メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

誰がために鐘は鳴る(映画)

2011-08-22 16:47:40 | 映画
「誰がために鐘は鳴る」(1943年、米) (1998年デジタル・リマスター版、160分)
監督:サム・ウッド、原作:アーネスト・ヘミングウェイ、脚本:ダドリー・ニコルス、音楽:ヴィクター・ヤング
ゲイリー・クーパー、イングリッド・バーグマン、エイキム・タミロフ、カティーナ・パクシヌー
 
ヘミングウェイの主要作品でこれだけ読んでいない。スペイン人民戦線に米国から参加した大学教授(クーパー)と両親を殺され山中の抵抗ゲリラに救われた娘(バーグマン)のロマンスに集中しすぎているのは、ハリウッド映画ビジネスのゆえだろうか。もっともこの二人を起用すればそうなるのだろうが。おそらくそれなりの時代に、それなりの年齢でみたら、この世界に入っていけたかもしれないが、今にしてみると何をいいたいのかという、もぞもぞした感じが最後まで抜けなかった。
 
まして、30分以上長くなったリマスター版。これはどうしたって2時間以内に収めるべきでしょう。 
スペインの山の中に入ったアメリカ人、という要素は最後までこの話の中でドラマを振り回していて、それはいいのだが、少人数のゲリラ内部シーンばかりで、暗い場面はおそらくセット撮影だろうが、細かいやりとりはまるで「カルメン」の山賊内部の場面みたいである。
 
ひっかきまわし役パブロのエイキム・タミロフと女傑ピラー役のカティーナ・パクシヌーは存在感をみせているが、なんといってもこれは二人のスターを見る映画で、途中でそう決心しないといけない。
なかでもイングリッド・バーグマンはこのとき芳紀20代後半、アップが多いけれどもこの瑞々しさはたとえようもない。顔立ち、目の色など、どう見ても北欧からスペインの荒地に降り立った鶴、といってもしょうがない、これは映画だから。前年「カサブランカ」にも出ているわけだが、演技は未熟で、その後よくぞあそこまで、、、ロッセリーニとの出会いの結果だろうか。
 
ゲイリー・クーパーという人も決してうまい人ではないとおもう。この時もう40代だけれども、この浮いた役柄は気の毒といえば気の毒で、他の男たちと比べると身長もかなりちがいでくのぼうに見える。
私が若いころ見たのは「真昼の決闘」、「友情ある説得」などこの映画のだいぶ後で、もっと渋くなって、それが映えたのだろう。
 
ヴィクター・ヤングはこういうラブ・ロマンスにいい音楽をつける。 
 
そしてデジタル・リマスター版とはいえ、実に鮮明な映像で、1943年(大戦中!)にこのカラー映画、ハリウッドは進んでいたと感に堪えない。
 
原作を読んでいないのは、かなり長いことと、学校の図書室などでななめ読みしたときにその気にならなかったから、と記憶している。ヘミングウェイの主要作は再読も含め、新潮文庫で続々と新訳が出てから、ほとんど読んだのだが、これの新訳はまだ出ていない。この映画を見てしまうとこのままでもいいという気分になってきた。
長編では「日はまた昇る」が一番だろうか。

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