幼馴染が魔女によって眠らされているという娘を
助けに行くと聞いた時、
どうして自分はめんどくさがって行かなかったのか。
あの時行かなかった事を、自分の中で一生後悔する事になる。
翔さんが助け出したというその人は
とても綺麗な顔をしていた。
思っていたのと違かったのは、その人が娘ではなく
男の人だったという事。
そして翔さんがその人を連れて帰り妻にすると言った事。
勉強家で頭が良く、常識的な翔さんがまさかとは思ったけど
彼は本気だった。
ただその人自身王女に嫉妬される位とても綺麗な人だったし、
性格も申し分がなかったので彼が説得を重ねるまでもなく、
すぐに両親や兄弟そしてその周りの人も納得し祝福する。
とにかく、みんなその人の事が大好きだった。
男とか女とか関係なく人を惹きつける力を持っている、
そんな不思議な雰囲気を持った人だった。
初めてその人を紹介された時、
一目見ただけで夢中になった。
あまり人というものに、興味が持つ事がなかったのに
それはとても不思議な感覚だった。
そしてその場に一緒にいたマサキやジュンも同じようだった。
ある日、翔さんの家を訪ねると智が出てきた。
翔さんはいないか聞くといないと言う。
「オレの事、憶えている?」
一回あっただけだけど覚えているかな?そう思って聞くと
「んふふっ。覚えているよ。翔くんの幼馴染のニノミヤさんでしょ?」
そう言って可愛らしい顔でにっこり笑う。
「そう。そんな堅苦しくなくて、にのって呼んでいいよ」
その笑顔は反則だろうと思いながらも、
名前を覚えていてくれたことが嬉しくて
つい、ここの生活に慣れたかだの、翔さんはどうだの立て続けに話しかけていたら
中にどうぞと通してくれ、お茶を出してくれる。
改めて見ると、最初に会ったときは綺麗な人だと思ったが
すごく可愛らしい顔をしている。
「ここでの生活はどう?
自分の生まれ育ったところに戻りたくはない?」
黙っていたらずっとその人を見続けてしまいそうで話しかける。
「翔くんが戻ったら、また魔女に眠らされてしまうから
戻らないほうがいいって」
そう言って顔を曇らす。
「心配性だからなあ、翔さんは」
少し呆れながらもそう言うと
「でも両親や兄弟も同じ考えで、俺の身を
考えたらここにいたほうがいいって」
そう仕方ないと諦めたように言う。
「そっか、じゃあ寂しいね」
確かに元の場所に戻ったらまたまた王女に嫉妬され
魔女に何かされてしまうだろう。
だったらここにいたほうが賢明だと思った。
「でも向こうから会いに来てくれるから寂しくはないよ。
ここでの生活も少し慣れたしね」
そう言って笑顔を見せる。
「翔さんはどう?優しい?」
本当に可愛らしい人だな、そう思いながら聞くと
「んふふ。すごく優しいし、大切にしてくれる」
そう少し頬を染めながら言う。
きっと凄く智の事を大事にしているんだろう。
しかも世話好きの翔さんの事だから片時も離れず一生懸命
お世話をしているんだろう。
「翔さんの事好き?」
そう聞くと
「うん、好き」
あっさりそう答えたので、ちょっと胸がチクリと痛んだ。
そんな話をしながらあっという間に楽しい時間は過ぎる。
そしてふと会話が途切れたので、その美しい顔を見つめた。
目線と目線が合う。
この時、自分でも何故そんな事をしてしたのか分からないけど
顔を近づけていってチュッとその唇にキスをした。
智は何も言わず、ただびっくりした顔で見つめる。
「ごめん、深い意味はないよ。ここの挨拶みたいなもんだよ」
あまりにもびっくりした顔をしていたので
慌ててそう言ってごまかすと、
そうなんだーびっくりしたよーと言って安心したように笑う。
ああ、素直で助かる。
さすが魔女に出されたお茶を素直に飲むだけあるわ。
そう思いながらふと手に目をやるととても綺麗な手をしていた。
「すごく綺麗な手をしているね?」
そう言うと、そうかな?と意外そうな顔をする。
「うん、おれ楽器をやったり手品をしたりするから
結構人の手を見る人なんだけど。
多分今まで見た中で、一番綺麗な手をしているよ」
そう言うと、あんまり綺麗だからって役には立たないけどね、
そう言って笑う。
それがあまりにも可愛くて、つい触ってもいいか聞くと
あっさりいいよと答えたのでその美しい手を触っていたら、
後ろに怖い顔して立っている翔さんがいた。
「にのと何二人で話していたの?」
にのが帰り二人っきりになったところで聞く。
「んふふ。んとねー翔くんの武勇伝とか?」
そう言って笑っている。
「なんだそりゃ?」
にのは一体何の話していたんだ?と思っていたら
「俺を助け出すのって凄く大変な事だったんだね。
命懸けの事だったんだね。俺全然分かってなかった。
ありがとうね、翔くん。助け出してくれて」
そう言って頬にちゅっとキスをする。
かわいすぎるー。
にの、いい仕事するじゃんー。
そう思いながら
「ううん、こうやって智くんに出会えたから
行ってよかったって本当に心からそう思っているよ。
…好きだよ、智くん」
そう言って、その身体をギュッと抱きしめる。
最初に助けに行こうって思った時はこんな事になるなんて
思いもしなかった。
ただ助けるためだったのに。
だけど眠りから目覚めさせるためにキスをして
目を覚ました智くんの顔を見た瞬間。
その一瞬で恋に堕ちた。
そして、どうしても離れたくなくてなんとか口説き落とし
ここまできた。
「智くん、愛してる。ずっと大切にするからね」
そう言って顔を見つめると
まっすぐな目で見つめられる。
そして唇を近づけていくと、ゆっくりと瞼が閉じられる。
そしてそのまま唇を重ね合わせ深いキスをした。