2007年9月28日(金)付けの朝刊では、一面トップの見出しでミャンマー軍事政権が反政府デモを封じ込める武力弾圧を一段と強化し僧侶1500人以上を拘束するとともに、集まった市民らを自動小銃などで強制排除したと報道。
少なくとも10人が死亡し、そのうち1名は残念なことに日本の報道カメラマンが流れ弾に当たって死亡したとのことで同胞として実に悼ましい出来事。
そもそも、今どきのアジアで軍事独裁政権が存続していること自体が不思議だし、しかも国際世論を無視してこのような強圧的な姿勢を取れるだけの背景があるはずだと思っていたら、タイミングよく「世界新資源戦争」(2007年7月9日、阪急コミュニケーションズ刊、著者:宮崎正弘)にその大きな理由が掲載されていた(96頁~99頁)。要約すると次のとおり。
孤立するミャンマーの現実。日本があれほど独立に貢献し親日感情があふれるミャンマーの軍事政権は「反米」であり、米国主導で経済制裁がなされているが、それにもかかわらず今のところ経済繁栄を謳歌している。
なぜか?。
それは中国、タイ、インド、ロシアが逆に支援しているからで、理由は資源外交にある。ミャンマー沖合いに噴出する天然ガスは世界第10位の埋蔵があるというが、この開発権を中国とインドが抑え、次いでロシアが同国内の地区の石油とガス鉱区開発の権利を抑えこんだ。
いずれも国連のミャンマー制裁決議に反対するか棄権した国々である。
このうち中国の関与が際立っているようで上述したガスの開発権とともに中東からの石油をミャンマーに陸揚げし、南北に縦断して中国雲南省に達するパイプラインを現在建設中である。
しかし、「中国の経済植民地」といわれるミャンマーも国際的なバランス感覚には富んでおり、もう一つの峻険な山岳地帯を西へ通過させるパイプラインの敷設権をインド資本に与えている。
こうして中国とインドを意図的に競わせる状況の中に強引に割り込んできたのがロシア。武器輸出を交換条件にオフショア地区の石油、ガス鉱区権を得た。
しかも、これらに加えてメコン・デルタ流域の経済的覇者である隣国タイも黙ってはおらずミャンマーへの経済投資額1位を占めている。
こうした巧みな資源外交を後ろ楯にして、ミャンマーの軍事政権は存続し、国内反政府勢力に対して強硬な態度で臨んでいるというわけ。
同日(28日)付の夕刊では、米が追加制裁として「ミャンマー軍事政権幹部14人の米国内にある資産凍結と取引停止」を発表したが果たしてどこまで効果があるのだろうか。
「石油の一滴は血の一滴」にならって過去の争いの歴史が現在でも深く潜行した形で繰り返されている。ミャンマーの例はほんの一例にすぎず、世界中で石油、ガス、ウランなどのエネルギー源を求めて国際間の熾烈な戦いが行われている。
したがって、すべての国際社会のバランスは資源の獲得競争というフィルターを透すと真相が見えてくる仕組みになっており、イラク戦争もしかりである。
本書の副題は「中国、ロシアが狙う新・覇権」となっているが、国土も人口も桁はずれな大国「中国、ロシア」の傍若無人な資源外交の展開を詳しく分析しており、新たな視点から見た最新の国際情勢に触れる思いがした。構成は次のとおり。
プロローグ 欧米メジャーの凋落、中露イランの勃興
第1章 プーチンのロシアは資源株式会社
第2章 ”資源爆食怪獣”中国の迷走
第3章 資源国の反米包囲網
第4章 日本を巡る資源戦争
第5章 パイプラインの国際政治学
第6章 中国エネルギー外交の限界
エピローグ 日本の資源戦略を論ず
本書を読んだ後に、石油、ガス、ウランなどのエネルギーに替わって、環境と調和し誰もが利用できる新しいエネルギーの創造が可能になったときに初めて人類は真の平和を手に入れることができるのかもとしばし考えさせられた。
なお、資源戦争で連戦連敗の日本については一貫して悲観的かつ閉塞的な著述だが一筋の光明を見出す貴重な提言が最後に記されていた。
「アジアにおける資源戦争の元凶は中国だが、省エネと環境技術で世界一の日本の技術供与なくして今後の中国は立ち行かない。この切り札をどのように有効に行使していくのか、日本の長期戦略が喫緊事である。」とのことだった。