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山コンビ大好き。

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きらり

山 短編12

2017-11-21 20:42:30 | 短編





そこは、過去と現在が交錯する街。




江戸時代に城下町として栄えたその場所は
神社や寺院、そして歴史的建造物と言われる建物が多くあり
週末にはたくさんの観光客が訪れる。


その場所に。


この高校では校外学習として毎年2年生になると
この場所を訪れ学ぶことになっていた。


生徒たちは自分たちでたてた事前学習と当日のスケジュールをもとに
それぞれグループに分かれ地図を片手に目的の場所へと散らばっていく。
それを俺たち教師は各地区に別れ見回る事になっていた。


ここは近年観光化が激しく平日でも観光客はそれなりにいて
自分の生徒たちを気遣いながら持ち場所である寺院やら街を
ぶらぶらしながら見回る。


そして道に迷った生徒がいると案内をしたり
全然関係のない観光客から道を聞かれては案内をしたりして
あっという間に時間は過ぎていく。


そうこうしているうちに昼ごはんの時間になっていた。
昼も生徒たちは自分たちで食べる場所を決め
それぞれを食事をとることになっている。
ここをグルっと一回り周ったら昼でもとろうと思いながら
歩いていると一人の生徒の姿が目に入った。


あれは 大野?


大野はそんなに目立つタイプではないけど
どこかクールで大人びていて人目を惹く。
そんな生徒だった。


その大野が一人建物の前で佇んでいた。


どうしたんだろうと思いながら近づいて行く。


そこは住宅街の片隅にひっそりと佇む一件の古い建物だった。
城下町として栄えたこの場所にもまた、裏の歴史というものが存在していて
そして大きな寺院のある裏の住宅地にひっそりと佇むその建物も
雰囲気で一目でそれとわかる外観を持つ建物だった。


そしてその街の都市景観重要建物に指定されたその建物は
当時の風情そのままの佇まいを残していた。



そこに大野は立って見つめていた。









「どうしたの?」

「……」


その横顔が綺麗だなと思いながら近づいて行って声をかけると
大野が少し驚いたような顔をして振り返る。


「道に迷っちゃった? みんなは?」

「ごはんを食べに…」

「大野は?」

「俺はもう一度ここに来たくて…それで…」

「ここに?」


その言葉にちょっと戸惑ったような表情を浮かべる。


「何だか見てると懐かしいような気がするのに、苦しくて。
気になって戻って来てみたんですけど、
でもそれが自分自身でも何だかわからないんです…」

「そう、か」


そして大野は戸惑いながらもポツリポツリと話しだす。
確かに異彩を放っているその建物はどこかノスタルジックで
そこで何があったかわからなくても何か思うところはあるのかも知れない。


そんな事を思いながら大野に歴史の背景や、ここがどういう場所であったかを
簡単に説明すると突然、大野の目から涙が一筋こぼれた。


ええぇ?


その思いがけない反応にうろたえていると当の本人は、
俺何で泣いてんだろ? と言いながら、慌てて手で涙をぬぐっている。








まさか。


「大野~」


遠くで大野を呼ぶ声がする。


「あ、みんなだ」

「ご飯終わって迎えにきてくれたみたいだな」


まさか、うちの生徒がこの場所で一人佇んでいるなんて思わなかった。
そしてその生徒にこに場所の説明をする事になるなんて思わなかった。
その事でまさかクールで大人っぽいと思っていた大野が
涙を流すなんて思わなかった。


確かに。


その時代やその裏にある背景の事を思えば何か思うところはあるだろう。
でもその反応にあまりにびっくりして
その一言を返すだけで精いっぱいだった。


「うんそうみたい。じゃあ先生またね」


そんなこちらの気持ちとは裏腹に
大野はそう無邪気に笑ってみんながいる方へと走って行ってしまった。
その姿を呆然と見つめる。











そして。


その日からなぜか大野はその時の話がよっぽど印象深かったのか
何か思う事があったのか
俺が社会科準備室で準備をしていると顔を出すようになった。
そして資料を見たり話を聞いてきたりする。


だから。


言ってしまった。


あまりにも真剣だったから、


言ってしまった。


「今度また一緒に行ってみる?」と。


その言葉に大野は少し驚いたような顔をしたけど、こくりと頷いた。


自分でも何でそんな事を言ってしまったのかわからない。
教師として一人の生徒だけになんてダメな事わかりきっている。
今までだって生徒と出かけた事なんてない。
ましてや二人きりでなんてあり得ないことだ。


ただ。


歴史に興味を持った生徒に応えたいだけだ。
勉強の一環で足りなかった分を補うための言わば補習みたいなものだ。
色々もっともらしい理由を並べてみたけど、
やっぱりそれは言い訳でしかない事は自分自身わかっていた。








その場所にたどり着くと
背景を知ったせいか
歴史を学んだせいなのか
神妙な顔でまだ数件残っていると言われているその建物を一緒に巡る。


「やっぱ、苦しい」


建物を眺める横顔がやっぱり綺麗だなと思いながら見てたら
俺の顔を見てそう言って苦笑いを浮かべる。


「そっか」

「でももっと歴史の事知りたくなった」


一人の生徒だけ特別扱いしているなんて重々承知の上だ。
問題がある事なんて十分わかっている。
もし知られたら大問題になるだろう。


「もっと見ていく?」

「大丈夫なの?」


でもそもしそうなったとしても後悔はしないだろうと
その顔を見ながら不思議とそう思う。


「その為の帽子と眼鏡です」

「そうだよね~やばいよね~」


そう言って大野はにこっと笑う。
その顔がやけに可愛いなと思うと同時に、当たり前だけど
やっぱり大野もやばい事だってわかっているんだなと思う。


「先生?」

「ん?」

「ごめんね、俺のせいでデートの約束潰しちゃって」

「そんなのねーよ」

「そうなの?」


大野はそう言って意外そうな表情を浮かべた。
実際今はデートする相手もデートの約束もないけど、
もしあったとしても、やばい事だってわかっていても
大野を優先していただろうとも思う。










授業中は一人で何だかやけにドキドキしていた。
大野の真っ直ぐに向けられる視線。
そんなつもりはなくただ授業を聞いているだけなんだろうが
その視線になぜか胸の鼓動が高まる。


そして大野はというと相変わらず準備室に来ては
真剣に資料を見ていたり話を聞いてきたりする。


「今度…」

「……?」

「他の場所も行ってみる?」


やっぱり、止められない。
自分でもわからない。
何で大野にはそんな事を言ってしまうのか。


今まで生徒に好意を持たれたことなんて山ほどある。
それでも学校外で会うなんてことしたことないし考えた事もない。
それなのに、なぜだか大野が相手だと調子が狂う。
他の人には決して言わない言葉を大野には投げかける。









「何でだろう? 俺、前世で何か関係あったのかな?」


切ないような顔で見ていたと思ったら
こちらを見てそう言っておどけたように笑う。
その姿が可愛いなと思うと同時に
その儚さと美しさは何だか大野だったらあり得なくもないかもと
そんなバカな事を考える。


「苦しい?」

「うん、苦しい。でも、何だかわからないけど気になる」

「そっか」


苦しいけど、気になる。
大野の言うその意味がよく分からないけど
その気持ちに寄り添いたいと思う。


「先生連れてきてくれてありがと」

「うん」


そして、知りたいと思った。








「先生?」

「ん?」


帰り道。


車を出そうとエンジンをかけようとするとそう言ったまま
何か言いたげに大野がじっと見つめてくる。


その瞳から目を離す事ができない。


そして。


そのまま、その小さな唇に吸い寄せられるように


軽く触れるだけのキスをした。


「ごめん」


けど、慌てて自分のしてしまった事に気付き謝る。






「何で謝るの?」

「何でって…」


大野は不思議そうな顔でそう聞いてくる。
その顔に、思わずとか、つい、とかそんな言葉はどれも違う気がして
何も言えなくなる。


「何か問題なの?」


そして真っ直ぐに見つめたままそう聞いてくる。


「俺は教師なのに…」

「そんなのとっくに知ってるけど」


そう言って大野はやっぱり何でもない顔をして笑う。
度胸が座っているというかなんというか。
してしまった自分の方が心臓がバクバクして
今にも破裂してしまいそうなのに。


「こんな事をしておきながら、心の中では体裁ばかりを気にしてる」

「それは先生だから仕方ないよ」


そんな事を思いながらも何を今さらと、
自分自身に苦笑いをしながらそう言うと
大野は当たり前のような顔をしてそう言って笑った。


その言葉に、完全に完敗だと思った。


なぜだか生徒と先生なのに、大野が相手だと調子が狂う。
自分自身考えられない言葉を発してしまう。
今までしたことがないような行動をしてしまう。










「お城とかは好き?」

「んふふっ好き。俺ね、実は前世は殿様だったんじゃないかなって思ってるんだよね~」

「と、殿様」

「そう」


何だか恥ずかしくなって話を変えようとそう言うと
さっきまで儚げな感じで裏の歴史と関係があったのかな
なんて言ってたのに、殿様とか言ってくる。


「何?」

「いや可愛いなって」


その思いがけない言葉におかしくなってつい笑っていると
可愛らしく頬を膨らませる。


「先生だからってバカにしてる」

「イヤそうじゃなくて、そういうところが可愛くて好きだなって」


クールで大人ぽいと思っていた大野が
こんなに可愛らしい人だったなんてね。


「好き?」

「ああ」


そう言うと何の躊躇いもなく嬉しそうに横からギュッと抱き着いてくる。


「俺ね、前から先生の事好きだったんだよ」

「え?」

「イケメンだし」

「はは」


その無邪気な行動に何もできずされるがままでいると
大野が抱きついたまま顔を見上げ、そう言った。


「だから話しかけてくれた時嬉しかった。
それに俺が変な事を言い出してもちゃんと聞いてくれたし、教えてもくれた」

「まあ、一応社会科の教師だしね」

「でも自分自身でも訳がわからない感情だったのに笑わないで真剣に聞いてくれでしょ。
だからもっと先生の事が好きになった」

「そう、か」


そう言って真っ直ぐな言葉を伝えてくる。


やっぱり完敗だと思った。


そしてじっと見つめてくるその眼差しに、目を離す事ができない。










「先生は? 先生は俺の事好き?」


そして何の躊躇いもなくそう聞いてくる。


「……うん」


その真っ直ぐな言葉に正直に答えてしまう。
先生と生徒なのに。
してはいけないことをしてしまう。
言ってはいけないことを言ってしまう。





「って、俺は教師失格だな」

「え?」

「先生なのに一人の生徒をこんなに特別扱いして」

「……」


そして、そう思いながらも。


可愛らしく抱きついてくる大野の頬を両手で包み込む。


「……そして こんな事までしてしまう」


そして。


そう言いながらも。


そのままゆっくりと顔を近づけていって


その唇に唇を重ねる。







「完全に教師失格だ」

「俺にとっては最高の先生だけど」


そしてゆっくりと唇が離れ自嘲気味にそう言うと
大野が俺の顔を見てニコッと笑う。


その大野の言葉に


その表情に


やっぱり完敗だと思う。







日本各地でそういう歴史があったことは当たり前だが知っていた。
でも今までそういう事実があったとしかとらえておらず
そこで生きてきた人たちの状況や思いまで深く考えた事はなかった。


その歴史の裏側には当たり前だけど様々な事情があって
そこでは自分の意思とは無関係に生きてきた人たちがいて
そこで生かざるを得なかった人たちがいて
その歴史が時を変え名を変え姿を変え現在に生き残っている。


