メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

イーデン・フィルボッツ 「赤毛のレドメイン家」

2020-08-08 16:16:03 | 本と雑誌
イーデン・フィルボッツ「赤毛のレドメイン家」 武藤崇恵 訳 創元推理文庫
若いころ、推理小説好きの人からフィルボッツ(1862-1960)の名前を聴き、なぜか覚えていたのだが、読むことになるとは思わなかった。きっかけについては後で。
 
1922年の作品で、物語はこのころつまり第一次世界大戦が終わってしばらくたったイギリス南西部ダートムア付近、そして後半は飛んでイタリアはコモ湖周辺を舞台に展開する。
 
スコットランド・ヤードに勤める刑事ブレンドンは休息を得ようとダートムア近辺で釣りをしようとしていたが、ある美女と遭遇、その少し後に付近に住んでいた彼女の夫が殺されるが、偶然彼女から捜査協力を依頼され、現地警察と共に捜査を進める。
 
彼女の亡父はレドメイン家四兄弟の長男であるが、そのうちの四男が容疑者とされ、遺産相続問題がからんでいるらしい。ところがその後、三男が危なくなり、そして二男もというあたりで、どうもこのブレンドンは未亡人に夢中になっているところがあり、捜査がうまくいかなくなっているところに、米国の元刑事ギャンズが登場、ここから、物語は意外な、そして犯人が緻密に計画し仕組んだ仕掛けが次第に露わになっていく。
 
フィルボッツは推理小説を書くまでは、主にダートムアあたりを舞台にした田園小説作家として知られていたそうで、そう言われると、優れた描写が物語に膨らみをあたえている。
 
少し前に読んだ「批評理論入門」は本書を読む際にも影響を与えていて、本書はすべてを見て知っている作者が、断片を組み合わせて推理小説として構成している。これは普通といえば普通なのだろうが、その反面で推理小説ということから、読者にこの時点でどこまで明かすかという視点で著述が選ばれる。読者にとってそれがどうか、読み方によって異なり、難しいところかもしれない。
 
実は、殺されたか行方不明か、という何人のうちどの遺体も発見されないということが、何度か強調されている。これは読者に推理上の何かを提供していると感じさせるものだろう。また、これが実は違って、、、することになる、というような表現もいくつかあった。ここらは、三人称で書く時の、すべてを知っている話者のちょっと余計な発言、と私はとってしまうが。
 
とはいえ、このプロットと最後にはじめてわかる犯人像は、古くはなく、現代に通じるものだろう。犯人像には「サイコパス」を感じるのだが。
 
2019年新訳の訳者は定評、人気があるひとらしく、さすがにテンポよく読み進められる。
 
ところで、先日読んだ「スタイルズ荘の怪事件」(アガサ・クリスティー)の訳者あとがきに、このポアロ初登場の作品(1920)の前、隣人だったフィルボッツのアドヴァイスと励ましを受け、その後の成功につながった、とあった。そこでフィルボッツの名前を思い出し、新訳が出ていることもあって、読んでみようかとなったわけである。



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