古代日本国成立の物語

素人なりの楽しみ方、自由な発想、妄想で古代史を考えています。

◆蘇我氏の考察

2016年12月05日 | 古代日本国成立の物語(第一部)
 神武東征を論証している途中であるが寄り道をして葛城氏について考えてきた。ここではさらに寄り道をして蘇我氏について考えてみたい。

 書紀によると蘇我馬子は推古天皇に対して「葛城県は元々はわたしが生まれた本拠地なのでその県を姓名(かばねな)にした。その県をわたしが治める県にしたい」と、葛城の地を蘇我氏に割譲するように申し出た。この地は既に見てきたように水運、海運ネットワークの要衝の地であり、葛城氏が繁栄する礎でもあった。推古天皇は蘇我馬子の妹、堅塩媛(きたしひめ)の子であり、天皇にとっては叔父にあたる馬子の依頼であった。それまで天皇は強い権力を手にした叔父の願いを全て聞き入れてきたが、今回だけは聞けないと断ったという。葛城の地がそれほど重要な地域であったことの証である。そしてこのとき馬子は葛城の地が自らの生誕の地であると言っている。馬子が葛城の地名を姓名にしたことについては、平安時代前期の歌人である藤原兼輔が917年に編纂した聖徳太子の伝記である『聖徳太子伝暦』に「蘇我葛木臣」と記されていることもあり、おそらく事実であったのだろう。また、吉村武彦氏がその著「蘇我氏の古代」において「葛城氏の没落後、おそらく稲目の前後に、蘇我氏が葛城の一部地域に政治的勢力を培い始めた」と指摘しているが、葛城氏の没落に合わせて蘇我氏が歴史の表舞台に立ち始めた事実を考え合わせたときにこの指摘は妥当であると言えよう。蘇我稲目が葛城に進出し、葛城の女と結ばれて馬子が生まれた、というのは十分にあり得る話である。
 では、蘇我氏が稲目の頃に葛城に進出したとしたら、それ以前はどこにいたのだろか。蘇我氏の本貫地については一般的に次の3つの考え方がある。

 ①大和国高市郡曽我(奈良県橿原市曽我町)
 ②大和国葛上郡(奈良県御所市)
 ③河内国石川郡(大阪府富田林市及び南河内郡の石川流域)

 ②は先に見た通り、馬子の本居(生まれたところ)があったことには蓋然性があり、その父である稲目が葛城に出入りしていたことは確かであろう。さらに書記には馬子の子である蝦夷が「己が祖廟を葛城の高宮に立てて」という記述もあり、馬子、蝦夷の二代に渡って葛城に関わりがあったことがわかるが、稲目まで含めて考えてもこの三代に限った話であり、蘇我氏の本貫地が葛城にあったことを伺わせる証左が他にないことから②は疑わしいということになろう。
 ③は六国史のひとつである日本三代実録にある石川朝臣木村の言として記された「始祖は大臣武内宿禰の男宗我石川、河内国石川別業に生まれ、故に石川を以て名とす」という記事が根拠とされる。石川朝臣の始祖が宗我石川で、その宗我石川は河内国石川の別業で生まれたのでその居地を氏名にしたということだ。また、古事記にも建内宿禰の子である蘇賀石河宿禰が蘇我臣の始祖であると記されている。蘇我氏は河内の石河(石川)を出自として稲目の時代に葛城に移った可能性は考えられる。
 ①については土地の名を氏族の名に冠するケースが多いことを考えると、蘇我氏は大和の曽我の地を本貫とした可能性は十分に考えられる。古事記において建内宿禰(武内宿禰)の9名の子のうち地名を冠すると考えられるのは波多、許勢、平群、木、久米、葛城に加えて蘇賀があり、この蘇賀を曽我と考えることに異論はない。この曽我の地には宗我坐宗我都比古神社がある。神社由緒によると「式内宗我坐宗我都比古神社は大同元年(八〇六)大和国内に神封三戸を寄せられ(新妙格勅符妙)、天安三年(八五九)一月二七日に従五位下より従五位上に昇叙、同六年六月十六日には正五位下となった(三代実録)。当社の創祀について、「五群神社記」には推古天皇の時に蘇我馬子が武内宿禰と石川宿禰を祀ったとある。」となっており、少なくとも806年には蘇我氏ゆかりの神社として存在したことがわかる。この神社の存在は曽我の地と蘇我氏の縁の深さを感じさせる。

 私は蘇我氏の本貫地は現在の橿原市曽我町、つまり①の説が妥当であると考える。現在の大阪府富田林市の石川周辺や奈良県御所市の葛城を訪ねても蘇我氏を感じさせる痕跡がまったく見られないのだ。私は現在、富田林市に住んでいるが地元民からそのような話を聞いたことがない。詳しい調査をすれば根拠となる史料や伝承が出てくるのかもわからないが、少なくとも地元で生活していてそれを感じたことがない。また、富田林から竹内街道を経由して奈良の葛城へもよく足を運ぶが、葛城氏のゆかりを感じることはあっても蘇我氏のそれを感じたことがなかった。その一方で、古くからゆかりのある神社が存在し、町の名前として現代まで受け継がれている事実を考えると、この曽我町が蘇我氏の本貫地であったと考えるのが自然ではないかと思う。


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