チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

ブックハンター「ピグミーチンパンジー」

2012-11-19 20:27:44 | 独学

21. ピグミーチンパンジー(未知の類人猿) (黒田末寿著 1982年発行)

 『霊長類目は、大きく原猿類、真猿類に分かれ、後者はオマキザル上科、オナガザル上科、ヒトニザル上科の三つの系統群からなっている。

 ヒトニザル上科は、人科、ショウジョウ亜科、テナガザル亜科からなる。ショウジョウ亜科は、オランウータン属、チンパンジー属、ゴリラ属からなる。

 テナガザルとオラウータンはアジアに分布する類人猿である。テナガザル類には七種が含まれるが、いずれも一雄一雌と子どもからなる単位集団をつくる。

 集団間は排他的で、声を張りあげ、ときには攻撃行動によってテリトリーを防衛する。この社会の配偶関係は安定しているが、それ以上の個体との社会関係を拒絶しているが故に、発展性がないといえなくもない。

 彼らはほとんど地上には降りず、主食の果実のほか、木の葉、芽、昆虫、小鳥などを食べる。

 オラウータンは、母と若い子どもの結びつき以外に永続性のある個体間の結びつきをもたない。真猿類中、唯一の単独生活者なのである。

 彼らは、巨大になりすぎて木から木への移動ができなくなったオスのほかは、ほとんど木の上だけで生活している。食べ物は果実が主で、木の葉、樹皮なども食べる。』


 『アフリカの類人猿は、アジアの仲間よりもっと複雑な社会をもっている。ゴリラは地上性で、草本、樹皮、根茎を食物とした菜食主義者である。

 その単位集団のサイズは、数頭から40頭におよぶものまであるが、原則として成熟したオスがいる例もあるが、それは中心となるオスの息子が集団を出てゆく時期が遅れているという場合か、あるいは中心となるオスが老齢に達し、息子がその跡を継ごうとしている場合であるらしい。

 生まれた集団を出た息子は、他の集団に近づき、メスを誘い出し新たな集団を形成する。

 オスが巨大化したということと、オス同士が相容れないということとの間には関係があるかもしれない。そして比較的安定した一夫多妻の配偶関係を保って生活しているというのがゴリラの社会であるといってよい。

 すなわちゴリラの社会は、オス間の社会関係の発展を否定したその上に築かれているのである。そのために彼らの社会は、つねに他のオスによる暴力的な配偶関係の破壊の危険にさらされているといえよう。

 また、一般に血縁の支えのないメス相互間には社会交渉はほとんど見られず、まさに薄情な間柄といってよいであろう。』


 『ミナミチンパンジーは、地上性でありかつ樹上性であり、果実を主食としているが、植物のさまざまな部位、昆虫、ケモノの肉も食べ、食性の幅は広い。

 単位集団は複数のオスとメスを含み、20頭から80頭で構成されている。この社会の著しい特徴は、一つの単位集団がその内部でつねに離合集散を繰り返していることだ。

 これは個体間の社会的緊張の解消にも、また彼らの生活環境で生産される食物の量と分布の変動への対応にも役立っている。わかれた固体が再開するときには、身体接触による多彩なあいさつ行動が緊張緩和の役割を果たす。

 オスたちは、集まりあう傾向があり、このオスの集まりを核としてメスがルーズに結合しているというのが、彼らの単位集団だといってよい。

 オスの間には順位があり、第一位のオスが社会統合の中心になっている。チンパンジーも、メス同士の交渉は淡白で、メス間をつなぐ絆のようなものはほとんど認められないといってよい。

 オスとメスとの性関係は一般的にはいわゆる乱交である。しかし、優位のオスによる発情したメスの独占や、メスが特定のオスとペアをつくって、二頭だけが集団から少し離れてすごすといった例も見られている。』(ミナミチンパンジーとは、一般に言われるチンパンジーである)


 『つまり、ビーリャの単位集団もミナミチンパンジー同様にオスによって継承され、メスが移籍する父系的集団である。ミナミチンパンジーでは、経産のメスも発情するとしばしば所属単位集団を変えるが、ビーリャの経産メスは安定した存在である。

 ビーリャのメスは、初発情後、単位集団間を往復しはじめ、初産(13歳以降)までに所属集団を決定するようだ。

 そして「嫁入り」はただ一回しかなく、そこを終生の住みかとするらしい。これでミナミチンパンジーとピグミーチンパンジーはともに父系的傾向を持つことが明らかになったのである。』(ビーリャとピグミーチンパンジーとは、同じと考えて差し支えない)


 『何にも増して性行動ほどビーリャの世界を特徴づけているものはない。そのシンボルが、あの巨大なピンクの性器である。暗い森の中でこれほど目立つものはない。また、高木に登ればこれほど光に美しく映えるものはない。

 しかも、それだけで一頭一頭が識別できるほどに個性的な形状をしているのである。一方、オスのほうはといえば、暗い森中では姿、形さえさだかではなく、光を浴びてやっと顔と性器が判別するのである。

 メスはいわば見せる者であり、オスは見る者なのだ。ビーリャのメスは、ニホンザルのように、発情していてもそれとわかるような匂いはしない。また「恋鳴き」といったものもしないし、通常の声もオスのそれとそう変わらない。ビーリャの性は視覚的なのである。』


 『出産後、ゴリラでは二、三年間、ナミチンパンジーでは、三、四年間、そのメスは発情しない。彼女たちは発情を再開すると、一ヵ月あまりの月経周期のうち、ゴリラで一日から数日、ナミチンパージーで一、二週間の発情を繰り返す。

 ところが彼女たちの多くはそれを二、三回も繰り返すと妊娠してしまい、再び長い性的不活性な期間を迎えるのだ。彼女たちにとって、発情とは完全に非日常的なできごとなのである。

 ところが、ビーリャのメスは出産後一年以内に発情を再開する。奇妙なことに、彼女たちはいくら交尾しても子供が五、六歳にならないと妊娠しない(平均出産間隔は約六年、最短例で約三年)。

 再開後最初の発情は一週間ほどしか続かないが、そのうちだんだん長期化して二、三週間以上も継続するようになる。子どもが四、五歳以上になると、発情を示す性皮は一ヵ月以上腫れっぱなしというメスが少なくない。

 若いメスははじめのころの性皮は小さいが、それでもよくもてる。先に述べた移籍メスのアエイは、湯のみ茶碗ほどの性皮だったが、みんなこぞって求愛した。ナミチンパンジーのオスはこんな若いメスは相手にせず、経産メスによく求愛するらしい。妙な対照である。

 若いメスはいくら交尾しても、十三歳ごろまでは妊娠しない。この不妊性が彼女たちの性的能力を保持させ、移籍先のあらゆる個体と親和的関係を取り結ぶ時間を保証する。彼女はその間に、さらに他の集団に移ってもよいのである。

 メスの不妊にはオスも一役買っているらしい。交尾で射精が確認できるケースはまれで、数度の交尾を繰り返してもペニスが立ったままということが多い。

 オス、メス双方にとって、大部分の交尾は生殖とは関係なく、ただ両者を結びつけるのに役立っている行為だと考えてよいだろう。』(第22回)