第２章 トラキアへ １０３

　アエネアスは、浜を立ち去ろうとしたとき、自軍の兵、２０人くらいの一隊が浜に現れた。彼らは、そこに統領の姿を見て、ちょっとの戸惑いを見せた。彼らに遅れて姿を見せた、この一隊の責任者らしい者がアエネアスに歩み寄って来た。
　『あっ！統領ここにおいでですか。私たちは、イリオネス団長の命令で、この浜に食事の準備を整えに来たのです。舟がまもなく到着すると思います。作業に取り掛かります。宜しくお願いします。』
　アエネアスに、ここに来た旨を伝えて、兵たちを叱咤した。
　『お～い、者ども、急げ、船が見えてきた、身体を洗えっ！それがすんだら、一同ここに集まるのだ。急げ、急ぐのだ。もたつくんじゃないぞ。舟が、もう直ぐ到着するぞ。』　指示を終えた責任者は、アエネアスの方に向き、
　『統領、私たちは作業を進めます。宜しくお願いします。あっ！いいおくれました、私、オキテスの部下のテカルスと言います。』
　『おうっ、判った。』　短く返事を返した。
　食材を積んだ船が到着した。テカルスの指示が飛んだ。これまで波がかもし出していた潮騒の浜が、一度に活気を帯びた。舟方たち、そして、食事仕度を整える兵たち、彼らは、テキパキと作業を進めた。遅れて、最後尾の舟から、オロンテスと二人の浜頭が浜に降り立った。