上善如水

ホークの観察日記

『書肆アクセスという本屋があった』

2013-04-18 22:27:44 | 本と雑誌

書肆アクセスという本屋があった―神保町すずらん通り1976‐2007 書肆アクセスという本屋があった―神保町すずらん通り1976‐2007
価格:¥ 1,200(税込)
発売日:2007-12


図書館で借りた本。

『書肆アクセスという本屋があった』(右文書院)

 地方・小出版流通センターのアンテナショップとして、東京神保町のすずらん通りにあった本屋、「書肆アクセス」が閉店したのは2007年のこと。
 この本は、10坪ほどのこの小さな(しかし地方の出版業界にとってはとてつもなく大きな)本屋が閉店したことに対して作られました。
 文章を寄せているのは、「アクセス」に本を置いてもらっていた地方の出版社やミニコミ、リトルプレスの発行者、本を探しに来ていた編集者やライター、お客、他書店の関係者や経営者、そして「アクセス」の従業員たち。

 その文章を読むと、いかに「書肆アクセス」のファンが多かったのか、いかに多くの人に支えられていたのかがわかります。

 北は北海道から南は沖縄まで、普通の書店では置かないような、同人誌、ミニコミ誌、地方の雑誌など、日本各地の地方色豊かな本がそこには置かれていたそうです。

 いいなぁ~
 そんな本屋さん、一度は訪れてみたかった!

 書店の経営が苦しいのは6年後の今も同じ。
 大型書店の出現。
 読書離れ。
 少子化や長引く不景気と、原因はいろいろあるでしょうが、魅力的な本屋さんがどんどん姿を消してしまうのは寂しい。
 ネットの普及で家にいながらにして欲しい本を注文することはできるようになりましたが、本棚の間をブラブラして、「こんな本があるんだ!」と興味の引かれた本に手を伸ばす、本屋さんにはそういう楽しみもありました。
 自分の知らない本を教えてもらう場所・・・

 「書肆アクセス」とそこに出入りする人々の会話やつながりをこうして文章で読んでみると、本屋の理想の形が「書肆アクセス」にはあったと思えてきます。

 だいたい、ひとつの本屋さんについてこんな本ができちゃうんですからね!

 いいなぁ~
 仲間に入りたかったなぁ~

と思わず思ってしまいました。


高楼方子 『時計坂の家』

2013-04-17 01:02:14 | 本と雑誌

時計坂の家 時計坂の家
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:1992-10


 子供時代、期待していたのに期待通りいかなくって、ガッカリしたある種の喪失感。
 友達に喜んでもらおうと思ってとっておきの宝物を見せたのに、たいして盛り上がらなかった時の自分の中の残念感。
 自分の感情が高ぶっているのに、友達はそうでもなくて、その時感じた温度差と自分の幼さに気付いた時の恥ずかしさ。

 もう、高楼方子さんって、児童小説なのにヒーローとかヒロインが登場して、助けてくれる大人がいて、不思議なことにも何となく理由がある普通の物語じゃなくって、子供時代に誰もが体験した、それでもって恥ずかしくて忘れてしまいたいような感情を、見事に思い出させてくれて、正直「まいった!」と思うような物語を書くんですよね~

 高楼方子 著
『時計坂の家』(リブリオ出版)

 作者の高楼方子さんと、絵を描いている千葉史子さんは、共に函館出身。
 
 そのため、作品の舞台である時計台のある街、汀館(みぎわだて)の風景は、函館と重なります。
 
 主人公のフー子は十二歳。
 いとこのマリカに誘われて、夏休みを汀館の祖父の家で過ごすことになるのですが、その家にはある秘密が隠されていました。

 坂の途中にある古びた時計台。
 海を見渡すことのできる喫茶店。
 古くから外国船が出入りしていた港町。
 
 不思議な雰囲気を持ったマリカへの憧れ。
 どこか近寄りがたい祖父との対話。
 そして、フー子の母親がまだ幼かった時に姿を消してしまったという祖母に起こった事件。

「不思議の国のアリス」が英国風の不思議の国なら、この『時計坂の家』に登場する不思議の国は、マトリョーシカの少女たちが見え隠れする、ロシア風の不思議な国。

 そうなんです、十二歳のフー子は、時計坂の家でとても不思議な体験をするのです!!

 自分が主人公じゃなくって、脇役なんだと思い込む、自信のないフー子にすっごく感情移入できる~

 じれったいというか、恥ずかしいというか、落ち込んだり浮かれたり、いらぬ心配に小さな胸を痛めたり、電話をかけるだけでドキドキしたり、あぁ、もう! 全部身に覚えがあるよ~(苦笑)

 そんな子供の頃を懐かしく思い出すと共に、それとはある意味対極にある、フー子の祖父の価値観には大人としてハッとさせられます。

 人を愛する喜び。
 そして、それを失うことの哀しみ。
 ひとは、いつまでも子供のままではいられない・・・

 私はこのおじいさん、好きだなぁ~

 夏休みに読むにはピッタリ!!
 どこか「不思議の国のアリス」や「ナルニア国物語第一章」を思い出します。
 あと梨木香歩さんの「裏庭」とか。
 
 いい読書ができました♪


落ち着かない・・・

2013-04-16 23:41:46 | ニュース

 今日は一日、アメリカのボストンマラソンの会場で起こった爆発事件のニュースが気になってしかたありませんでした。

 二度の爆発、逃げ惑う人々の映像が何度もTVで流れていましたね。

 犯行声明などは出ていないみたいで、いまのところ犯人もわからない様子。
 9.11のような、国家を狙った国際的なテロ攻撃なのか、それとも個人による卑劣な犯罪なのか・・・

 私は東アジアに住む、いち東洋人にすぎませんが、こういうニュースを聞くと不安になってしまいます。

 あぁ・・・


岐阜やながせ一箱古本市

2013-04-14 21:04:48 | まち歩き

 岐阜市の柳ヶ瀬商店街で行われた、一箱古本市に行って来ました。

「ハロー! やながせ」という、若い商店主さんたちが立ち上げた地域おこしプロジェクトのひとつらしいのですが、まさにダンボール一箱分くらいのスペースに自分好みの本を持ち寄った小さな本屋さんが並んでいて、柳ヶ瀬商店街が「本の街」になっていました♪

Img_2610


 本の他にも雑貨、手製のぬいぐるみ、小物などが並べられていて、蚤の市みたい!
 ワークショップもあって、「豆本」を作るコーナーや、木製の「ブックエンド」を自分で作るコーナーができていて、親子連れでにぎわっていました。
 岐阜でもこんなことをやり始めたんですね。
 来年もやってくれるのかな?

 私の住んでいる所は田舎なため、電車で岐阜市に行こうとすると、一度名古屋まで出た方が早い(苦笑)
 せっかく名古屋まで行くんだからと、途中下車して、「ひつまぶし」を食べて来ました!!

 ひつまぶし、久しぶり~

Img_2614


 最初は皮がパリパリに焼かれたうなぎだけで。
 次は刻みネギなどの薬味をのせて。
 最後はダシを上からそそぎ、お茶漬けに!

 やっぱりうまい!!
 電車だったので、おまけで生ビールもいただきました!
 いいよね、昼間に飲むビール!(笑)

 本もたくさん買ってきたので、これから読みます。

 買ったのは、笙野頼子さん、高楼方子さん、天沢退二郎さん、吉野せいさん、などなど。

 とっても楽しみ♪♪

 


出久根達郎 『佃島ふたり書房』

2013-04-14 02:51:13 | 本と雑誌

佃島ふたり書房 (講談社文庫) 佃島ふたり書房 (講談社文庫)
価格:¥ 571(税込)
発売日:1995-07

 古本屋の女主人が様々な謎を解く、三上延さんの『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス)が少し前まで話題になっていましたが(もうブームは去ったの?)、古本屋を舞台にした小説で、こんな名作がすでにあったんですね~

 1993年の直木賞受賞作品ですから、単に私が無知だったってだけなんですが(苦笑)

 出久根達郎 著

『佃島ふたり書房』(講談社)

 舞台は東京佃島の小さな古本屋「ふたり書房」

 小雪の舞う昭和三十九年の一月のこと、隅田川を横切る渡船に乗る一人の男の目線から、物語は始まります。

 病弱な母親とその年高校を卒業する娘二人が営む「ふたり書房」

 亡くなった先代の店の主、その親子の父親と親友だった男は、ここ数年、母娘を陰日向になり助けてきました。

 店番はもちろん、本の仕入れ、値付け、(古本業者の営む)市場の付き合い・・・

 物語はこの男と「ふたり書房」の母娘を中心に、亡くなった親友と男が過ごした青春時代へ時代をさかのぼって進んでいきます。

 時代がまだ明治と呼ばれていた頃。

 本の町、神保町。

 日露戦争の勝利で町には清国(当時の中国)からの留学生があふれ、遊郭も健在で、社会主義や共産主義をあつかった本が禁制本となっていた時代、十五歳だった男は古本屋の小僧として住み込みで働くことになります。

 いわゆる丁稚奉公。

 そこで男は、親友となる男と、その男の妻となる若き日の「ふたり書房」の女主人に出会うのです。

 遊女にチョコレート。

 謎めいた女に「大逆事件」

 神保町を襲った大火に、関東大震災。

 発禁本に満州という新天地。

 作者が実際に古本屋を営んでいる方なので、古本屋の内情についてはとっても詳しく書かれていてすごく面白い♪

 また相当な本好きなのが文章の端々に垣間見えて、それを読んでいるだけで幸せな気分になれます!

