『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  167

2011-09-16 07:31:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、トリタスの姿を探した。浜衆たちと話しこんでいるトリタスを見つけた。
 『お~い、トリタス。トリタスもこっちへ来て、見てみろ。なかなか、珍しいものらしい。まあ~、見事なもんだ』
 『あ~あ、これはこれは、私は初めて目にするものです。いいものですね』
 『ところで、交易の結果はどうだった。トリタス』
 『私は、取り引きの一切をパリヌルス様にお任せしての取り引きでしたが、こんなにでっかい取り引きは初めてでしたから、ここに来ている浜衆たちも含めて大満足です。アーモンド、魚の干物の事もあり、皆さんに大感謝、大感謝です』
 『それはよかった、よかった。お前たちに不満のない交易であったことをともに喜ぼうではないか。しかし、麦の取り引きはあんなものなのかなあ、ちょっぴりだが不満を感じている。トリタスはどうだ』
 『私は、こんな大取り引きは始めてなので、大はつけませんが満足です。あれ以上を望めば欲張りになります。お世話いただいて本当に有難うございました』
 『そうか、満足してくれていたのか。それはよかった』
 イリオネスは、砦の者たちのほうへ身体を向けた。
 『どうだ、お前たちもご苦労であった。明日から二、三日はのんびり休もう、そのつもりで今夜は床についてくれ。皆、大変、ご苦労であった。以上だ』 と話を締めくくった。
 一人、二人と場を去っていく、秋が身を包んでくる。トリタスたちは小舟に乗って、交易の場であった浜を去っていった。
 短くなりつつある秋の一日が終わろうとしている。でっかい太陽が飛沫を上げて、エーゲ海のはるかに沈もうとしていた。

第3章  踏み出す  166

2011-09-15 08:01:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 舟艇の商談も決着した。交易の商談の全てが終わった。
 自分たちの守るべき領域で大満足もあれば、ちょっぴりの不満をこらえての満足もあった。だが、最後には、笑顔を交わせる満足で商いは締めくくられた。互いに有利不利を抱きながらも平和な交易であった。
 浜は荷役の作業で沸いた。作業を終えたところで、ささやかではあったがカタチだけの小宴をひらいて、互いの別れを惜しんだ。季節が船を運ぶ頃まで、この浜に交易の船が訪れることはない、秋風が渡っていく浜の午後であった。
 交易の船が出て行く、船上で手が振られている。浜に居並んでいる者たちも手を振って答えていた。
 各舟艇には三人の水夫が乗り、船団の各船が一艇づつ曳航して去っていった。
 浜では、イリオネスを中に据えて、一つの大事をなし終えた安堵感で話し合っていた。
 『いやいや、皆ご苦労であった。計画した交易というひとつの大事を為し終えた。お前たち本当にご苦労であった。お前たちに対する感謝はこのようにいっぱいだ。俺の気持ちを判ってくれるな、ありがとう、ありがとう』
 ありがとうを両の手を広げ感謝を体で表した。そして、だれかれかまわず手を握った。
 『みんなに見せる。これがテカリオンからもらった土産だ。我々が目にしたことのない品だ。これを統領に進呈しようと思っている。お前らの気持ちもそれでいいな』
 『それでいいです』
 『判った!』
 イリオネスは話を結んだ。

第3章  踏み出す  165

2011-09-14 07:26:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンは、パリヌルスに話かけた。
 『なあ~、パリヌルスどうだ。あれから、もう半年が過ぎた。ここでの生活はどうだ。俺と一緒にレスボスの海に帰る気はないか。南の多島の海では、海賊サワギもあるが、ミレトスを母港にして、交易が盛んになってきている。何となく、この世界もザワザワと忙しい。俺も海に出て静かな日には、物事を考える時間がある。そんな時、つらつらと思うことは、心の許せる奴、手を組むことのできる奴がそばにいないことだ。ときどき寂しさがふ~っとよぎっていく。お前も考えてみてくれ。もし、その気があるようなら、どうだ、俺と一緒に帰らないか』
 『なんだ、テカリオン。お前そんなことを考えるときもあるのか。それは、波の揺さぶりのいたずらかも知れんぞ。今の俺には、ちよっと、うかびもしない思いだ。過ぎたことに思いを馳せる者もいる。俺はそのタイプではない。俺はやらなきゃいけない大事があるように思っている。俺は見果てぬ夢に、この身を賭けてみようと思っている。お前の気持ちはありがたい。俺は、俺自身の向かう方向に身体を向けている』
 『そうか、俺の心はお前に残っている。まあ~、しかたがないか。気が変わったら、俺のほうに向いてくれ』
 彼は、話にピリオドを打った。
 舟艇は、快走を終えた。交易の場は、商いの最終場面であった。

第3章  踏み出す  164

2011-09-13 06:27:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 舟艇は追い風で波立つ海面を割って快走した。櫂を上げての航走は風に任せた。
 テカリオンは、堅く口を結んだまま頭に浮かぶチエック項目をチエックしていた。自分の思いを超えている舟艇の走りに舌を巻いた。感動を心の中に秘めて、パリヌルスに話しかけた。
 『おう、パリヌルス。なかなかいい!気に入ったっ。このぶんなら外海で大波にさらされても、それなりにいける。脱着できるセンターボード、船尾の三角帆、三角帆と操舵をひとりでやれる。これは評価できる。センターポールの帆の大きさもバランスがいい。文句なしだ。どうだ、そろそろ引き返そうか』
 『テカリオン、もういいか。お前このまま国に帰ってももいいんだぜ』
 『おいっ、冗談はよせ。浜へ帰って商談をまとめよう』
 『よっしゃ!浜へ帰ろう。試し乗りはもういいな?』
 『いいっ、もう充分だ。帰ろう』
 パリヌルスは、舟艇の回頭を指示した。航跡は半円弧を描いた。舵手は艇の操舵に首を傾げた。パリヌルスは、これを見逃してはいなかった。
 艇は、浜に向かって波を割っていた。テカリオンもパリヌルスも互いに思惑を抱いて艇上にいた。

第3章  踏み出す  163

2011-09-12 06:38:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今回が二度目の交易である、互いの気心が知れておるが、商談はチョウチョウハッシと駆け引きを戦わせての取り引きであった。互いの我慢のしどころで商談が決まった。魚の干物については、前回にならって、物々交換となった。
 舟艇に関する商談交渉は、それなりの時間を費やしていた。
 『パリヌルス、話はいいところまで来ている。では、舟艇に乗ってみる、いいな』
 テカリオンの気持ちは最終の品定めの段階に至っていた。
 『おうっ、判った。いいだろう。ところで漕ぎ手をどうする。俺のところからは5人出す。テカリオン、お前のところも5人だせ。漕ぎ手の意見も聞かなければ、艇を正しく評価できないだろう』
 『おうっ、お前の言うとおりだ。こちらからも5人出す。では、走らせてみよう』
 パリヌルスは、カイクスに言いつけて、5人の漕ぎ手と操舵手と展帆の要員をつれて舟艇に乗った。テカリオンも5人の漕ぎ手を含めて10人が舟艇に乗り込んだ。
 海は風が凪いでいた。櫂座についた漕ぎ手たちが一斉に海面を泡立てた。
 舟艇は沖に向けて、波を割ってすべった。小一時間も経った頃になって、海を渡る風が起きてきた。パリヌルスは展帆を指示した。
 帆は、風をはらみ始めた。

