ファミリー野菜作り体験に参加している,一人の子が葉の付いたキュウリの実を見つけました。「ほほう,珍しい!」。お母さんも初めてだそうで,これはめったにお目にかかれない例です。
さて,この“めったにお目にかかれない”ということばですが,言外に「時には偶然ながらお目にかかれることもありうる」という意味を含んでいます。気を付けていれば,ときには出合える例なのです。
しかし,ふつうはたいへん珍しいらしく,新聞のネタになることがあります。わたし自身は,何度となく見た経験があります。
ネット情報で調べてみると,たとえば,次の記述が見当たりました。
- 一度細胞分化したものが異なるものに変形するのは自然界では珍しい。植物の細胞が突然変異しホルモンのバランスに変化が起こったための現象ではないか。
- 子房に相当する実から葉が出る場合と,子房は完全でも花弁の下にある「がく」が葉に変化する場合とがあります。いずれも花芽がなんらかの異常を起こしたものと思われる。
- 多肥などにより、草勢が強い場合に稀にみられることがある。
- 天気が良すぎるなどの気象条件により、樹勢が強く葉が育ちやすい時に,きゅうりの実に葉がつくことがある。
- 花は変化した葉である。
- 花は葉へと先祖返りしてしまう。
解説を読むと,理由が現象の説明にとどまるもの,本質的理解につながるもの,の二つがあることがわかります。
「突然,何かの原因で異常が生じた」「肥料や天候が影響したのだろう」といわれても,根本的な理解にはつながりません。現象が生じた経緯を単に推測で語っているだけなのですから。新聞紙上ではこの程度で済まされてしまいます。
わたしは,そうした解説だけで終わるのではなく,本質をつく話に触れてほしいと思います。「進化の筋道からいえば,花は葉からできている」「雄花の子房は緑色をしている。先祖の葉を連想させる色だ。実際,光合成をしているのだ。そこから葉が生えてもちっともふしぎではない」「キュウリは特性上,先祖返りしやすい性質を今も持ち続けている」。こんなぐあいに。つまり,子ども向けなら「昔,昔,その昔。ずうーっと昔の話。キュウリに実のなかった頃の話。この膨らんだところ,つまり花は葉っぱだったんだよ」となります。
本質が見えれば,先の「何かの原因」「肥料や天候」は実に葉が付く現象を誘発する一要因であった,と理解が進みます。
このような解説があれば,現象に出合った人はもっと腑に落ちるでしょう。さらに,野菜のふしぎ,おもしろさに目が向くと思うのです。
野菜畑には,いろんなおもしろさが転がっています。そうしたものに出合ったときは簡単に考えてしまうのでなく,一度立ち止まって「おやっ?」と感じることが大事でしょう。ふしぎをたいせつに!