久しぶりにズシリと読み応えのある重量級の新刊だった。構想30年に及ぶというのも素直に頷けるほどの力作。
第二次大戦中「神風特攻隊」の基地だった鹿児島県の海上自衛隊鹿屋航空基地。
ここにはかっての特攻隊員たちの遺書や遺影、遺品などが展示されており、子供たちの生きた社会勉強のひとつとして全国各地の修学旅行生がひきもきらないところ。
あるとき、そういう修学旅行生のうちの一人の中学生の女の子が特攻隊員たちの遺影の1枚を凝視して「おじいちゃん」と呼びかけた。
ここから物語が大きく展開していく。
ここに飾られているはずの遺影はどれも20歳前後の若い特攻隊員のものばかりで既に全員亡くなっているという大前提がある。
にもかかわらず女の子が「おじいちゃん」と呼びかけたことは、もしや今でも生存している可能性が・・。
当時、片道の燃料しか持たされず出撃していった特攻隊員たちは単に戻ってこないというだけで、いわば死体を確認されないまま戦死と見なされた。
しかし、出撃したもののうち、何らかの事情で生き残っているものがもしかしているのではないか。不時着、あるいは自分の意思によって引き返したり・・・。
もちろん、不名誉な話なので本人が名乗り出るわけがない。
主人公で独身の雪島は有名テレビ局のディレクター。1995年8月の終戦50周年の記念番組にちなんで生涯をかけた作品の企画を練っていた。
この話を聞き及んだ雪島は「人間の本質を問うヒューマンドラマに」との視点からストーリーを組み立て、当の本人を何とか捜し出して番組に出演してもらうことに狂奔する。
同時並行的に、雪島と人妻との不倫模様が進行してのっぴきならない深みにはまっていく。
「失楽園」〔渡辺淳一著)クラスとまではいかないが、かなりきわどい「描写」が最初の頁を皮切りにところどころにある。
「えっ、これがあの”リング”や”らせん”の著者の鈴木光司さん?文壇で一、二を争う教育パパで有名な作家だが、ここまで書くんだっけ」と思うほどに大胆。
著者の狙いとして「特攻」という命の極限を扱ったテーマと「エロス」とを意識的に対比させたのだろうが、この重いテーマに「不倫」を絡める必要が果たしてあったのかどうか、賛否両論あるところだろう。自分はやや否定的な立場を採る。
それはさておき、最終段階にさしかかった番組のゴーサインを決めるテレビ局の企画会議で明かされる「消えた特攻隊員」の衝撃的な真相には誰もが驚かされるのは必定。
これは立派なミステリーだと断言してもいいくらいの意外性に富んでいる。
また「歴史を知らない民族は滅びる」という。「特攻の歴史」は日本民族のすべてに永遠に語り継がねばならない事柄だと思う。
ネットによると「日本人は今も昔も本質的に変わっていない」が本書を通じての著者の主張だそうだ。
分厚いので読み終えるのに結構時間がかかるがひとつ根気試しにチャレンジされてはいかが~。