hyperclub

パソコン教室アイラブハイパークラブです。
教室に流れるBGMなどを紹介します。

孤独の世界

2005-07-12 23:55:00 | 音楽
 屋根を描くべく瓦を塗ったばかりの穂先をガラス製の筆洗いに突っ込んだかのように、どんよりとした雲が幾重にも重なりながら低く空に被さっている。ガタン、ゴトン、電車が遠く離れた踏み切りを渡る音が響いてくる。ふだんなら滅多に耳にすることがない、鬱陶しい梅雨ならではの音だ。自宅の近くを歩いていて気づいた。歩く速度で聞こえる風景があり、見える世界がある。

 子どもの頃のことだ。朝、鈍い鉛色の空が覆うとき決まって我が家に海鳴りが届いたものだ。残響をともない、古びた家屋を揺さぶるかのごときその音は、不気味さを湛え、臆病なぼくは布団から出られなかった。

 国府の浜からこの鵜方の町までは4キロばかりか。小高い丘を越さなければならず随分遠く感じるが地形図でみれば拍子抜けするほど近い。それでも海から波の打ち寄せる音が聞こえる日はそれほどあるものではない。

 都会並みの喧騒を覚える現在、自然の音に耳を傾けることが少なくなったと思う。日常の生活に文明の音を受け入れてしまうがあまり、感覚が鈍化してしまったのだろうか。そういえば、懐かしい音がある。ちょうど今頃の季節、ポンポンポン、ポンポンポンと、英虞湾を行き交う船の焼玉エンジンの音がよく響いたものだった。湾上のラッシュアワー、真珠養殖の最盛期だった。

 サイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」が流れている。流行ったころ、
「静寂に音があるのか」
と、高校生だったぼくは驚き、禅問答のように思えて解釈に苦しんだ。音楽にも深く感じ入り、思索に努めたこともあったのだ。当時の懐かしい音源を見つけた。P.F.Sloan 孤独の世界だ。ベトナム反戦の波は日本にも押し寄せ、ガキのぼくにも無関心ではいられなかった。過激な歌詞を含む反戦ソング、バリー・マクガイアが歌う『明日なき世界(Eve of Destruction)』は、放送自粛にもかかわらず世界中を席巻したが、その作者がP.F.Sloan(スローン)だ。
教会の鐘の音が聴こえるかい?
天使の泣く声が聴こえるかい?
うってかわって内省的で静かだが、歌詞は深い。