この作品がデビュー作だという”中国の若き天才”グー・シャオガン監督はこの映画について、”現代の山水絵巻のように、彼らの人生がゆっくりとスクリーンに広がる、そんな映画を作りたいと思いました”と語っているが、その言葉通り、まるで一級の水墨画を見るように、心が静かに慰められ、自然の美しさと人の営みに心が暖かくなる映像であった。
中国杭州・富陽(ふーやん)を舞台としたこの映画には、街を流れる大河・富春江の四季折々の様子や、緑深い山に延々と続く階段や、雪の降る川辺の風景などの映像が、まるでそれ自体が主役のように丁寧に描かれ、そこに暮らす家族の時の流れに重なる。
街の再開発に揺れる一族それぞれーーー料理店を継いでいる長男、川で漁をしながら船で暮らす次男、ダウン症の息子と二人で暮らしながら道を踏み外していく三男、まだ結婚相手が決まらずにいる四男。家長である母の誕生日の祝宴に集まった4人の息子と長男、次男の妻たち。その祝宴の場で母が倒れることから話は始まる。。。。
圧倒的に迫るのが、大河・富春江の様子だ。
長男の娘の恋人が大河・富春江を泳ぐ様子を何分間にも及ぶシーンでは、川辺に並ぶ大木の枝葉がたっぷりと川面に覆いかぶる様子に時間の深さを見る思い。あるいは、四男がお見合いをした女性と語る何気ないシーンに映る花のさりげない美しさ。認知症のために行方不明になった母が河に漂う舟の中で眠る、まるで彼岸への旅を思わせるように幻想的な映像。。
”山水画に着想を得たという横移動の長回しの絵巻”に悠久の中国文化と民衆の逞しさのエッセンスが凝縮されているよう。社会や世界がどのように変わろうとも、緑や水と共存している限り、人は簡単には崩れないのかもしれないと思った。
何気ないように見えるシーンに映る花が美しい。
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