古代日本国成立の物語

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武内宿禰の考察③(武内宿禰の長寿)

2020年09月12日 | 武内宿禰
■武内宿禰の長寿

武内宿禰の年齢について今一度、見ておきたいが、日本書紀によると、生まれは第13代成務天皇と同じであるので、書紀の記述をもとに成務天皇の年齢を起点にして順に確認していく。成務天皇は景行46年、24歳のときに皇太子となり、景行60年に父である景行天皇が崩御した翌年に即位、そして即位60年に崩御した。ここから計算すると崩御したときに年齢は98歳となるが、書紀には107歳で崩御したと記される。ここでは107歳を採用して武内宿禰も107歳ということにする。

次の仲哀天皇は景行天皇崩御の翌年に即位して8年後の仲哀9年に52歳で崩御。このとき武内宿禰は116歳となる。そして翌年以降、69年間に渡って仲哀后であった神功皇后が摂政として政務にあたる。武内宿禰が117歳から186歳の期間となる。神功皇后が100歳で崩御した翌年に即位した応神天皇は応神41年に110歳で崩御したので、武内宿禰はこのとき227歳となる。その後、3年間の空位期間ののちに仁徳天皇が即位した。武内宿禰の薨去を仁徳55年とするとその時の年齢は285歳。仁徳78年とすると308歳となる。

やはりこの長寿はどう考えてもひとりの人物とは思えない。そもそも天皇や皇后の年齢および在位期間が現実離れして長いということに対して、書紀は二倍年暦を採用しているという説があるが、仮にそうであったとしても、ひとりの臣下が5人の天皇に神功皇后を加えた6人に仕えたということは考えにくいので、やはり複数の臣下の事績を武内宿禰という代名詞に置き換えたもの、と考えるのが妥当ではないだろうか。ここではその前提で書紀の記述を順にみてその取り上げ方を確認してみたい。なお、二倍年暦について私は否定的に捉えているが、あらためて考察することとしたい。

景行紀、成務紀においては天皇の期待に応え忠実に業務を遂行した結果として棟梁之臣、さらには大臣の職に就くことになった。天皇に忠実な臣下の姿が描かれている。ところが、仲哀紀においては天皇と皇后の微妙なすれ違い関係の中、天皇よりもむしろ皇后に従い、天皇崩御後は皇后の絶大な信頼を得て、その後の神功皇后を支え続ける。この状況から景行・成務に仕えた武内宿禰と仲哀・神功の時の武内宿禰は違う人物のように思えてならない。ここでは前者を武内宿禰Aと呼び、後者を武内宿禰Bと呼ぶことにする。

そして応神紀における応神9年の記事はもっとも注目される。武内宿禰は神功皇后のもとで、皇位継承権をもつ香坂王・忍熊王を討つという天皇家に仕える身としては反逆を犯してまで応神天皇即位に尽力した。また敦賀の気比神宮への参拝など、太子時代の天皇と行動を密にしているのであるが、その忠臣に対する天皇の言動は信じられないものだ。武内宿禰の弟である甘美内宿禰による讒言にあっさり引っ掛かった天皇は、誰よりも恩義のある忠臣を殺すように命じるのだ。応神天皇の心変わりとも考えられるが、ここは素直に応神天皇即位の立役者であった武内宿禰Bが別の人物に交代していたと捉えるのが妥当であろう。これを武内宿禰Cと呼ぶ。最後に仁徳紀では応神9年の武内宿禰Cとは別人のごとく吉祥を招く臣下として、互いの子の名を交換するなど、天皇の寵愛を受ける姿が描かれており、ここでも交代が想定されることからこれを武内宿禰Dとする。以上のとおり、あくまで日本書紀に描かれた人物像に対する印象からの推定であるが、武内宿禰として4人の人物の存在が想定される。

仮に武内宿禰が4人の人物だったとして、この4人は全く関係のない間柄だったのであろうか。古事記において押さえておくべき最も重要な記事としておいた武内宿禰の子およびその後裔氏族について、書紀にはその系譜は記されていないものの唯一、仁徳紀において、つまり武内宿禰Dの子として平群臣の先祖である木菟宿禰の存在が記される。この人物は古事記においても武内宿禰の子で平群臣の祖先であると記される。古事記の系譜が武内宿禰Aについて記しているとすれば、武内宿禰Aの子孫と武内宿禰Dの子孫に一致する名があるということになる。そのように考えると、武内宿禰AからDに至る4人の人物は直系の関係にある、つまり親から子、子から孫へと4代にわたって大臣の役割を継承したという想定ができる。つまり「武内宿禰」は代名詞ではなく本来の「姓+役職」を表していることになる。これによって記紀の読み手は4人全てが「武内宿禰」という、あたかもひとりの人物、とてつもない長寿の人物として受け取ってしまうことになるのだ。記紀の編者がそれを意図したかどうかは定かではないが。




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