メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

市川崑物語

2008-09-30 21:27:19 | 映画
「市川崑物語」(2006年、85分)
監督: 岩井俊二
 
市川崑(1915-2008) の映画はほとんど見ていない。「ビルマの竪琴」(1956)、「東京オリンピック」(1965)、「野火」(1959)、これらのうち監督を意識したのは「東京オリンピック」だけである。あとの二つはやはり戦争、そして竹山道雄、大岡昇平という原作者を頭に浮かべたのだろうか。それも随分前のことで、最近といえば「細雪」(1983)を追悼放送で見たくらいである。なにしろ金田一耕助シリーズをまるで見ていない。
 
だからこれを見る気になったのは岩井俊二が作ったからだが、世代差を越えたこのオマージュは、岩井という人を語るのには良いものとなっている。
 
全体にナレーションはなくて、黒い画面に縦に一行ずつ文節が現れる。日本映画で時々見られる手法で、これと写真で市川の半生が語られる前半は少し眠気を誘われるが、それを過ぎるとむしろ自然に注視できるものになってくる。
 
それは市川が和田夏十を伴侶とし、彼女の脚本の話に入ってくるころだ。
和田がなくなる前、最後に手伝った脚本が「細雪」というのは知らなかった。
 
「細雪」を含め、市川の作品はいわゆる文芸大作、つまり有名作家原作のものが多い。それも主人公の女性に存在感があるものが多く、市川の描き方も岩井がいうようにエロティックより性的な方にいっているようだ。これは断片的に出てくる多くの作品の場面からもよくわかる。
 
それにしてもこれらに出てくる当時の女優たちに比べると、その後の女優たちはより中性的に見えてくる。
 
こうしてみると、岩井俊二が描く女性はもっと若く、大人になっていない年代だが、表面のさらに下層への入り方、見方では、市川崑と共通するところがある。それが岩井が市川に引きつけられ続けた所以だろうか。

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