『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  729

2016-03-04 05:01:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼の思考がどうやら来るところまで来た。うれしかった。
 『そういうことか、解った。納得!』
 彼は雀躍した。彼がここは落ち着けると決めた建造の場の一隅に駆け戻った。
 木炭をつかむ、木板に書き付ける。『解った、解けた!』だがどうすれば数字になる、オキテスは、ここでまた迷った。
 原価計算に使える数字にするには、どのようにすればいいか?彼はここで迷う、悩み、考え、その錯誤を訂正するにはである。気は急く、イラつく、思考が頭の中でのた打ち回った。
 頭の中にこだまする、『おい、オキテス!なにをやっている?』別のオキテスが声をかけてくる。
 『落ち着け!冷静になれ!答えを急くな!下段から思考を積み上げろ、何かが見えてくるはずだ』
 彼は、イラつく気持ちを抑えた。
 原価を構成する費目に気付いた。その価値を数字にすればいいのだ。この作業を進めていくうえでの自分が持っている情報の不足にチエックを入れた。
 『もっていないのはこの数字だな、これを入手するには?』『この数字の入手は、軍団長だな』『これを入手して答えを出す手順だな。どんな手順でやれば、答えにいきつけるか?』『これをや遂げれば答えに到る。よし!これで答えを出せる!』
 彼は、インプット~プロセス~アウトプットの作業手順を木板に図を描いていった。
 古代であるこの時代、今の私たちが使っている加減乗除の記号と意味するところの計算手順をオキテスが知っているわけではない。彼は描きあげた図をしげしげと眺めた。
 この時代、加減乗除の記号はまだない。『0』もまだない。だが、バビロニアには、命数法ができていた。文明が伝承され、知る人は知っていた。何万人に幾人かは知っていたであろうと思われる。
 『軍団長から入手する数字。これを入手すれば一挙に答えに行きつける』
 彼は立ちあがった。
 『ここまで来るのに時間がかかったな』と独りごちて、水平線を目指して傾いている陽を見つめた。
 『おう、夕陽になるには、まだ間があるな』
 彼は木板をわきに抱えて、イリオネスの宿舎へ向けて歩みだした。
 イリオネスは、宿舎の前にはに出て、丸太棒を手にして素振りしている。オキテスが声をかける、振り向くイリオネス。
 『おう、オキテス、どうした?』
 『軍団長、ちょっと、よろしいですか』
 『おう、いいぞ!』
 『原価算出の件です。数字を決めていただきたい件があります』
 彼は、原価算出手順の不明であることを気付かれないように気を配って話しかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  728

2016-03-02 04:59:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 何をどうすればいいのか見当がつかない。この戸惑い、彼は足踏みした。腰をあげるオキテス、建造の場の一巡に歩を向けた。
 『何とかなるであろう、答えは、向こうからすり寄ってくるさ』とたかをくくっている、そうはならないことをあとから知るのである。
 思考が足踏みしている、顔をあげる、海を見る、やや強めの西風があおる海涛を眺めた。
 小島を目指す舟艇が波を割っている、櫂操作のしぶきが風に舞っている、キドニアからの帰りであろうと思われた。
 一陣の風がオキテスに吹いて通る、目を半眼にして黙考している、建造の場からは、作業の槌音が耳に届く、班長の指示する声が聞こえる、彼は建造の場へと目線を向けた。
 建造の場に立ち働く者たち姿を目に入れる、そして、つぶやく。
 『この風景が好きだな、限りなく好きだ!』
 ドックスが作業の進捗を見ている、ひとつの建造の場を見終われば、次の建造の場へと移っていく、彼はしみじみ思う。
 『ドックスがいる、あいつがいればこそ、この事業がうまく進んでいる』
 彼は感慨を深めた。
 『俺たちが組織体だから、これができている』
 組織体が形成されている、その組織体の絆は?、考えが頭をかすめて通り過ぎていく。
 『それについては、また、いつの日にか考えよう。今はーーー』であった。
 彼は我に返る。
 『今は、新艇建造の原価計算、これを集中して考えなくてはーーー』である。
 原価計算総体について考えていたが、なんとなく違和感を覚える、原価計算のコア、核は何?であるか、思考のスタンスを変える。
 立ち位置を変えて考える、原価計算の風景が変わって見える、見えていなかったものが見えてくる、が、瞬時にその姿が消える、考えが進まない。三歩進んで二歩さがるではない、三歩進んで三歩も四歩も後退するではないか。思考の足踏み、じれったい、イラつく、何とか抑える。
 彼は手ごろな大きさの石を両手に持てるだけ拾い集めて、目の前に並べて考えた。
 『これだけの者たちが、これだけの日数をかけて、これだけの仕事をする』
 彼はなんとなくわかりかけてくる。
 『うっ、うう~ん、そういうことか』
 今でいう、インプット、プロセス、アウトプット、思考作業の手順が見えてきていた。
 解決のいとくちが彼の目に見えてきた。
 『こうして造るから、このように出来上がる』
 彼は、物を造るプロセスの作業費目を見つけた。人が力を合わせて、日数を重ねて物を造る。
 彼らが、一日にかける労働の価値がこれだけで、これだけの日数を重ねて、これだけの物を造る、その総和がこれだけである。
 彼の思考がどうやらここまで来た。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  727

2016-03-01 05:09:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスと話を終えたオロンテスは、イリオネスの宿舎を出て、パン工房に戻った。
 彼は、独りごちている。
 『いいだろう。これで向こう三日間の予定はできた。作戦と要領を練っておこう。そして、堅パンの立案だ。日々の売り上げを増やす、このことを考えなくてはーーー』
 売り上げという価値を生み出す、彼にとってそれは、売れる物を己の才覚で創出することが極めて自然な成り行きであったのである。
 
 オキテスは、建造の場にあって脳漿を絞っている。これまで手掛けたことのない質と領域の仕事に向き合っている。
 『この世の中どうなっているのだ。それにしても難儀な仕事が降ってわいたものだ。しかし、これを避けて向こう岸へ渡ることができない、むつかしい仕事だ』
 移り変わる世の中、新しい制度、通貨の存在、そのことをスダヌスとの会談において知った。その利便性、価値判断についてもそのようなものなのかと思い、理解した。新しい世の中のその仕組みに応じた新艇の価値を通貨の量で価値づけるための基礎となる価値判断を数字という言葉でもって表せということかと結論した。
 ガリダ方から受け取った新艇の建造用材の価値も数字で知らされている、通貨の単位価値で金額として知らされていた。
 彼は、何としてもやり遂げなければならない仕事と認識していた。
 『いかなる難事も退けて、この仕事をやり遂げる』
 オキテスの固い決意である。彼はドックスに言いつけて、4~5枚の木板と木炭を用意させ、建造現場の一隅にところを得て落ち着いた。
 原価費目のリストアップを手掛ける、解りやすいところから手掛けていく。最初の費目は、新艇建造用材の価格、2番目は建造に費やす人手間、3番目にその他の諸掛費用とした。考えが細部に届くか届かないか、自分自身の能力を疑いながら作業を進めていく。費目大別、各個細分思考で考えた。
 『これは大変な作業だな』とつぶやきながら、書き記した木板を眺めた。
 1番目は答えが出ている。2番目の費目である、これを眺めたオキテスの思考が停止した。