『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第14章  焼討炎上  4

2008-06-18 08:41:51 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイ軍の将は、シノンに対して訊問を始めた。
 『この私を、この私を、助けてくれる、本当に!言います、言います。何でもあらいざらい話しますとも、話しますとも。どうか、どうか、助けてください。』 シノンは、泣いて、涙を流しながら、トロイの将にすがりついた。他人に見つからないようにして、すばやく、シノンは、隠し持っていた黄金の豆板を将の手に握らせた。トロイの将は、気取られないように、シノンを足で力いっぱい蹴飛ばした。
 『では、言います。私の名は、シノネスと言います。私はラメデスという将軍の具足持ちをしていたのです。ところが、今度の帰国のこと、逃げ帰ることで、オデッセウスに反目したのです。尻に火のついているオデッセウスは、考えている暇がない、誰にも知られないように亡き者にしてしまった。その光景を具足いれの影から私が見ているのに気付かなかったようなのです。陣払いでごった返しているし、私は、そのことを誰かれ問わずにしゃべったのです。オデッセウスは、それを耳にして、私の命を狙ったのです。私は怖かった。私は逃げ出したのです。しかし、しかし、広い陣営です。私は何とか逃げ切ったのです。私の言っていること聞いてくれているのですか。いやいや、私がトロイで捕まって首をはねられる。それをオデッセウスも願っているはずだ。さあっ、ひと思いに私の首をはねてくれ!ひと思いにやってくれ!』 シノンは、ここまで言って話を中断した。シノンは開き直っている。両手両足を広げて、地面に寝てわめきちらした。
 プリアモスは、訊問している将に言葉短く指示をした。
 『話を続けさせろ!』

第14章  焼討炎上  3

2008-06-17 08:18:40 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 兵は引き立ててきた男を王の前に突き出した。
 『この男、どうも怪しい!池の近くの草むらの中に隠れていたのを引きずって来たのだが、こ奴、トロイ城市の人間ではない。問いただして調べれば、この木の化け物の正体についてもばらすと思われる。どうしましょう。』
 『よし!手荒くやっていい。取り調べろ。はかせるのだ。』
 捕らわれてきた男の顔が引きつった。そして、わめいた。
 『くそっ!ギリシアの者どもめ!同じギリシア人なのに、本当に情けない。この俺をいたぶりやがって、そのうえ、俺をほっぽり出して、手前等は、尻尾を巻いて逃げ帰る。なんて奴等だ!くそっ!大馬鹿野郎どもめ!くそっ!馬鹿ったれめ。』
 シノンは、乱暴に悪態をついた。
 『こらっ!お前、何をほざいている。なんて名前だ言えっ!仲間に嫌われたわけは何だ。お前の仲間が逃げていったのに、お前は何でここにいる?わけを言え。どうせ、お前は生かしておくわけにはいかないんだ。どうせ死ぬ身だ。嫌なら言わなくていい。首をはねる。しかし、場合によっては、生かしてやらんでもないぞ!さあ~っ、わけを言え、全てを言えっ。その馬の正体についても話せ、白状しろ!』
 槍のこじりで突きながらどやしつけた。

第14章  焼討炎上  2

2008-06-16 07:27:29 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『それにしては、たいそうな奉献物だな。アンテノール、どうだ。どうするかは、皆にはかって決めよう。』
 プリアモスについてきた預言者のラオコーンが口を開いた。
 『王、この木馬は、トロイにとんでもない災厄を及ぼすと思われます。市内への引き入れは決してなりませんぞ。ギリシア人は奸智にたけた者どもですぞ。油断はいけません!即刻、打ち壊すことが上策と思われます。』 と、言葉を吐いたラオコーンは、手にしていた杖を木馬の胴に向かって投げつけた。木馬の胴はうつろな音を響かせた。これを見ていた王女カッサンドラもラオコーンに同調したのだが、このカッサンドラの言うことには、市民たちは誰も耳を貸さない。彼女の言うことを、あたまから信じないのである。そのようなわけでラオコーンの言うことも、市民たちは、いいかげんに聞いていただけであった。
 王をはじめ市民も、この木馬をいぶかしい目で見ていた。
 腹胴の中のオデッセウスは、いっときも早いシノンの登場を念じた。
 そんなとき一隊の将兵に捕らわれて、引き立てられて来る一人の男がいた。

