「ね、今日行ってもいい?」
嵐として出演する時だけの限られた時間。
さりげなく智くんの傍によると誰にも気づかれないように
そっと手をつなぎ、話しかけた。
「……え?」
長時間の司会だったから体調を心配したのか智くんは
戸惑いの表情を見せる。
智くんはドラマの役がまだ入っているせいか
どこか儚げで可憐な雰囲気をただよわせている。
それはいつもの事と言えばいつもの事だけど。
儚げでいつも以上に華奢な身体になっている智くんを見て
いてもたってもいられず半ば強引に約束をした。
そうでなくても今回は智くんと一緒に過ごしたいと思っている
先輩やら後輩やらが思いつく限りでも相当数、共演している。
“早めに約束しておかないと”
智くんは役が入っている時はいつも以上に儚げで綺麗で。
メンバーといる時はもちろん、後輩たちと一緒にいても一人別で。
なぜか守られているように見えた。
本人はきっと気づいてはいないと思うけど。
でも空気からして違う。
その佇まいも。
その美しい顔も。
そして言動も。
だからいつもの恒例の質問にも
代わってあげたいけど…。
なんて言って、にのがごめんなさいねと笑いに持って行ったけど。
いつもと表情からして全然違かった。
だからいつも以上に放っておけない雰囲気の智くんが
誰かに先に誘われてしまう前に約束だけはしておこうと思った。
何とか仕事を終わらせ急いで智くんが待つ家へと向かう。
そっと音をたてないように入ると
智くんはソファの上で小さくなって眠っている。
“やっぱり寝てたね~”
笑ってしまいそうになるのを堪えながら
そっとその顔に顔を近づけると頬にそっと手をやりちゅっとキスをした。
「ただいま、智くん。遅くなってごめんね」
智くんは気配に気づいたのか薄く目を開く。
「……お帰り。……終わった?」
心配そうな顔で答える。
やっぱりどこか役が入っている智くんはいつもの智くんと違う。
儚げでつかまえていないとどこか行ってしまいそうな、そんな雰囲気で。
だから今日は無理言って約束した。
思わずソファに横になったまま手を前に組んでいるその手を握る。
「……どうしたの?」
その手を握ったまましばらく無言で見つめていたせいか
智くんは不思議そうな顔で優しく微笑みながらそう言った。
“やっぱり、違う”
「……ううん、何でもないよ」
捕まえていないとどこかへ行ってしまいそうで
なんて事を言ったら笑われてしまうだろうか。
こんな風に思うのは智くんの今度やる役のせいもあるかもしれない。
役だと分かりきっていてもやっぱりどこか不安で。
“そう言えば魔王の時もそう思ってたっけ”
本当はドラマに入っている時はそっと
ひとりの時間を大切にしてあげたいって思っているのに。
智くんはいつもそうしてくれているのに。
司会だったせいか一緒にいられる時間も極端に少なく
やっぱりこうして一緒にいたくて我慢できずきてしまった。
「ごめんね、無理言って押しかけて。
智くんの事だから色々お誘いもたくさんあったでしょ?」
「ふふっ。大丈夫だよ。
俺も翔くんのことずっと画面では見てたけど、離れ離れで寂しかったし」
「……智くん」
「はやくシャワー浴びといでよ。待ってるから」
ついその言動が愛おしくて抱き締めようと思った瞬間、
そんな事を言いだすから仕方なくバスルームに向かった。
シャワーを終えベッドに一緒に入ると上から智くんの綺麗な顔を見つめる。
智くんは上を見上げて見つめ返す。
「……12時間司会なんてほんと考えられないよ。
凄いね翔ちゃん、一人働いてる」
そう感心するように言った。
「そんな事ないよ。結構楽しくってあっという間だったし」
そう言うとそうなんだ、と笑顔を見せる。
“あ、いつもの智くんだ”
「……智くん」
名前を呼ぶと、ん?って顔をして見つめる。
「……何でもない」
「ふふっ。変なの」
そう言ってクスクス笑う。
その存在が愛おしくてたまらない。
そのままその華奢な身体をぎゅっと抱きしめると
ゆっくりと顔を近づけ唇をその唇に重ねた。