メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

河野通勢 展 

2008-06-05 17:25:21 | 美術

大正の鬼才 河野通勢 新発見作品を中心に」(6月3日~7月21日)
渋谷区立松濤美術館
 
河野 通勢(みちせい)(1895-1950)の作品は、1999年1月に東京ステーションギャラリーの展覧会である程度まとめて見た。またダ・ヴィンチ「モナリザ」の構図を借りた「好子像」は東京国立近代美術館でなじんでいる。
 
しかし、通勢が長野市から東京に出てくる前、20歳前後の3年間(1914~1916)の風景画について最近多くの素描などが発見され、注目が集まり、新しい評価も出てきたようで、今春から展覧会が巡回している。
 
そういうことも頭の中にあるからか、この長野市裾花川周辺の風景画は、その細密なことがまさに「神は細部に宿る」であって、それは立体的な見え方になるし、さまざまな登場人物とあいまって個性的なものとなっている。彼がギリシャ正教徒であることもあるのだろうか、これはちょっと奇怪な感じもあるけれど、描写の迫力から無理ないなとも思わせる。
岸田劉生の切り通しの絵を思い浮かべると、確かにそれにも通じる。しかし、通勢が劉生を真似たわけではない。
 
そして岸田劉生を知り上京、自画像が多くなるが、これらはある水準に達してはいるものの、やはり劉生に比べると優劣ははっきりしている。また長野時代に出会い通勢が影響を与えた関根正二と比べても、さまざまな人物画、宗教的な絵など、関根に及ばないだろう。
 
そうして「新しい村」への参加、挿絵画家としての成功となっていく。
もちろん、一時期の天才的表現のあと、こうしてつきものが落ちたようになって世間的には幸福になったことは一つの人生であって、絵の評価とは別のことである。
 
そんな風に、画家の生涯全体を多面的に考えさせる、良い企画展であった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする