』だったワケです。
☆視点2/脇役から主役になった若手俳優。
第2の視点は、意外にも殿下=小野寺昭さんでした。プロレス番組の打ち切りにより急きょ企画された『太陽にほえろ!』のキャスティングは、主役のショーケンさんとボス=石原裕次郎さん以外は急ごしらえの言わば寄せ集め。特に長さん=下川辰平さんと小野寺さんは当初、言っちゃ悪いけど人数合わせの脇役に過ぎなかった。
ところが番組が長期化するにつれ、レギュラーキャストが主役を交代で勤めないとスケジュールが回らなくなり、仕方なく殿下や長さんの主演エピソードも創られるようになり、気がつけば小野寺さんが女性人気を一手に担うほどのスターになっちゃったという顛末。殿下のブレイクがこんなネガティブな切り口で語られたのもまた新鮮で、だから小野寺さんなんだと納得しました。
そして『太陽~』がデビュー作だった当時の新人俳優を代表して登場されたのが、テキサス=勝野洋さん。まぁテキサス絡みのエピソードは聞き飽きたものばかりで、特に書くことはありませんw
☆視点3/憧れを超えようとした脚本家。
さて、一番驚いたのがこの人、君塚良一さんのご登場でした。
専門誌に掲載された『太陽~』のシナリオ募集を見て応募され、採用されて第423話『心優しき戦士たち』という形になったものの、チーフライター=小川英さんの直しによって君塚さんが書かれた台詞は一言一句残ってなかった、というほろ苦い脚本家デビュー時のエピソードや、代表作『踊る大捜査線』の脚本作りは『太陽~』が定着させた刑事物のパターンを全て禁じ手にすることから始まったこと、なのに数字を稼ぐために「殉職」というカードだけは使わざるを得なかったこと等、全部すでに知ってた話ではあるんだけど、こうしてご本人の口から語られるお姿を見るのは初めてで、ちょっと感動しました。
『踊る~』ほど強く『太陽~』を意識して創られた作品は他にないワケで、『太陽~』以降に生まれた全ての刑事ドラマがその影響下にあることを、より具体的に語ってもらうのに君塚さん以上の適任者はいなかった事でしょう。
で、締め括りはやはりボス=石原裕次郎さんの最終回における伝説のアドリブ演技と、その回を演出された鈴木一平監督のインタビュー、そして「さよならパーティー」に寄せられた裕次郎さんのボイスレターの全編公開。
タイトル通り番組スタート時のエピソードに比重が置かれてるので、番組終了時のエピソードは駆け足にならざるを得ないんだけど、押さえるべき所はしっかり押さえ、例えば歴代の殉職シーンをダラダラ見せるような無駄は一切省いた、実にパーフェクトなドキュメンタリーだったと私は思います。
ちょっとだけ重箱の隅をつつかせてもらうと、七曲署メンバーの紹介がちょうど10周年までで区切られてしまい、ボギー=世良公則さんがまったく登場しなかったのは残念でした。マイコン=石原良純さんですら集合写真には写ってたのに!w
それと『太陽~』BGMが数多く使われ、小野寺さん登場時には「殿下のテーマ」が流れるなどツボをしっかり押さえてくれてるにも関わらず、いや、だからこそ、あの名曲中の名曲「ジーパン刑事のテーマ(青春のテーマ)」が使われなかったのは残念、というか勿体ない気がしました。
まぁ、そんな些末なことを気にするのは私みたいなビョーキ人間だけで、番組のクオリティーには何ら差し支えありません。ただただ「素晴らしい!」の一言です。
NHKさんが、よくぞここまで…… 没後30周年で裕次郎さんを大々的に特集したのもNHKさん、そして何年か前に『太陽~』キャストの同窓会を放映し、ショーケンさんまで引っ張り出してくれたのはTBSさんでした。
一方『太陽~』の生みの親である筈の日本テレビは中途半端な出来のリメイク版を中途半端な評判で終わらせて以降、自局の至宝を一切無視。『太陽~』のみならず『傷だらけの天使』や『前略おふくろ様』でも大貢献したショーケンさんの追悼番組すら作ろうとしない。
バカなんじゃないの? 優作さん風に言えば、バカかお前は! 今さら『太陽~』なんか取り上げてもメリットが無い? だったらNHKさんにはどんなメリットがあったっちゅーんじゃバカヤロウこの野郎!(乳首)
今回の番組が素晴らしかった分だけ、日テレの無頓着さにますます腹が立って来ちゃいました。民放は、もう駄目かも知んねえなぁ……
とはいえ、普通は30年以上も前に終わったテレビ番組を丸1時間かけて検証してくれるなんてあり得ないことで、『太陽にほえろ!』ファンは本当に恵まれてます。(『アナザーストーリーズ/運命の分岐点』放映リストをざっと見てみると、これまで日本のTVドラマで特集されたのは唯一『ウルトラセブン』だけみたいです)
ただただ、感謝あるのみです。