2008年3月、NHK「土曜ドラマ」枠で全4話が放映された、NHK名古屋放送局の制作による刑事ドラマ。
当時、団塊世代の警察官たちが大量に定年を迎え、若手中心となりつつある警察組織の能力低下が問題視され、その報道取材を基にドラマが制作されたという、異色の経緯で生まれた作品です。
愛知県警・東和警察署刑事課捜査一係の伊勢崎係長に寺尾 聰、新米の加藤刑事に森山未來、主任の岸田刑事に浜田 学、加藤と同期の古川刑事に忍成修吾、捜査二係の野下係長に石倉三郎、バツイチ「マミー」の瀬戸山刑事に池脇千鶴、鑑識係の守本主任に宇崎竜童、木島鑑識員に三浦アキフミ、交番勤務の大島巡査に苅谷俊介、そして桐島副署長に真野響子、といったレギュラーキャスト陣。
初めて観た時、刑事を演じる森山未來くんや池脇千鶴さんらのあまりに若い……いや、幼いルックスにまず驚きました。
いくら何でもこれじゃ刑事に見えない、もうちょっとそれらしく見える若手俳優をキャスティング出来なかったの? 人気優先で選んでるんじゃない?って、当時は初っぱなから引っ掛かって観る気になれませんでした。
だけど今にして思えば、若手刑事たちの頼りなさをビジュアルで表現する為に、あえて童顔の役者さんを選んでるんですよね、たぶん。
本作は団塊世代から若手への伝承がメインテーマであり、たまたまその舞台が警察になっただけの話。だから「刑事物」っていう限定されたジャンルと見なされない為にも、あえてそれらしい役者は選ばなかった……のかも知れません。
だけどその分、去り行く団塊世代には昭和の刑事ドラマを代表する感じで寺尾聰さんが選ばれ、かつて『西部警察』で同僚だった苅谷俊介さんと意味なく絡んだりするんですよねw 舘ひろしさんに『新宿鮫』を演らせたり『クロスロード』で神田正輝さんと組ませたり等、NHKさんには意外と好き者が多いみたいですw
もちろん、綿密な取材に基づいて創られた世界観はリアルだし、現代社会の問題を巧みに取り入れたストーリー(脚本は『太陽にほえろ!』でデビューされた尾西兼一さん)には説得力があり、その高いクオリティーは「さすがNHK!」と言わせるものがあります。
だけど考えてみれば、ベテランが若手に仕事のスキルやスピリットを伝えていくのって、それこそ過去「刑事物」のジャンルでさんざんやって来た事なんですよね。だから当時ホットな問題を取り上げた作品にも関わらず、印象はごくオーソドックスな刑事ドラマにしか見えなくて、そのへんは創り手たちの誤算だったかも知れません。
その反省を踏まえてか、翌'09年に放映される続編『リミット/刑事の現場2』ではガラリと趣を変え、心に闇を抱えた投げやりベテラン刑事(武田鉄矢)とサイコな連続殺人鬼(井浦 新)との狭間で翻弄され、常軌を逸していく森山未來くんの狂気が描かれ、刑事物というジャンルには収まらない力作になってました。
そのあまりに強いインパクトの続編(脚本はあの遊川和彦氏!)の陰に隠れて、目立たない存在と思われがちな『刑事の現場』第1シリーズだけど、ちゃんと観れば確実に楽しませてくれるクオリティーだし、各エピソードで描かれた現代社会の問題には考えさせられるものがあります。
特に原田芳雄さんゲストの第2話で描かれた、警察組織があまりに軽視しがちな「被害者遺族の心情」は、誰もが当事者になり得る問題だけにスルー出来ない重さがあり、第2シリーズではそれがメインテーマになってます。
池脇千鶴さんが子持ちの女刑事を演じる意外性も見逃せないし、『太陽にほえろ!』マニアとしては中堅に成長した「ダンク刑事」の姿にも感慨深いものが(ほんの少しだけどw)あるし、もちろん刑事を演じる寺尾聰さんには不変の格好良さがあるし、これはやっぱりスルー出来ない作品です。