『好きだ』
その華奢な身体を抱きしめながら
思わずそうつぶやいた。
その存在があまりにも儚げで泣きそうになる。
胸に顔をうずめ、ぎゅっと抱きついてくる智が
愛おしくて、胸が痛い。
智の事が好きだ、と。
智の事がずっと好きだった、と。
真っ直ぐな視線で何でだと問いかけられるうちに
自分の気持ちが明確な姿を現した。
でも。
本当はその姿を見ているだけでよかった。
綺麗なダンスを踊る姿、美しい顔、笑った時の可愛らしい笑顔。
そんな智の姿がただ見ているだけで十分だった。
なのに。
なのに伝えてしまった事への罪悪感と自己嫌悪感。
智がぎゅっと回していた腕の力を弱め少し身体を離す。
そしてびっくりした表情を浮かべ顔を上にあげた。
「ごめん」
「……変なの」
思わずごめんと謝る。
智は照れくさそうに変なのと言って
そのまままた胸に顔をうずめた。
智の顔は真っ赤だ。
耳まで真っ赤になっている。
そして多分、自分の顔もそして耳も真っ赤になっている。
そして智が胸に顔をうずめたまままたぎゅっと抱きついてきた。
その身体を強く抱きしめる。
心臓の大きな鼓動はきっと智の耳にも届いている。
そして自分の鼓動でない鼓動も智から感じた。
智の身体はすっぽりと腕の中におさまっている。
そして目の前には智の柔らかそうな茶色い髪の毛があって
そこからシャンプーのにおいだろうか甘い香りがする。
背中に回された腕にはなぜか力が込められていて
ぎゅうぎゅうと力強く抱きついてくる。
その姿が可愛くて愛おしいと思う反面、
あの時、もうこの身体にとても触れる事なんてできないと
躊躇していた事を思い出し何とも言えない気分になる。
でも。
智に伝えてしまった罪悪感を感じながらも
智の言動がいつになく寂しそうで辛そうで
そしてあまりにも儚くて消えてしまいそうだったから
智が自分から離れるまではこうしていようと思い
その身体を抱きしめた。
どれ位そうしていただろうか。
しばらく智はぎゅうぎゅうと抱きついていたが
腕の力を弱め、そしてゆっくりと顔を上げた。
あんなに抱きついてくるなんて
何か不安だったのだろうか。
そう思いながら智の顔を見ると少し戸惑ったような
でもどこかすっきりしたようなそんな表情で見上げてくる。
「さ、もう遅いし送っていったあげるから、帰ろうか?」
「……え?」
今だったらまだ日が変わる前に家につける。
そう思いながら智に言うと智が何で?って顔をした。
「ん?」
「だって今、好きだって言わなかった?」
そして不満そうにそう聞いてきた。
「言ったよ?」
「だったら、もっと一緒にいたいとか、俺の返事とか聞かないの?」
「返事くれるの?」
「いやあげないけどっ」
そうやっぱり不満そうに言ってくるから
返事はくれるのかと聞くと智はあげないけどと言って
顔をぷいっと横に向けた。
そのかわいらしい姿に笑みが浮かぶ。
「でしょ?」
「……だって、わかんないんだもん」
「まぁそうだろうね」
そりゃそうだろう。
自分だって同じだ。
そう、わからないのは自分も同じなのだ。
好きになるのはいつも自分の考えをしっかり持った
美しくスタイルのいい女性だ。
智は
高校生で、ましてや男。
でも。
ずっと智の事を見ていた。
智の踊るダンス
その綺麗な顔
話している姿
フロアを眺めている美しい横顔。
そして
そのちょっと生意気なところが
可愛らしくて愛しかった。
「その大人の余裕がむかつく。こっちはマジびっくりしてんのに」
「ははっ」
そんな事を思っていたら智がむっとした顔でそう言った。
その言葉に笑ってごまかす。
違うのだ、と。
大人の余裕なんてない。
この状況に一番びっくりしていて一番動揺しているのは
まぎれもなく自分自身なのだ、と。
「ほらほら送ったげるから」
「え~」
智が不満そうな顔でえ~と言う。
何でだろう? もしかして家にあまり帰りたくないのだろうか。
不安になる。
「だって、翔がびっくりするような事言うから帰るモードじゃない」
「俺だってびっくりしてるよ」
「自分で言ったくせに」
帰るモードって何だ? と思っていたら
智はそう言ってクスリと笑った。
「まぁそれはそうなんだけどさ」
家に帰れない何か事情があるのかと不安に思い智に確認すると
それはないと言う。
それがずっと気がかりだった。
だからいつでも遊びに来ていいからと
そう言ってまだ日が変わらないうちに家に帰れるようにと
智を駅まで送り届けた。
いつものようにその場所へ行くと
智がいた。
茶髪の髪
色白な肌
しなやかなその身体
鼻筋の通った綺麗な顔
いつもの友達と一緒に
いつもと同じように
時々退屈そうな顔をして
飲み物を飲んで
ふらりと踊って
話をして
ぼんやりと眺めて
踊って
飲んで
その姿をずっと見ていた。
次回、ラストです~。
翔くん、お誕生日でしたね~。
どきどきが伝わって嬉しいです。
智くんはもっと積極的に来てもいいのにと思ってても
翔くんにとっては相手が高校生なので難しいところですよね。
自分自身でもまだ戸惑いはあるし、高校生相手だと思うと自制心も働くし。
それがまた智くんにとっては物足りなく感じるかな?
ラストが来るのが淋しいと言ってくださって嬉しいです。
そう言ってくださると書いててよかったなぁって本当に
嬉しく思います。
ありがとうございました♪
実は、ずっと前から、お邪魔させていただいておりました。
智くんが大好きで、山のふたりがだいすきです!
だから、ありふれた日常とか、何度も読ませていただいてます。シェアハウスもよかったです。。
今度のお話も、どうなるのかな?とワクワクしてました。いよいよラストなんですね。智君の家族関係も気になりますが、告白して、どうなるのか楽しみです!!
ずっと前からきて下さっていたのですね。嬉しいです。
そして智くんと、山コンビが大好きとのこと。一緒ですね♪
日常も何度も読んでくださっているのですね~。ありがとうございます。
シェアハウスはまたお話が浮かんだらアップしたいと思っています♪
ワクワクしていたと、そして楽しみだと言ってくださって嬉しいです。
伝えてくださってありがとうございます。
嬉しかったです。