第14章  焼討炎上  1

2008-06-14 07:35:29 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 巨大な木馬の周りに集まった将兵たちやトロイ市民は、木馬を見上げた。
 『この木馬、何でここにおいてあるのか。』
 『あ~あ、そこに何か書いてある。俺には読めない。』
 『どうすりゃいい?』 彼等は、いぶかしさと困惑で戸惑っていた。
 そのとき、プリアモスが側近、重臣たちを引き連れて、木馬のところへやってきた。彼等は、驚きの目を見張った。見上げ見る者を射すくめるような馬の目と合い、その不気味さで身をすくめる者、『何だ、この馬!』 と足で蹴飛ばす者もいる、愛着を覚える者はいなかった。
 プリアモスは、アンテノールに訊ねた。
 『アンテノール、そこの札に何か書いてある。なんて書いてあるのだ。』
 アンテノールは、札に書いてある文言を読んだ。
 『王、では読み上げます。『トロイの守護神、パラスアテナ女神に奉献物として、この木馬を謹んで捧げる。我等は故国に帰る。』 とあります。』
 『う~ん、そうか。あ奴等、我等がトロイの守護神、アテナの神像を盗んだ。その詫びかな。』 プリアモスの言葉には、いぶかしさが含まれていた。

第13章  木馬大作戦  20

2008-06-13 08:02:30 | アルツハイマー型認知症と闘おう
 トロイ軍の将兵たちは、近近の戦闘のことを振り返っていた。夜襲攻城戦のこと、海峡管理隊への襲撃、連合軍は敗れるべくして敗れたのだ。俺たちは、戦闘に勝った、護りきったと勝利を実感していた。
 戦野を見て廻っている彼等の目にしたものは、城壁の櫓の正面、程遠くないところに何かを見つけた。
 『あれは、何だろう?』 『何っ!どれどれ。』 『何だ!あれは、、、。』 『馬みたいわ。』 『馬としたら、大きい馬ね!』 彼等は、向かう先を変えた。
 『行こう!』 『うん、行ってみよう。』 彼等は、一団となって歩き始めた。
 『すごいっ!これ木で造った馬じゃないの。』 『それにしても立派な馬ね!』
 『なんだ、木馬じゃないか。それにしては、でっかい馬だ。』 
 彼等は、木で造られた巨大な馬が立っているのを見つけた。馬の大きな目がじい~っと城の櫓を見つめていた。その馬は新しい木で造られており、刈り取りを迎えた麦のようにつややかに、こがね色に輝いていた。
 (木馬の腹胴は、22~23人くらい乗れるマイクロバスくらいの大きさで、それに頭と足をつけたくらいであったらしい思われます。)

第13章  木馬大作戦  19

2008-06-12 07:51:25 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 彼等は結論づけた。連合軍は自軍みずから敗北を認め、戦いを止め、自国ギリシアへ逃げ帰った。この状況をそのように理解した。この戦野には、もうすでに帰ってくる陣営がなくなっている。もう燃え尽きてしまっているではないか。この風景を見て、彼等はそのように結論づけた。
 彼等の視野の中に、牛羊が草を食んでいる囲いがあった。彼等はその場所に足を運んだ。囲いの柵に文言が書かれた札が下げてあった。
 『我々は、故国に帰る。囲いの中の牛羊をトロイ市民の皆様に贈る。』 と書いてあった。この些細なひと言で彼等に戦いの終わりを感じさせた。だが、彼等は、まだ、安堵の胸をなでおろさなかった。彼等は、ぐるっと見廻した。戦争終結としては、あまりにもあっけない幕引きである。そのことに不安感を拭い去れないでいた。
 彼等は、残火のくすぶる陣営地のあちこちを見て廻った。長い歳月にわたった戦争を振り返って、『ここは、だれそれの陣地だった。』 『そう、そう。あの強い将も一本の矢が当たって死んだわね。』 『ヘクトルの祟りよ。』 と、話し合いながら、トロイの市民たちは歩いて廻った。

第13章  木馬大作戦  18

2008-06-11 08:45:37 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 プリアモスも我が目を疑って、この光景を見つめていた。

 BC11**年6月5日 の曙光がトロイ城市と戦野を山野を草原を、ヘレスポントス海峡をトロイの海を光で輝かせた。風は凪いでいた。緑は萌える、花が咲き盛る、鳥は夏を歌っている。陽は昇り行く、そして、照りわたった。
 戦野が白日のもとに、その姿をさらした。戦野にあった連合軍の陣営がない、10キロメートルにも敷かれていた船陣もきれいさっぱりとなくなっている。トロイ軍の攻撃を阻んでいた防衛柵も全てが燃え尽き、灰燼になろうとしている。
 彼等の目は海にも及んだ。海上にギリシアの黒い軍船があったのに今はない。この騒ぎがトロイ市民にも届いた。トロイ軍は門を開いてとび出した。それに連れて市民たちも城の外に出た。戦野の中の陣営地へ、船陣のあった海辺へと向かった。
 それらのところには、あちこちに燃え尽きようとする残骸がくすぶっていた。焼け野原には、動くものの姿が見えなかった。
 トロイの者たちは、眼前に広がる情景を目の当たりにして、どのように結論づけようかと迷っていた。

