3月にNHKBSハイで放映されていた「私の一冊 日本の百冊」は本好きにはこたえられない番組だった。
各界で活躍する著名人それぞれが「心に持つ特別な”一冊”を熱っぽく語る」のもとに一人20分程度の時間で順次紹介していくもの。
もちろん音楽の場合と同じで、好きな曲目も人それぞれに広範に亘っており好き嫌いはつきもので「エッ、こんな本のどこがいいの」といった本もあることはあったが全体的に興味深く拝見した。
とりわけピッタリきたのは作家の北方謙三氏の「李稜」(中島 敦著)についての感想で「この本はできるだけ言葉を少なくし直截的な表現を避けて文章の行間に主人公たちの痛切な思いを込めている」というもの。これは文豪ヘミングウェイの文体に共通するものだそうだ。
「行間から登場人物の意を巧みに読みとらせて読者のイメージを際限なくふくらませる」なんてことは作家として究極の手腕ではなかろうか、な~んて。
自分に言わせてもらうと、これはモーツァルトの作品と同じで彼の音楽にはムダをそぎ落とした数少ない音符の中に無限の宇宙があってこれに相通じるものがあるように思う。
「シンプル・イズ・ベスト」は人間の生き方をはじめいろんな「ものごと」に共通するもので、自分の趣味で言えば「オーディオ」「魚釣りの仕掛け」なんかにも「シンプルさ、素朴さ」の中におうおうにして「最高の機能」を見出すことがある。
さて、もう一冊印象に残ったのが唐沢俊一(作家)氏が推す「檀流クッキング」。
数ある料理本の中では極め付きの一冊だそうで、著者は作家の「檀 一雄」氏(故人)。女優にしては珍しく気品があって知的な雰囲気を持つあの「檀 ふみ」さんのお父上である。
唐沢氏の表現が実に適切なのでそっくりお借りしよう。
「男の料理本、最高峰!食べるということは人生そのものだ。とにかく楽しく細かいことにこだわらないのが檀流。手順を書いてあるだけなのに料理の一つひとつに檀さんの人生がシンクロしてくる。僕も自分が作り食べてきた料理っていうものを書き残しておいて次の世代に食べてもらいたい、そんな気にさせられる本です」。
番組の中では、「豚のレバーとニラいため」が紹介されていたが、これが実においしそう。
こういう本はずっと手元に置いて読みたいのでさすがに図書館で借りて読むというわけにもいかず早速、市内の書店を2~3軒回ったが地方の悲しさでいかんせん在庫が貧弱でまるで見当たらない。
仕方なくネットのアマゾンで検索し注文した。「檀流クッキング」を購入する人は同じ著者の「美味放浪記」も合わせて読まねばということがネット情報で見かけたので同時に発注。
いずれも「中公文庫」だが、それぞれ3日ほどで自宅に到着した。これからじっくり読んで檀さんの料理を見よう見真似でチャレンジしてみる積もり。
最後に檀さん流の「豚のレバーとニラいため」の料理法を紹介しておこう。
「豚のレバー200グラムばかりを食べよい大きさにザクザク切って、10分くらい水につける。血抜きをするわけだ。その肝臓の水を切り、お茶碗かドンブリに入れて、ニンニクトショウガを少しばかりおろし込み、お醤油を少々、お酒を少々振りかけて20分ばかりほったらかす。下味をつけるわけだ。
さて、中華鍋の中にラードを強く熱し、レバーにカタクリ粉を振りかけて指で混ぜ、煙をあげる中華鍋の中に放り込む。レバーの表面が焼けて火が通った頃、ザクザク切ったニラを放り込んで一緒に混ぜる。ニラがシンナリしかかった頃、醤油を大匙一杯、鍋の中に入れる。醤油がからみついた時に火をとめる。強い日で手早くやるほど、おいしいはずだ。」
調味料が「カップ半分」とかいろいろと細かいことを指定しないのがいいところで、豪快そのものでかつ野性味があってホントに食べたくなる。
改めて人生において「食べる」ということの意義を問い質したくなる本だ。