第3章  踏み出す  162

2011-09-09 13:58:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタスは、食事をしながらテカリオンを観察した。彼はこのような食事の場において、その人物を読み取る才に長けていた。砦の者たちの気心は充分知っている、彼の目で見た感じのテカリオンは、信頼に足りうる人物であると見たが、商いの駆け引きはしたたかであると感じ取った。彼はここで思案した。出した答えは、『事の一切をパリヌルスに任せよう』と心に決めた。その方が一片の不安もなく『この取り引きがうまくいく』と判断した。
 秋の冷気が身を包んでくる。宴が終わり、一同は、明朝の明けを待つ眠りについた。

 夜が明けた。心地いい冷気に包まれ、身を引き締められて、彼らは朝を迎えた。
 全員が顔を揃え、朝食の場を囲んだ。フエィス トウ フエィスの心の通じ合う食事の場であった。彼らは互いの腹の探りあいをうまく顔には出さずしたたかにやっていた。
 朝食の終わった砦の浜は、交易の場に様変わった。
 朝一番は、舟艇の吟味から始まった。パリヌルスは、舟艇の有為な機能の説明からはじめ、その機能を発揮する構造、形態を詳しく説明した。それは、互いに船について知っている者のやり取りであった。テカリオンは充分に満足した。だが、表情は不満足の風情を演出していた。

第3章  踏み出す  161

2011-09-08 07:34:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~い、パリヌルス。俺がお前に頼んでおいた、あの船足の速い舟艇は出来ておろうな』
 テカリオンは、浜に着くなり、舟艇の存在を確かめていたにもかかわらず、パリヌルスに確かめの質問を投げかけた。パリヌルスは、そのことを百も承知の上で答えた。
 『テカリオン、約束は守る、このパリヌルスだ。期待以上のものを造ってお前の来着遅しと待っていたのだ。遅いから、イブリジエからの希望者に譲り渡そうかと考えていたところだ。よ~く見まわしてみろ、向こうに見える帆柱がその舟艇だ』
 『お~っ!そうか。パリヌルス、お前、冗談がきついぞ。ハッハッハ、俺とお前の仲だ。駆け引き無しでお前の希望値を言ってくれていいぞ。ただし、ただしだ、考えられないような高い値段は、言いっこなしだ。お互い、まじめに行こう。あとでゆっくり見せてくれ』
 『テカリオン、まじめな話だ。船は聖なる乗り物だ。ヨッパラッた目で見られることを嫌がる。人智と技術と精魂の結晶の建造物だ。明朝、確かな目で見てくれ』
 『そこまで言うか。そこまで言うなら、お前の言い分を了解した』
 『よっしゃっ!それでいい。今日はしこたま呑んでくれ』
 二人の言葉の掛け合いは和気あいあいであった。

第3章  踏み出す  160

2011-09-07 17:55:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 交易人テカリオンは、一隻の交易船、それに軍船とおぼしき2船を従えて浜に到着した。
 パリヌルス、オロンテス、オキテスらが出迎えた。オキテスは、エノスの浜頭トリタスに向けて使いの者を走らせた。知らせを受けたトリタスは雀躍した。浜衆及び村の衆を総動員して、彼らが準備した交易品のアーモンド、麦、魚の干物を便船を仕立てて砦の浜へ運んだ。
 オロンテスも忙しかった。彼は砦の者たちが丹精して作ったアーモンド、麦、魚の干物を西門前の広場に集めた。
 テカリオンは、気を利かせて、イリオネスに土産品をたずさえてきた。
 『イリオネス様。お元気そうで何よりです。これは先日メレトスで手に入れたものです。お納めください』
 『ほっほう、珍しい物ですな。遠慮なくいただく、ありがとう』
 アエネアスは前回と同様に陰の人として、彼らの前に姿を現すことはなかった。
 パリヌルスはテカリオンに浜頭のトリタスを紹介し、イリオネスを座長として砦の者たち、エノスの浜衆、交易船の者たちで浜で焚き火を囲み盛大に食事会を催した。食事会はにぎわった。
 トリタスはパリヌルスに小声で依頼ごとを伝えた。
 『パリヌルス様、お願いがあります。我々が持ち込んだ交易品のことですが、いかがでしょう。一切を貴方様にお任せしよう、そのような腹づもりなんですが、お引き受けくださらないでしょうか。よろしくお願いします』
 『いいだろう。判った。お前、俺のそばについておれ。俺から離れるでないぞ。いずれにしても商いの交渉は明日だ』
 パリヌルスは、快諾した。