第13章  木馬大作戦  17

2008-06-10 07:58:40 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 10キロメートルにも及ぶ火炎は、天を焼いた。最後の役務に就いていた将兵たちに時間は残っていない、300人余りの彼等は、撤退行の軍船に急いだ。脱出の軍船は7隻、準備されている、とび乗った彼等は、懸命に櫂で漕いだ、一時も早く沖に出たいと心は急いた。
 トロイ軍は、この変事に気がついた。城壁上の衛兵が気付くや、ただちに伝言に走った。連合軍の陣営が燃えている。空に立ちのぼる煙は風で海上へと流れ、海上の眺めを遮った。10キロメートルに及ぶ連合軍の陣が焼ける、その光景は壮大な火の海であった。トロイ軍の将の面々が城壁の上から見ている、櫓からは、王プリアモスが、この情景を見ていた。(小さな町ひとつが燃え尽きていく光景を想像してください。)この炎上する様を見ていたプリアモスの身が震えた。何故、震えたか、それはプリアモス自身にも判らなかった。
 陣を焼いて撤退した連合軍、この光景を目にしているプリアモス、トロイ軍の将兵たち、重臣、側近の面々、そして、トロイの市民たち、彼等の頭に浮かんだのは、そして、胸の思いは、『俺たちは、戦いに勝ったのだろうか?』 勝利の感覚には、ほど遠いものがあった。プリアモスも、アエネアスも、重臣、側近、城中の女たちも見ている光景は、何なのだろうか。目を何度もこすって見た、見ては、こすって、また見た。目にするのは、燃えている事実で勝利の実感ではなかった。

第13章  木馬大作戦  16

2008-06-09 07:46:05 | アルツハイマー型認知症と闘おう
 陣を撤退する将兵たちの軍船は、風に押される、懸命に櫂で漕ぐ、船足は速かった。彼等は、この作戦が失敗した場合には、最後のトロイ総攻撃は行わず、故国への帰途に就くことになっているのである。
 濃い藍色の空が白んでくる。抜け殻の陣営を伝令兵が走り抜ける、その抜け殻の陣屋に、諸施設の残骸に火をつける、そのときの訪れをおそしと待ち構えていた。彼等は緊張の極みである。偽計の撤退、詐略の撤退、これを目にするトロイ軍の思惑が気になった。最後の役務に就いている彼等は、大きな結果を得るために大きな犠牲を払う、この作戦の成功を強く、強く思った。10年前の開戦以来、初めて、胸に湧き上がった勝利への強い思いであった。
 夜は明けきった。東の山の頂きに陽の昇る気配を目にした。彼等は、いっせいに火を放った。各陣屋や諸施設の残骸には、火が点きやすいように細工がしてある上に、よく乾いていた。火は勢いよく燃え上がった。10キロメートルにも及ぶ、船陣が、陣屋がいっせいに火を噴いて燃えた。煙も立ちのぼった。

第13章  木馬大作戦  15

2008-06-07 07:35:43 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 エペイオスは、各人を握手サインで、全員が予定のメンバーであることを確かめたうえで、木馬の腹胴への乗り込みを開始した。
 『音を立てずに乗り込め。』 その小声の注意とともに各人に柔らかい厚手のマントが手渡された。一番にエペイオスが、続いて、ネオプトレモス、デオメデス、アイアース、次いで、メネラオスと配下の兵たち、最後にオデッセウスが乗り込んで、エペイオスが腹胴をふさいだ。乗り込んだ者たちは、柔らかい厚手のマントで身をくるみ、隣同士が、すりあっても音が出ないように気を配って、腹胴に潜んだ。各人、息をころして身をひそめた。乗り込んだ者たちが、腹胴の中で窒息しないように工夫が施されており、排泄のことにも配慮された造りがされていた。
 この木馬作戦の25人は、今夜の深更まで、(約20時間くらい)この腹胴の中で過ごさなければならない、それを考えると気が遠くなった。彼等は、睡眠をとることで時を費消することにした。今夜、先行の4人の誰かからサインが送られてくるまで、この中にいることになるのである。
 彼等は、生死について考えるより、勝利についてのみ考えを巡らせた。