そして。


それを見て大野の様に何かを感じる人がいる。


考えさせられる人がいる。


今の自分の様に。


だからこそ重要文化財として守られているのかも知れないが


今なら大野が苦しいと言った意味がわかる気がする。


苦しいけど気になると言った意味が分かる気がする。



そんな事を思いながら





あの日大野に出会った日の事を思い出していた。










多分。


あの場所で


あの建物の前で大野に出会った時から。


あの美しい横顔を見てから。


あの場所であったできごとの話をした時から。


そしてその時に流した大野の涙を見た時から。


自分にとって特別な存在だったのだと思う。







生徒だとわかっていても、


その気持ちを止めることはできなかった。


どうしようもなく惹かれて


そして教師としてしてはあるまじきことをし


言ってはならないことを言ってしまった。






そして、今もまた。






目の前にいるこの美しい人に


好きだ、とそう言って。


その身体を包み込むように抱きしめて。


そして。


そのままその可愛らしい顔を優しく上げ人差し指でその唇をなぞる。


そして、じっと見つめるその視線を感じながら


ゆっくりと唇に唇を重ねて、そしてそのまま深いキスをする。






そして唇が離れると何も知らないその人は


いや知っているのだろうが気づかないふりをしているその人は


先生大好き、とそう無邪気に言って嬉しそうに抱きついてくる。


だから、俺もだよとそう言ってその身体を強く抱きしめ返した。





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4 コメント

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どきどきします (白紙)
2017-11-22 01:52:15
 読んでいると、先生と一緒にどきどきそわそわしてしまうお話でした。普段から知っている人物の、意外な表情を見て、心を奪われてしまった動揺と、自分と相手の立場を考えてのためらい。でも、抑えきれない気持ちが恋なのでしょうね。過去と現在が混ざり合う街で、自分の前世というより、現代に生きる人が過去に思いを馳せるところが凄く素敵だと思いました。個人を超えて、長い長い時間を経てきたという感覚は、遠すぎてぼんやり霞んでしまいそうで、昔、川越の古い時計台など見たとき、不思議な気持ちになったのを思い出しました。しばらくは秘密の2人になりそうですが、いつまでも仲良くしていてほしいと、思ってしまいました。思うことが上手くまとめられず、ちょっともどかしいコメントとなりました。すみません。
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白紙さんへ (きらり)
2017-11-22 21:19:25
白紙さん、コメントありがとうございます。
どきどきするとのお言葉嬉しいです。
恋ですね。先生と生徒の恋。
でも先生という立場ゆえ躊躇はするのだけどやっぱり抑えられないんですよね。
おおっこの話の舞台も翔くんがおにぎりを食べていたあの川越なのです。
時計台も趣がありますよね。
歴史がある建築物も多くて見ているだけで何だか不思議な気分になりますよね。
今回ちょっと扱ってる題材が題材なだけに
どうなんだろうというのがあったのですがそう言って頂けて嬉しいです。
そうですね、先生と生徒という二人なので秘密の二人になりそうです。
あまり智さんは気にしなさそうですが翔くんが一生懸命止めているイメージです。
ありがとうございます。もどかしいのは私の方です。こうして伝えて下さって凄く嬉しくてその思いをお伝えしたいのに
語彙力がなく伝えきれません💦
本当にありがとうございます🎵
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はじめまして (藍い雨)
2017-11-23 23:29:56
初めてコメントさせていただきます。

きらりさんのこのお部屋。もう 何年も前から拝見させて頂いてました。
小心者なので なかなかこういったものに投稿する勇気がなかったのですが 最近 ちょっと やってみようかな…なんて 思って 今回 送らせて頂きました。

山コンビが 大好きな アラホォー女で とにかく 大野くんが大好きです。

きらりさんのお話は とにかく 大野くんが 素敵! あの 空気感と言うか 可愛らしい所と ライブのクールでバカみたいにかっこいい所と あとは…やっぱり 翔君と一緒にいる時の 優しい感じだったり… 書ききれませんよね(汗)

たまに(スミマセン)お部屋をお邪魔した時に 新作が出てると もう テンション 上がっちゃって 嬉しくて! 最近だと Anotherworld が お気に入りだったんですよね。 泣きそうでした。

今回の お話も すごく 素敵でした。 すごく きらりさんらしい…と言いますか… 自分で言うのもなんですが、相当 読みこんでますので。

また 素敵なお話 待ってます。 長文 ごめんなさい。
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藍い雨さんへ (きらり)
2017-11-24 19:38:57
藍い雨さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

何年も前から見て下さったとのこと、嬉しいです。
そして今回勇気を出して送って下さったのですね。
私もすごく小心者なのでお気持ちがとてもわかります。それなのにこうして伝えて下さってありがとうございます。

山コンビが好きで大野さんが好き。一緒ですね。
そしてなるべく本人に近い感じが出せたらいいなと思いながら書いているので
私の書く大野くんが素敵と言ってくださって本当に嬉しいです。
翔くんと一緒にいる感じがすごくいいんですよね。
更新がすごく遅いので私の方こそすみません。
でもテンション上がるとの事、嬉しいです。
Anotherworldはちょっと最初辛い感じでしたがお気に入りと言ってくださるとホッとします。

相当読みこんで下さっているのですね。
そのなかで私らしいすごく素敵な話だと言ってもらえるなんて。
そして素敵な話を待ってると言ってもらえてすごく嬉しいです。
長文も大歓迎です🎵
ありがとうございました🎵
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