メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

批評理論入門/フランケンシュタイン

2020-04-22 08:59:41 | 本と雑誌
批評理論入門『フランケンシュタイン』特別講義 
廣野由美子著 中公新書
フランケンシュタイン メアリー・シェリー著 芹澤恵訳 新潮文庫
 
これらを読むきっかけとなったのは先にアップした映画「メアリーの総て」である。1818年にわずか20歳で「フランケンシュタイン」を書いたメアリ・シェリー(1797-1851)が主人公であるが、書いた過程はあまり詳しくは出てこない。
 
「フランケンシュタイン」は数年前にNHK Eテレ「100分で名著」に取り上げられ、これまでのイメージとは違うようだという認識はあり、それもあって実際に読んでみようと考えた。翻訳はかなり出ていて、さてどれにしようかという時、上記「批評理論入門」が高く評価されていること知り、主要題材は「フランケンシュタイン」だが、必ずしも前もって読む必要はないらしいということから、普通とは逆の順序とした。
 
著者は「100分で名著」で解説をしていた人である。
この本の前半は、「フランケンシュタイン」の構造、時代背景、主要人物に影響を与えたであろう書物、環境(主人公はジュネーヴにいてここから最後はイギリス、アイルランド、北極海?に向かう)などについて、いくつかの文学批評のテンプレート(?)を使いながら解説してくれる。
 
「フランケンシュタイン」は、探検に出かけた若者ウォルトンが姉にあてた何通もの手紙であり、探検の最後に遭難途中のフランケンシュタインに会い彼の話をきき、それが語られ、さらにその中で彼によって創られた怪物が後にフランケンシュタインに語る人工生物が意識、感情、知識を得て、創造者フランケンシュタインにどんな恨みをもっているかなどを語るという三重構造になっている。
 
したがって、それぞれの語りは一人称の物語である。これは三人称がよく使われる小説にありがちな、読者が作者に入っていきにくいところがない。20歳の作者としては書きやすかったかもしれない。
 
また、怪物が山岳地帯の小屋にたどり着き、住人にわからないように覗き見ながら、赤子から成長の過程で感情、言葉、知識を得ていくように、人間と太刀打ちできるようになるところは秀逸である。
 
怪物に強い影響を与えた書目は「失楽園」らしく、創造主であるべきフランケンシュタインに対する、思い、恨みがあるということである。翻訳も読みやすく、また勢い、迫力が必要な場面では、流れ、リズムもいい。
 
生命に対する探究、その傲慢、この時代の科学、宗教、社会情勢などが反映しているのだろう。それにしても、この歳でこれだけの構成と内容、ちょっと信じられない。
 
批評理論入門の後半は、多くの批評理論、スタイルがわかりやすく分類、説明され、今後の読書に、別の視点、楽しみが出てきそうである。
 
この本はフランケンシュタインに関するものもふくめ、主に海外の批評理論を題材にした講義ノートがもとになっているようだが、これだけわかりやすくかみくだいたものは、簡単にはできないだろう。いい本に出合った。


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