あくまでも、好みの範囲内に過ぎないのだが魔笛演奏の評価の基準となったのは、やはり、歌手の歌唱力が一番でそのほかには劇の進行のリズムとテンポ、「演奏、歌声、台詞」のバランスなどだが、結局、21セット中総合A+は次の4セットだった。
☆♯5 ベーム盤(1955年)
ベーム指揮のもとでウィーンフィルが実に良く鳴っており、約50年も前なのにデッカの録音は実に聴きやすい。解像力は別にしても包み込むような豊かさを感じさせ、どこまでもイメージを広げてくれる魔笛である。この盤を聴くと故郷に戻ったようでほっとする。
☆♯10 サバリッシュ盤(1972年)
ペーター・シュライアーをはじめ、歌手陣の粒がそろっており、伸び伸びと実力をフルに発揮した印象。荘厳さ、華麗さ、情熱、メルヘン・・・。全ての要素が感じられる魔笛。
☆♯12 ハイティンク盤(1981年)
全ての科目でまんべんなく高得点を重ねる印象。優等生タイプで心が温かくなる穏やかな魔笛。グルベローヴァをはじめ歌手陣も高い水準。録音も秀逸でバランスがとれている。
☆♯13 デービス盤(1984年)
雄大なスケールのもとで、正統派、本格派といった言葉がピッタリする魔笛。シュライアーをはじめ歌手陣の充実度も十分で、特に主役のタミーノ役とパミーナ役の相性が抜群で欠点が何ら見当たらない魔笛。
しかし、総合A+に近年の古楽器使用の魔笛が入っていないのは少し残念。クリスティ指揮は洗練の極みでいい線をいっているのだがやや肌触りが冷たすぎる気がする。それと1964年のベーム盤は不世出のテノール歌手ヴンダーリッヒの貴重な遺産として記憶に残る。
次に夢のベストメンバーとして個別のA+評価を列挙してみよう。
指揮者(4名)
☆カール・ベーム ☆ウォルフガング・サバリッシュ ☆ベルナルト・ハイティンク ☆コリン・デービス
管弦楽団(2)
☆ウィーン・フィルハーモニー ☆ベルリン・フィルハーモニー
ザラストロ役(2名)~バス~
☆ヨーゼフ・グラインドル(フリッチャイ盤、カイルベルト盤)☆ルネ・パーペ(アバド盤)
夜の女王役(6名)~コロラトゥーラ・ソプラノ~
☆ロバータ・ピータース(ベーム1955年盤) ☆クリスティーナ・ドイテコム(ショルティ盤1969) ☆エディタ・グルベローヴァ(ハイティンク盤、アーノンク-ル盤) ☆チェリル・スチューダー(マリナー盤) ☆ナタリー・デッセイ(クリスティ盤) ☆シンディア・ジーデン(ガーディナー盤)
タミーノ役(4名)~テノール~
☆ヘルゲ・ロスヴェンゲ(ビーチャム盤) ☆アントン・デルモータ(カラヤン盤1950年) ☆フリッツ・ヴンダーリッヒ(ベーム盤1964年盤) ☆ペーター・シュライアー(サバリッシュ盤、スイトナー盤、デービス盤)
パミーナ役(9名)~ソプラノ~
☆テレサ・スティヒ・ランダル(カイルベルト盤) ☆ヒルデ・ギューデン(ベーム盤) ☆グゥンドラ・ヤノヴィッツ(クレンパラー盤) ☆ヘレン・ドーナト(スイチナー盤) ☆マーガレット・プライス(デービス盤) ☆エディット・マティス(カラヤン盤1980) ☆バーバラ・ボニー(アーノンクール盤、エストマン盤) ☆ローザ・マニオン(クリスティ盤)
☆クリスティアーネ・エルツェ(ガーディナー盤)
パパゲーノ役(2名)~バリトン~
☆ゲルハルド・ヒッシュ(ビーチャム盤) ☆ワルター・ベリー(ベーム盤1955年、クレンペラー盤、サバリッシュ盤)
以上の結果は自分の好みを反映しているに過ぎないが、こうやって見てみると、男性歌手に対して辛い評価になってしまった。
特にザラストラ役の本格的な超低音は極めて難度が高く夜の女王役のコロラトゥーラの比ではないようで、その意味で現役のルネ・パーペ(アバド盤)は貴重な存在だ。
また、このオペラの主役中の主役であるタミーノ役がペーター・シュライアー以降、人を得ていないのも近年の魔笛を寂しいものにしている。
21セットのCD盤