モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」
指揮:ジェレミー・ロレール、演出:リシャール・ブリュネル
パウロ・ショット(アルマヴィーヴァ伯爵)、マリン・ビストレム(伯爵夫人ロジーナ)、カイル・ケテルセン(フィガロ)、パトリシア・プティボン(スザンナ)、ケイト・リンジー(ケルビーノ)
管弦楽:ル・セルクル・ドゥ・ラルモン、合唱:レザール・フロリサン
2012年7月12日 エクサン・プロバンス司教館中庭 2012年8月NHK BS-Pre
屋外の舞台、部屋の壁・扉・窓のセットを複数うまく組み合わせて動かし、登場人物は現代の衣装で登場する。
こういう読み替えではあるが、扱われている話は領主たる伯爵がこの家で仕事をしているフィガロとスザンナの結婚に対し初夜権を行使するなどというかなり昔の話であるから、観客はそれはそれと逆に読みかえて楽しむことになる。
とはいえ、数年前にクラウス・グートの演出もあって、こっちはもっと過激だったから、今回はむしろリラックスして楽しめた。この作品は元来かなり性的な要素がちりばめられていて、それも「ドン・ジョヴァンニ」より普通の人間に近いところで扱われているから、それを表現し無理なく受け取らせるには現代の衣装としぐさの方がいいともいえる。
そのなかで、ケルビーノは容貌、衣装とも面白く、また最初の「自分で自分がわからない」では、若い男の子の自分でも扱いにこまる性の目覚め、男性器の変化を、切迫感を出した歌唱で聴くことができる。あとの「恋とはどんなものかしら」との対照もいい。
後半の伯爵夫人「美しい時は過ぎ去り、、、」の時、まわりに関係者を配置して彼らは気づかないが夫人と観客には彼らが見えている、という設定も効果的である。
こういう演出ではスザンナの魅力が特に肝心だが、痩せぎすで心配したプティポン、見ているうちになかなかの演技を見せた。
最近、この話の前編「セヴィリヤの理髪師」(ロッシーニ)を見ている。それが頭に残っていると、伯爵とフィガロの力関係がすぐにこんなに変わるかとは思うけれど、やはり面白い。
ジェレミー・ロレール指揮のオーケストラ、楽器・奏法は詳しくわからないが、最近のせかせかしたもの(これは好みでない)とは違うようで、スピード感はあるがしなやかで、気に入った。
それにしても、この音楽祭は毎年のように刺激があって楽しめるものを提供し続けている。