第3章  踏み出す  159

2011-09-06 06:34:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 舟艇に試乗した者たちや浜衆、浜で見ていた者たちから、すこぶる高い評価を受けた。
 計測機器やシミュレーション技法のない、この時代において、あらゆる状況に対応する評価は、見て、触れて、体感する以外にそれを探る方途はなかった。そして、導き出した答えも、語彙と表現が未発達のこの時代にあって、結果、結論が模糊としており、事の根源を適確に語っていたとはいえない。そうでありながらも、時代は確実に進歩し進化していた。
 舟艇建造のスタッフ一同がアエネアス、イリオネスを迎えて一堂に会した。パリヌルスが座長役を務めて話が進んだ。アエネアスは、一同の労をねぎらった上で、舟艇の評価をみんなと話し合いながら、彼なりの目線で見た評価を語った、また、舟艇の用途を例に挙げて、それに対応した使用感を想定できる範囲で語った。
 パリヌルスは、舟艇の構造上、想定外の大波の海上における使用について、彼なりに思う一つの危惧感を抱いていた。しかし、建造した舟艇は、その性能、頑丈さ、あらゆる状況に対する強度は、見本とした舟艇をはるかに超えていたのである。彼は、そのこと以外の評価については、彼らの評価を素直に受け入れた。彼は舟艇建造という事業は、これで終結したと思った。
 この後に行う舟艇の引渡しのことに付いて考えた。アエネアスを中心にイリオネス、パリヌルス、オキテス、オロンテスの五人は、舟艇の引渡し価格について検討した。
 交易の船団を率いて、テカリオンが砦の浜に到着したのは、それから一週間後の空が高く澄んだ秋烈の陽射しの日であった。

第3章  踏み出す  158

2011-09-05 06:56:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『この舟艇に乗った者たちは、舟艇の走りをどのように感じただろうか』
 パリヌルスは、彼なりに彼らの試乗感を推し量った。
 『まあ~、いいか。統領ほか身近の者たちの意見を艇の上でそれなりに聞いた。チエックの抜け落ちたところはない。この舟艇に関する限り、この俺が全てだ。自信を持とう。舟艇建造の構想を充分に備えている。自賛のところも少々ある。ま~いいか』 としたが、
 懸念が一点ある。それは海上を航走する舟艇が大波にもまれたときの状態である。
 彼らは、浜に帰ってきた。試乗に費やした時間は3時間に至ろうとしていた。
 パリヌルスは、艇から真っ先にとびおりた。彼は艇から降りてくる者たちを迎えた。彼らは新艇を褒め上げた。
 『この新艇は、素晴らしい出来だ、パリヌルス』 とイリオネスが言う。
 『海上での船速がこんなに速いとは思ってもみていなかった』 カイクスは驚きの目を見張っていた。
 『海上を走る姿がこんなに美しいとは。浜で見ていたときには想像もしなかった』 とオロンテスが言った。
 浜衆たちは、『こんな、かっこいい船に乗ったのははじめだ』 と感嘆の声でほめた。
 オキテスは、とんでもない意見を口にした。
 『おいっ!パリヌルス。大変なことだ。お前なんだか分かるか。船尾の三角帆のことだ。舵の取り具合で、これまでより簡単に風上に向かえるかもしれないぞ。そうなると大ごとだぞ』
 『いやあ~、パリヌルス様。いい船です。そのひと言です』 トリタスの感極まったひと言であった。
 皆は、パリヌルスに賛辞を贈った。