1974年の秋から'77年の春まで全124話が放映された『非情のライセンス』第2シリーズの第101話。第97話で坂田刑事(宮口二郎)、第99話で右田刑事(左とん平)が殉職し、この回から新任刑事が加わる事になります。
☆第101話『恋心』(1976.10.7.OA/脚本・監督=永野靖忠)
香港の麻薬シンジケートに潜入していた保安課の大和田刑事(井上孝雄)が消息を絶ち、その行方を追って香港へ飛んだ警視庁特捜部の会田警部補(天知 茂)は、帰りの旅客機内で美人キャビンアテンダント=滝 悠子(篠ひろ子)が外国人女性とこっそりハンドバッグを交換する姿を目撃します。
それを麻薬の取引だと確信した会田が悠子をマークし、徹底的にストーキングしてみたら、行方不明だった大和田刑事が彼女の前に現れたから驚いた! どうやら悠子は大和田とチョメチョメな仲らしい。
ということは、やはり大和田は麻薬組織に寝返ったのか? 会田はそれを確かめようとするんだけど、組織の殺し屋らしい連中に襲撃され、二人を取り逃がしちゃいます。
どうやら組織は、大和田が潜入捜査官であることに気づいた上で彼を利用してる。じゃあ、大和田自身はどうなのか? 彼はそうとも知らずに潜入を続けてるのか、あるいは完全に寝返ったのか? 彼は果たして今でも刑事なのか?
確信が持てない会田は、悠子を見つけ出して自分のマンションに連れ込み、大和田と組織の出方を探ろうとするんだけど、そこに訪ねて来た上司=矢部警視(山村 聰)がとんでもないことを言い出します。
「紹介しておこう。今度交通課から我が特捜部に配属になった、滝悠子くんだ」
「なんですって!?」
なんと悠子は警察官で、愛する大和田と再会したい一心で特捜部入りを志願し、会田より先に潜入捜査を開始していたらしい。だったら最初からそう言わんかい!と、さすがのクールガイ会田も怒り心頭。だけど矢部は涼しい顔で言うのでした。
「お前さんと彼女とじゃ目的が違う。もし大和田がクロだったらお前さんは彼を逮捕するだろ? ところが彼女は、大和田刑事を殺すつもりでいるんだよ」
「殺す?」
「そうだ。もし大和田がクロならば、彼は麻薬組織の一員として一生を過ごす事になるだろう。だが今彼が死ねば殉職って事になる。それが愛する人間の選んだ道なんだよ」
んなアホな!と、会田刑事より先に我々視聴者がツッコミを入れずにいられませんw
「すみません……私、刑事には向かない人間なんです、きっと。でも私、女ですから」
そうはさせじと会田は組織と取引し、命懸けで大和田を守ろうとするんだけど、往生際悪く逃げようとする彼の背中に、悠子は迷わず鉛の弾をぶち込むのでした。
「お……俺は……刑事だ」
大和田は虫の息で会田にそう言った後、黒幕の正体を告げて絶命します。
「あなた……ねえ、教えて! 教えてちょうだい! あなた刑事だったの? ねえ、教えて……教えてよ!」
泣きながらそう叫ぶ悠子に、きっと大和田はあの世から「撃つ前に聞けよ!」とツッコんだ事でしょう。
こうして麻薬組織は摘発され、大和田を撃ち殺したのは会田であると、矢部警視が上層部に嘘をついたお陰で悠子は免職を免れました。会田が人を殺すのは日常茶飯事だから黙認されるみたいですw
「部長、それで大和田さんはやっぱり刑事だったんですかねぇ?」
若手の浮田刑事(松山英太郎)にそう問われて、矢部は言います。
「さあ、今となっては誰にも分からんな。本人以外には……いや、ひょっとしたら大和田刑事自身にも分かんなかったんじゃねえのかな」
山村聰さんが口にされると深い台詞みたいに聞こえるけど、よくよく聞けば実に無責任な言い草ですw そもそも部下が私情で潜入刑事を殺すつもりなのを知りながら放置するのもムチャクチャだし、それをギリギリまで会田に隠してた真意もよく分かんない。悲劇を高みの見物して楽しんでるとしか思えませんw
で、警察をクビにならずに済んだ悠子は、この先どうするのかを問われてこう答えるのでした。
「大和田さんは刑事だったんです。私、そう信じてます。ですから私、その遺志を継いで………それに、今ここで辞めたら、会田さんに借りが返せなくなりますから」
そんなワケで滝悠子は特捜部の一員となり、篠ひろ子さんは今後レギュラーキャストとして活躍される事になります。(ただし会田と矢部以外の刑事は毎週登場するワケじゃないので、正確にはセミレギュラー)
いやぁしかし、驚きました。滝悠子は恋人に会いたい一心で潜入捜査を志願し、恋人の名誉を守るために彼を射殺しちゃう。職務やモラルよりも恋愛感情を優先し、悪びれもせず「だって私、女ですから」と開き直り、目的を果たせばシレッと特捜部に居座っちゃう。
こんな女性レギュラーが他の刑事ドラマに存在するでしょうか?w 少なくとも、職務のために私情を捨てることを美徳とする『太陽にほえろ!』じゃ絶対にあり得ない。だからこそあえて王道『太陽~』と真逆のアプローチを試みたのかも知れないけど、私は到底共感できませんw
でも、刑事ドラマとしてじゃなく「人間ドラマ」として捉えたら、こっちの方がリアルなのかも知れません。女って多分、こういう生きものでしょうから。
私はこれまで『非情のライセンス』のどこが面白いのか正直よく解らなかったんだけど、このエピソードを観てちょっと解った気がしました。要するにこのリアルさ……と言うより生々しさですよね。
その最たるものが『太陽~』ではタブーとされてるセックス描写で、『非情~』には頻繁に登場するし、今回も悠子と大和田の濡れ場が(見せ方はソフトながら)ちゃんと描かれてます。
オトナの男女が愛し合えばチョメチョメするのは当たり前であり、それを仄めかすことすら許されない『太陽~』でいくら男女愛を描いてもイマイチ説得力が無い。だからこそ家族揃って安心して観られたワケだけど、夜10時台放送の『非情~』は『太陽~』に出来ないことを意識的に追究し、違った客層(現在ではテレビ業界から完全に無視されてる成人男性層)を取り込むことに成功したんだろうと思います。
ほんと笑っちゃうくらい、何から何までアダルト風味。だから精神年齢が中学生レベルの私にはなかなか響いて来ない。今回その良さをちょっとだけ理解した分、ちょっとだけ大人になれた気がしないでもありませんw
なお、次回(第102話)からは財津一郎さん扮する「ばってん刑事」こと堀刑事も新加入。降板された左とん平さん=コメディリリーフ枠の後任ですね。