エンゲルベルト・フンパーディンク 歌劇「ヘンゼルとグレーテル」
指揮: ウラディミール・ユロウスキー、演出:リチャード・ジョーンズ、装置・衣装:ジョン・マクファーレン
クリスチーネ・シェーファー(グレーテル)、アリス・クート(ヘンゼル)、サッシャ・クック(眠りの精)、フィリップ・ラングリッジ(魔女)、アラン・ヘルド(父)、ロザリンド・グラウライト(母)
2008年1月1日 メトロポリタン歌劇場(英語上演)、2011年12月24日WOWOWで放送されたもの
グリム童話のなかでも有名なものを原作とするこのオペラ、見るのも聴くのも初めてである。
欧米ではたいへん人気があるようで、この作曲家から芸名を拝借した人気歌手もいるし、クリスマスから新年にかけては、子ども客が多いことも考慮してか訳詞でよく上演されるようである。
なにしろあのショルティがウイーンフィルを指揮したもの(1981年)が代表的な録音としてあるほどだから。
グリム童話だから、この話にはいろんな派生があり、解釈があるのだろう。この舞台を見ても、前半は両親が子どもにつらくあたり(子減らし?)、出て行った兄妹が命じられたように苺を摘んでいるうち森に迷い、苺を食べてしまうがそのときに苺を顔や手足にぬりたくる、このあたりかなり「あぶない」表現で、兄妹ということでカムフラージュされているが、これは子供から大人にかかるころの「性」の問題であることは、観ている大人にはすぐわかる。
子どもが見ると、これは何か深いよくわからないことが、この先の人生にはあるらしい、というところでとどまるだろうが。
料理人たち、魔女は極めて大きくみせるようになっていて、これは大人が演じている兄妹との対照と、それをやっつけることの大変さ、快感を演出する上での効果だろう。魔女をかまどに突き飛ばして、最後に多くの子供たちがよみがえり快哉するときのある種の残虐(子どもというものが持つ)、これは観ている大人にはよくわかる。
ヘンゼルは女性歌手、魔女は男性歌手、このあたりは歌が先にくれば自然なのだろう。
歌手のなかでは、グレーテルのクリスティーネ・シェーファーが姿も含めていい。
演技では可愛さも見せるが、どこかできいた名前と思って調べてみたら、ベルクの「ルル」やブーレーズの作品を多くやっていて、むしろ現代音楽をよくこなす人らしい。
フンパーディンク(1854-1921)の音楽は前半によくきく童謡を素材にしたようなものもある他は、やはりワーグナー、リヒャルト・シュトラウスの流れをくむまぎれもないドイツの官能的な音楽である。
なお、幕間などのインタビュアーはおなじみのルネ・フレミングであるが、彼女の子どもが最後に出てくる子供たち(合唱)で出演しているそうである。
そのうち彼女主演の「カプリッチョ」(リヒャルト・シュトラウス)も放送するようで、これは楽しみ。