「古本屋さんという商いは、よその物売りの数倍、商品に愛情をもたなくてはいけませんよ。店主の本への思い入れの深さが、客を呼ぶんです。客は本の身内ですからね。本を邪けんに扱う店には寄りつかない・・・」

         -出久根達郎 「佃島ふたり書房」-

 不勉強にも、「大逆事件」について、物語にも登場する「菅野スガ」について、これまでは概要をなんとなく見聞きしていただけで、詳しい内容は知りませんでした。

 今回調べてみて、すごく勉強になりました。

 あと細かい事を書くと、佃島と徳川家康とのこと、新しい橋の渡り初めにつきものだという「三代夫婦」による渡り初め、お神輿の担ぎ方や、江戸っ子の「ワッショイ」という掛け声に対する思いなど、明治から昭和にかけての風俗を知ることができたのも楽しかった。

 こういう本、これまで読んでこなかったんですよね。

 まるで本好き大人向け「ALWAYS 三丁目の夕日」みたい♪

 私がこの出久根達郎の『佃島ふたり書房』を読んでみようと思ったのは、BSフジプレミアムで放送された「名作を旅してみれば~佃島ふたり書房~」という番組を見たから。

 俳優のイッセー尾形さんが、実際に物語の舞台である佃島を歩いたり、古書会館での古本業者による「振り市」を体験されたり、神保町の古本屋さんを訪れたりしていました。

 そしてところどころに入る近藤サトさんの朗読。

 いわゆる「スイチャブ」と呼ばれる社会主義の本(かつての禁制本)を今でも扱っている古本屋として、早稲田の虹書店さんも紹介されていました。

 この番組を見て、どうしても『佃島ふたり書房』が読んでみたくなったんです!

 それと同時に思ったのは。

 いいなぁ、東京。

 佃島や神保町、早稲田の古本屋さんにも行ってみたい!!

ということ!

『佃島ふたり書房』はかなりのページを使って言及されている、様々な古本屋の知識も魅力的なのですが、何と言っても引き付けられるのはその登場人物です。

 男と女の物語はいろいろありますが、こういう古典的というか、夏目漱石や森鷗外のような男女関係の物語を、久しぶりに読みました。

 懐古趣味ではありませんが、若い頃は敬遠していたこうしたいわゆるちょっと古臭い物語を、この頃なんか味わい深いと感じるようになってきたんですよね~

 しっくりくる、という感じ?

 私が年をとったってこと?(苦笑)

 いや、今だからこそ、こうした物語が逆に新しいかも!(笑)

「女は子供の時から大人だよ。死ぬまで子供っぽい男とは違う」

          -出久根達郎 「佃島ふたり書房」-

 あぁ、中学生の頃にこの境地がわかっていたらなぁ~

 ・・・いや、それはそれで問題あるか(苦笑)

 先日読んだ村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)じゃありませんが、大人の世界って、ネットで無責任な書き込みをしているぼうやたちが考えているほど単純なものじゃなくって、すこしばかり複雑にできているんですよね。

 白か黒か、正義か悪か。簡単に割り切ることで不安な状態から早く抜け出したいのは分かるけれど(それが楽でもあるし)、割り切れないものを背負って生きていかなきゃたどりつけない、そうしなきゃ見えてこないものだってありますからね。

 歩み続けてこそ見えてくるもの。

 そもそもそこまでたどり着けるかどうかさえわからないけれど、ただ一つ確実なことは、途中であきらめてしまったら絶対にたどり着けないってこと。

  最近は物わかりのいい「いい子」が増えてきてるかなら~

  あきらめも早すぎる。

 とにかく、この小説も「割り切れないもの」が書かれているわけです。

 最後まで読んで、「何がいいたいのかわからない」と思う人もいるでしょうし(せめて若い人であって欲しい)、桜が散るのをただの自然現象ではなく別の物の象徴として受け止めるように「こういうのもいいね」と思う人もいると思います。

 私は「風情のある小説」として読み終えました。

 その風景から何を感じるのかは、その人の経験しだい♪

 本当、読めてよかった☆